第16話 凄腕の料理人でもあったのだ

 どうする、どうする?!


 ルドルフさんの話に、ぐっと拳を握り締めて、わたしは聞き入る。


 はっ?! もしやそれが先ほどルドルフさんのおっしゃっていた、火の玉を噴く大型爬虫類だったんですね。


「ヤツの所為で騎士団の中でも負傷者が急増したんだ。死人がでなかったのは不幸中の幸いではあったけどな」


「そうです。僕も随分と怖い思いをしたものです。もともと爬虫類が苦手なものですから、後日になっても夢に出てくるほどでした」


 収束間近と思われた魔獣討伐も、ヤツら特殊個体の出現に頓挫しかけたと思われたその時、一人の勇者が立ち上がった。

 彼は王族専任の護衛騎士であるにも関わらず、騎士団の内外から人材を集め、特殊個体に特化した討伐部隊を立ち上げたのだ。


 よもや、その勇者が、あのおっちゃんだったりして。


「その通りだ。ミヒャエルは騎士団のみならず、荒くれ者揃いの冒険者たちにも顔が利くからな」


「実は、その頃宮廷魔導士になったばかりの僕も彼に連れ去られ……、いえ、メンバーに加わったのですよ」


「もちろん、俺もそのパーティーメンバーだ。ミヒャエルは、真っ先に俺を誘ってくれたんだ」


 ミヒャエルの騎士・冒険者の混成部隊は、次々と各地の特殊個体を討伐して回り、遂にはあの火の玉を噴く大型爬虫類『街道沿いの悪夢』をも討ち取ったのだ。


 討伐を果たして帰ってきたメンバーは、各々序列が大幅に上がり、多大な報償金も得ることとなった。

 ミヒャエル自身も護衛騎士の筆頭となり、第一王女に影のように寄り添い彼女をお守りする栄誉を得た。


「あの時、俺は深手を負って、もうダメだと思ったんだが……。ミヒャエルが俺を庇い、励ましてくれたのさ」


「僕も、いつだって術式の組み上げが完成するまでの間、前衛であるミヒャエルさんに守って頂いて、とても感謝していますよ」


「おおっ、そう言えば、いつだったかは驚いたな。まさかあいつが、あの大きな魔獣を投げ飛ばすとは」


「そうそう、先輩が、あの魔獣を投げ飛ばした時は、さすがの僕も呪文の詠唱を忘れるところでした」


「うむ、今の俺たちがあるのも、ミヒャエルのお陰ということだな」


 その討伐をもって、この国の魔獣災害は一気に収束し、以後の被害件数は例年並みに収まることとなった。隣国との往来も再び盛んになる。

 もともと、隣国の文化に興味のあった第一王女などは、週末毎に隣国を訪れることとなり、遂には隣国の王子に見初められた末、ご成婚の運びとなった。


 お姫様は王子様と末永く幸せに暮らしましたとさ。めでたし、めでたし。

 おっちゃんも、ルドルフさんも、マティアスくんも、みんな無事で、良かった良かった。

 最期におっちゃんが、みんなを庇って死んじゃう展開だったらどうしようかと思ったよ。


「そんな展開だったら、そもそも僕たちはこの場に集っていませんよ」


 ルドルフさんは笑うばかり。マティアスくんが、お約束通りツッコミを入れてくれて安心したよ。

 でもって、おっちゃんって、スゴい人だったんだな。でもなんでそんなスゴい騎士が料理人やってるのだ?


「問題はそこなんですよ。ミヒャエル先輩ときたら、姫様の護衛騎士として最期の任務のあと、いきなり辞めてしまったんですよ」


「そうなのだ。我々には何の相談もなく、突然『定食屋をやるのは、昔からの夢だった』とかなんとか言い出しやがって」


 細かく言えば、ミヒャエル氏は、王女様の結婚を見届けたのち、王女専任の護衛騎士の任を解かれ、再編された騎士団の団長に任命された。

 団長となった彼は、半年ほど新しい騎士団の組織作りに務め、その運営が巧く回り始めた頃、後任にルドルフさんを指名。「定食屋に、オレはなる」と言い残して騎士職を辞した。


 話だけ聞いてると、おっちゃんが騎士を辞める理由が見つからないな。そんなに料理人になりたかったのかな。


「僕には、心当たりがある、と言えばあるんですが……」


「俺には、さっぱりわからん。あれが理由か、と問われたら、そうかもしれん、としか……」


 お二方とも、いつになく歯切れが悪い。せんしちぶな内容でも含んでいるのかな。

 でもなんとなく、おっちゃんのこと、わかってきたぞ。もうちょっと傾向と対策を練ったら勝負を仕掛けよう。


 ふっふっふ、首を洗って待っているがよい。(昨日振り、通算2回目)

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