第30話 ただ今の決まり手は、小手。なのだ【後編】
「いえ、これを付けていると各種の
ははっ、そうだよね。わたしったら、何を考えてんだろう。
でも、もしやこれは『力の指輪』とか、そんな感じのものなんだろうか。
「ミヅキさんは、魔力だけは高そうなのですよ」
ふむふむ。歴代の聖人様がそうであったように、わたしもまた魔力を多量に持っているそうだ。
しかも、記録によれば聖人様方は、召還後ほどなく自らの魔力によって肉体年齢が全盛期同様に若返るというのだ。
なにその、強くてニューゲーム。
今のところ、聖人様と違ってチートな魔法が発現していないのが残念だけど。
でもって、これ以上若返ったら子どもに戻っちゃうんだけど。
はー、要するにわたしは無駄に元気ってことかー。
それでも、この指輪は余分な魔力を吸い取って、何か不思議な力に変えて使用者を守ってくれるそうなのだ。
おおっ、素晴らしい。そんな貴重な
ええっ? しかも、これってマティアスくんの手作りなの?! さすが宮廷魔導士筆頭だ。ありがとう。大切にするよ。
そんなこんなで、贈られたメイド服と不思議な指輪を得意毛をぼうぼうに生やかしてして装備。『炎の剣亭』に出勤したら、あれだよ。
くーっ、今思い出しても、なんか悔しい。そんなんで、いいのか? おっちゃん!
この悔しさはマティアスくんにぶつけてやるーっ。許せ、マティアスくん。わたしたち、トモダチだよね。
と思っていたんだけど、よく考えたら、この時間にマティアスくんがドコにいるのか、わたしは知らなかったのでした。
そこで、この騎士様の修練場ですよ。
ルドルフさんを尋ねたわたしは、彼の手が空くまで、少年たちが倒けつ転びつ、泥に汚れ頑張っている姿を楽しんでいたのだ。
つい、さっきまでは。
今、わたしは、手頃な両手剣型の木剣を構え、騎士見習いの少年たちの相手をしているところなのだ。
少しだけ手隙になったルドルフさんと、ちょっとだけ立ち話をしていたら、いつの間にかこんなコトになってしまった。
ふっふっふ。だが、わたしは元剣道部。既に四人抜きを達成している。決まり手は、全て小手。
次の相手は誰かなー。さあ、掛かって来るが良い。お相手してしんぜよう。
わたしは幼少のみぎりから、身体を鍛える名目で、近所の道場にちびっ子剣士として通っていたのだ。
小学校卒業と同時に道場通いは辞めてしまったけれど、高校に上がったら部活に剣道部があったので迷わず入部。
古式ゆかしい、伝統だけはある女子校の剣道部は、部員も少なくて入部してから約一年で廃部。長年のライバルでもあった、薙刀部に吸収合併されてしまった。
最後まで残った友達と二人で頑張ったんだけどな。あの時は本当に残念だったよ。
そういった訳で、剣を振るうのは久し振りだけど、まだまだ腕は鈍ってはいないようだな。
わたしは、あんまり背の高い方じゃないし、
年下とはいえ、わたしなんかより、ずっと背の高い少年たちの面を取りに行くのは得策じゃない。
素早さを生かして、相手が動こうとした瞬間を狙い、相手の懐に入るように小手を打ち込む。動いてからではないよ。動こうとした瞬間。これを読むのが大事。
小手なんて、地味な技と言うなかれ。もしも、わたしの握っているのが真剣ならば、敵の刀を手首ごと叩き切る、という恐ろしい技なのだよ、これは。ふっふっふ。
ふと気がつくと、周りの騎士見習いのみんなは手を止めて、わたしたちの試合に見入っている。
普段のわたしならば恥ずかしがるところだけど、今のわたしは剣士モード。気になるのは、相手の動きだけだ。
わたしは、すっと中段の構えをとる。かっこ良く言うと正眼の構えってやつだな。
この構え自体、こっちじゃ珍しいみたいでやりにくいようだね。
でも容赦はしないよ。剣先を、すっと下げて相手の動きを誘ってみたりして。
と、少年は、素早く動いた。わたしでも読み切れないほどの早さで。
しかも突進してきたのではない。その場から、わたし目掛けて天高く跳んだのだ。
わたしと、騎士見習いの少年少女たちの真昼の決闘。
絶体絶命のピンチだ。さあ、どうするんだ、わたし。勝てるのか、わたし。頑張れ、わたし。
しかし次の瞬間、その勝負の行方はあっさりと決まったのでした。
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