第14話 ショウガを携えた料理人でもあったのだ
しかし、この食欲をそそる香りはなんだろう。
ものすごく憶えのある、懐かしささえ感じる香り。
ほんの一口、口に運べば、その正体はすぐに分かる。
ショウガだ。
ということは、これはショウガ焼きかっ?!
マイルドな塩だれに、コクのあるショウガの風味を効かせた、ほんの少しだけ濃いめの味付け。
醤油味でないのが残念だけど、そんなことは気にならないくらい美味しいよ、これ。
誰か、丼でご飯を持ってきてくれ。
当たり前だけど、この国の主食は米ではないことだけは確かだ。
大陸の東側では、お米も食べられているみたいだけど、この大陸の主食は小麦を原料としたものらしい。
ショウガはあるけど、お米はないのかな? 醤油もないようだし、味噌なんかもないんだろうな。残念。
でも、ますます気に入った。店も、料理も、ヒゲのおっちゃんも。
明日から通い詰めて、絶対に雇ってもらおう。ふっふっふ、首を洗って待っているのだな。
わたしは挨拶をして、マティアスくんと店を出る。
「ごちそうさまでした。結構なお
店を出て、宿舎の前でマティアスくんとはお別れだ。わたしは女子棟、マティアスくんは男子棟。
「では、ミヅキさん。また明日」
明日も、わたしの就職活動に付き合ってくれるのか。なんていいヤツなんだ、キミは。
「何をおっしゃるんですか。僕たち友達でしょう」
トモダチ、友達。なんて、いい響きだ。ありがとう、マティアスくん。
翌朝、というかもうお昼だよ。
わたしは、マティアスくんの提案に乗って、騎士団の修練場へ向かう。
「まずは団長に相談してみましょう。あの方のことなら、僕よりもずっとお詳しいでしょうから」
うむ、敵と己を知れば、百戦危うからず。というやつだな。
でも、いいのかい。わたしが、あの料理屋で働くってのは。
「あの方のことは僕も信頼しています。今は少し道に迷ってらっしゃるようですが」
ふむ、マティアスくんが信頼しているなら間違いない。
しかし、あの方。とか言うと、悪の組織の裏ボスみたいでかっこいいな。
「ふふっ。裏のボス。あながち間違ってはいないかもしれません」
なんだ、その意味ありげな笑いは。気になるじゃあないか。
などと雑談をしながら歩いてるうちに、騎士団の修練場に着いたよ。
丁度、午前の修練が終わったばかりのようで。騎士の方々がぞろぞろと出入り口へ向かってくる。
みんな、マティアスくんの顔を見ると礼をしてゆく。実は組織内でも大物なのか、キミは。
「ええ、まあ。騎士団の魔導士部隊に出向していたこともありますしね」
おおっ、戦闘魔法やら、治癒魔法までこなすのか? スゴいぞ、マティアスくん。
「はっはっはっは。彼は我が国の誇る天才魔導士『氷のマティアス』だからな」
豪快な笑い声とともにルドルフさんが登場する。
今日は鎧もフル装備ですね。そして得物は槍ですか。かっこいいっ!
「二代目、炎のルドルフとは、俺のことだ」
氷? 炎? もしかするとお仲間に、風の誰それ、とか、大地の
他に、そんな二つ名を持つ者はいない? 我々くらいのもの? そうですか、失礼いたしました。
ときに、二代目ということは初代は誰なんです? かつての聖人様の誰かとか?
「ここで、立ち話もなんだ。俺の部屋にいこう」
重そうな鎧をガシャガシャと鳴らして、わたしたちの先を難なく歩くルドルフさん。
彼のあとを、マティアスくんは優雅に、わたしは置いていかれないように、ちょこちょこと小走りでついてゆく。
着いたのは、城内の一角を占める立派なお屋敷。ではなく、騎士団関連の方が働いている建物でした。
その向かいにはあるのが王立魔法研究所。日頃、マティアスくんたち宮廷魔導士団の方々はここにいるそうな。
そして、ルドルフさんの執務室もまた立派だ。ちゃんとした応接セットまである。
あ、ここに座っていいんですか? では失礼します。うおっと、お尻が沈むぜ。
「俺の席は、こっちだ」
専用の、鎧のまま座ってもびくともしない頑強そうなイスにルドルフさんも腰掛けた。
——さて。
わたしたちの前に座ったルドルフさんが、身を乗り出し、真剣な表情となる。
「我が最良の友にして、最大の
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