第112話 燃えよ、ファイヤーボール! なのだ その二
あーもー、わたしって、なんてバカなんだーっ!
そう叫び出したい気持ちを必死に抑え、このあとの対策を練る。
練る、練る、練る……。
ね……。
ダメだ。なにも思いつかない。
諦めて、大の字に寝っ転がって空を見上げる。
高いところにいるせいか、頬に当たる風が心地よい。
——青空のばっきゃやろーっ!
でもその時、目の端に映ったのは、屋根の上に見つけた妙なへこみ。
なんだ? なにがあるんだ、あそこに?
さっき見た、捜索隊のものだろうか。近付いてくる声に警戒しながら、そのへこみに匍匐前身で近寄るわたし。
良く見れば、屋根の上、あっちにもこっちにも、へこみは規則正しく並んでいる。
そろそろとへこみに近付いて、中をそっと覗き込めば……。
おおっ、これは天窓ではないかっ?!
昨日までの長雨のお陰で、窓の土埃は、きれいに洗い流されいて、中が良く見える。
おー、ロフトみたいな中二階がある構造なのか。ここから入れば、すぐそこに降りることができそうだな。
鍵が掛かっていないことを祈りながら、その天窓を、そっと持ち上げてみる。
開くっ! 開くぞ、こいつ!
天窓なだけに、全開という訳にはいかないけれど、このくらい開いてくれたら、わたしなら余裕で潜り込めるよ。
だって、わたしときたら、体型的に引っ掛かるところ、あんまりないからね。
うう。自分で言っておきながら、なんだか寂しい気分になっちゃったよ。
言っとくけど、わたしのはスリム! とか、スレンダー!
とか呼ばれるものなんだからね。貧乳とか言わないでよ。
その時思い浮かべていたのは、元いた世界で仲の良かった友達の顔だ。
彼女たちは、揃いも揃って、女性らしい豊かな胸の持ち主だったのだ。
あの頃のわたしは、自分だけ、みんなよりも少し平たいかなとか思ってはいたけれど、別にコンプレックスなんかはなかったし、気にしたこともなかった。
何故、今この時になって、胸が豊かな友達を、少しだけ羨ましく思い浮かべたのか。
それは、自分でも良く分からないけれど、きっと「わたしも頑張っているよ」と彼女たちに伝えたかったのかもしれない。
それもまた、ちょっと違う気はするんだけど、友達が自分を応援してくれたような気分になって、やる気が出たのは確かだ。
わたしは、足の方から、じりじりと窓の開いた隙間にこの身を差し込む。腰まで入ったところで、一気に床まで飛び降りてみた。
よっこらせっと。
かくして、謎の物置風な建物に潜り込むことに成功したわたしは、この窮地を脱するために役立つようなものが何かないかと辺りを伺ってみた。
ここは事務室みたいなものかな。書き物をする時に使うらしき机やイスが幾つか。
机の上には、帳簿らしきものが置いてある。これは在庫の記録かな。
そっと階下を見下ろせば、樽とか、何かが入っている大きな袋なんかが幾つも積んであった。
薪なんかもたくさん積み上げてあったし、ここは保存の利く食料品を保管する食料庫かなんかなんだろう。
物置のようだと思ったわたしの見立ては、あながち間違いでもなかったようだ。
それにしても、大きいな、ここ。『炎の剣亭』の食料庫より、ずっと立派だ。
というか、この建物だけで、下手したら『炎の剣亭』より大きいかも。
これだから、ブルジョアのお貴族様は。まったくもって、やれやれだぜ。
でもきっと、月末になったら棚卸しなんかで大変なんだろうな。
良かった。『炎の剣亭』が、わたしの手に余るほど大きな規模のお店じゃなくって。
そして気になったのは、机やイスの他に、簡易的なベッドまで備わっていたことだった。
これは、いったいなんのために、誰のためのものだろう。
まさか、ジェイムズ氏が、目を付けた侍女の方とコトに及ぶため?
「うえへっへっへ。わかっているな、ここへ呼び出したのは
「……はい……」
ううっ、美少女メイドの運命やいかに。
いやいや、まさかね。
第一、ジェイムズ氏がそんなコトをするんだったら、こんなトコではしないだろう。
おそらくは、母屋であるところの、あっちのお屋敷内にある自分の部屋に呼び出すはずだ。
とするなら、使用人の皆様が逢い引きをするためだろうか。
同じお屋敷で、お互いにお勤めに励むうちに、そこに愛が芽生えて、夜な夜な別のお勤めに励んじゃったりして。
「ああ、ロミ男(仮名)、会いたかったわ」
「おお、ジュリ子(仮名)、僕もだよ」
なんちゃって。
そんなことはない。
これは、この倉庫での仕事に従事する方が仮眠するためのものなのだ。たぶん。
おっちゃんだって、昼下がりにには、夜の営業に備えて、長めのお昼休みと共にお昼寝なんかしたりするのだ。
この国の働く皆さんには、そんな風に午睡の習慣があるのだろう。
場違いなベッドがあったって、別に不思議でもなんでもないのだ。
それにしたって、わたしはジェイムズ氏に偏見を抱いき過ぎだと、我ながら思う。
強引そうな雰囲気であるとか、成金そうな風体であるとか、お屋敷の調度品や、服の趣味の悪いとか。
確かに、ジェイムズ氏は好きになれないタイプではあるけれど、別に悪人という訳でもない。
ただ単に、いろいろと勘違いしているだけなのだ。
勘違いといえば、ハルマン氏だって勘違いしているけれど、彼については、特に思うところは何もない。
時代劇に出て来る、ハラにイチモツを含んだ悪徳代官みたいな顔だけど、意外にも良い人そうだった。
ご馳走してくれたお夕飯も、地味だったけれど、とっても美味しかったし。
部下の黒服一号も実直そうな方だったし、人違いとはいっても、招き方に強引なところもなかった。
おまけに、あのご招待されたお屋敷は日本の古民家のようで、事前にわたしの趣味を調べていたのかな、と思えるほどであった。
わたしは、階下に通じる急な階段(というか、ほとんど梯子だね、これは)を降りながらながら、気を引き締める。
益体もつかない、趣味の妄想を繰り広げている場合ではないのだ。もちろん、この国の宰相たちの人柄を考察している場合でもない。
わたしには新しい
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