第27話 わたしたちの戦いは、まだ始まったばかり?! なのだ
勝負に使ったキャベツは、あとでわたしたちが美味しくいただきました。
キャベツばかりではない。実はタマネギも用意してあった。
『地獄の三番勝負』を謳っておきながら、最初の『キャベツの千切り対決』でおっちゃんが負けを認めたからね。
わたしの持ち込んだ食材のうち、キャベツはもちろんのこと、二番目の勝負で使おうと思っていたタマネギも、その場で食べてしまったのだ。
ちなみに二番目の勝負は『タマネギのみじん切り対決』。三番目は『ベーコンの超薄切り対決』を予定していた。
いずれも、おっちゃんの大雑把、いや豪快で漢らしい気質や、どうやら目が悪いらしいことに着目した、わたしを勝利に導くためのメニューだったのだが。
実行されなくて残念だ。今更ながらというものだけど、本来は三番目の勝負には『小魚の三枚おろし勝負』というものを考えていたのだ。
小さい魚をおろすのは大変だからね。おっちゃん四苦八苦。わたしの大勝利。なんていう、えげつないシナリオを描いていたのだ。
しかし、この町は海からは遠いらしい。町中で鮮魚の類いを見つけられなかったのだ。見つけたのは、元の世界で言う干物に近いものばかり。
でも存外、それが美味しそうだったのだ。特に丸いっこいアジみたいなやつとか、長細いサンマのようなものとか。
お給料が出たら、ぜひあれらを購入したいものだ。でもって七輪で炭火焼にして、焼けた端から食べていきたい。
できれば大根おろしにお醤油を一たらし。それにスダチかなんかを、きゅっと絞って……。
そうなるとご飯もいただきたい。炊きたてのふっくらご飯。
思わずヨダレをたらしそうになって、はっと我に返る。
わたしときたら、家族でもなく、友達のことでもなく、食べるもののことで元の世界を懐かしむなんて。
ちょっと、はしたなかった。ごめんなさい。乙女の風上にも置けないね。
それにしても、うーん。なんでもかんでもバッグに入れてきたせいで、バッグからは美味しそうな匂いがするー。
ベーコンだけは、ネーナさんに手配を頼んでおいて良かったよ。
くんくんと、バッグに鼻を突っ込んで臭っているわたしを、気遣わし気に見守ってくれるネーナさん。足を向けて寝られません。
バッグの消臭のことは、あとでネーナさんに騎士団秘伝の洗濯法を教えてもらおう。
そういう訳で、大量のキャベツの千切りはサラダにして、タマネギはおっちゃんが調理して、みんなに振る舞われたのだ。
ベーコンは王室御用達の高級品だったようで、こっそりと独り占めしようとしていたおっちゃんはネーナさんに叱られていた。
わっはっは。おっちゃんって根っからの悪ガキ体質なのか? ちょっと可愛いじゃないか。
そんなおっちゃんが作ってくれたのは……、これはなんだ?
高級ベーコンは惜しげもなく大きめな角切りに。タマネギも、やっぱりざく切りに。貴重だと聞いていた黒胡椒の粗挽きも使用してある気配。
そして、このおっちゃん提供のジャガイモっぽいものはなんだろう? うん、食べてみても、やっぱりジャガイモの味がする。
とすれば、これは元の世界で言う『ジャーマン・ポテト』ではないか?!
ふむふむふむ。
キャベツやタマネギのみならず、ジャガイモまであるのなら、探せばサツマイモやトマトなんかの、わたしが好きな野菜もあるのかもしれない。
この異世界にも元の世界と同じ食材があるんだったら、わたしの料理のレパートリーが『炎の剣亭』でも生かせるかもしれない。
ふっふっふ。
わたしが、あまりにも不敵な笑みを浮かべてジャガイモを眺めていたせいか、隣のマティアスくんが少しばかり引いていた。
あー、いえいえ、そんな不穏なことは考えてないよ。この世界にもジャガイモってあるんだなー、とか思ってさ。
「この国で食べられている農作物は、その殆どが、その昔の相飢饉の折りに聖人様によって、もたらされた物のようです」
マティアスくんは額に手を当ると、聖人様の記録を頭の中でたぐり寄せるように、その話を始めるのでした。
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