第6話 なんと、わたしは聖女となったのだ!

 いやあ、わたしと致しましても、謹んでお断りしたいところなのですが。

 王様への謁見を断ることなんてこと、とってもできないでしょ。

 聖女様として召喚されてはいても、元の世界では一般庶民だったわたしが。


 だから行きましたよ。行きましたともさ。いつだったか、映画で見たことのあるような謁見の間に。

 出入り口付近から壁際には騎士と思しき方々が並び、上座の一番奥まったところに王様はいらっしゃいました。


 こういう時、映画なんかだと王様だけでなく、王妃様から王子様にお姫様。

 場合によっては宰相的な方なんかが、ずらりと並んでおられたりするものですが。

 本日は大半の方がご欠席のようで、それらしき方はお一人だけ。

 しかも、その方の風体は、あまりよろしくない。

 良い人そうに見えながら、腹黒そうな……。

 いえ、見た目で判断しちゃいけませんね。


 ともかく、なんだか内々の者だけで、こぢんまりと開かれた式典のようです。


 でも、昨日のお姫様だけはいらっしゃいました。王様の傍らに。

 遠くからだけど、目が合えば、お姫様は微笑みを返してくださいます。


 相変わらず、お美しい。


 いや、一晩ぶりなだけで、あの時の一回きりしか会ったことないんだけども。

 やっぱり初めての場所は心細い。知っている顔を見ると、ほっとするものさ。


 ついでと言ってはなんだが、あのお髭の騎士様の姿をそれとなく探してみたんだけれど。

 彼は……、いないようようだな。欠席か。意外に冷たいやつだ。わたしのハレの日だというのに。


 とか、なんとかやっているうちに案内役の若者に導かれ、わたしは王様の御前で片膝となり頭を低くします。


 王様、男前だな。


 ハゲてるけど。


 屈強そうな騎士に囲まれても、少しだって見劣りがしない。

 さすがは王様、威厳もたっぷり。庶民のわたしなんて平伏するばかりだ。


「この度は、我らの求めに応じ、よくぞこの世界に参られた」


 おや、この台詞は? どこかで聞いたことがあるぞ。

 ああ、そうか。昨晩お姫様にも言われたんだっけ?


 あれっ、じゃあホントはお姫様からもお言葉を賜る予定だったってこと?

 ああっ、もったいない。あの時、固まってる場合じゃなかった。


 それにしても、王様の話は長い。

 朝礼の校長先生の話ばりに長い。


 こんなにも長いんじゃ、立ち眩みを起こして倒れてしまう者がいるんじゃないか?

 健康優良児だったわたしは、朝礼で倒れたことなんて一度もないけどね。

 倒れるのは、クラスの中でも美少女の誉れ高い方々ばかり。

 いかにも繊細そうな、線の細い彼女たちはパタパタとよく倒れていたものさ。


 そう、倒れるのは繊細そうな美少女たち。わたしは大丈夫。

 あれ、なんか墓穴を掘った気がするけど、深くは考えまい。


 それに、この場にいるのは屈強な騎士団の方々。倒れる心配など逆に失礼だろう。


 おや、待てよ? いるじゃないか、美少女が一人。

 お姫様は大丈夫かな?


「——其方の、今後の活躍を祈っておるぞ」


 あ、終わったのか。王様のお言葉は。

 わたしがいらんこと考えてるうちに。


 その時ちょんちょんと、後ろに控えていた案内役の若者が、わたしの背をつついた。


 なによ。くすぐったいじゃない。

 ああ、何か返事をしないといけないのか。


 こういう時は、何て言えばいいんだ。

 なにせ王様に謁見するなんて、初めてのことだからね。


 御意っ!


 なんか違う。


 有り難き幸せに仕り候……。


 意味、通じないだろうな。


「ありがとうございます。今後ともよろしくお願いいたします」


 結局、顔を上げたわたしは世間知らずな学生にありがちな、そんな凡庸な言葉を返したのでした。


 やっぱりホントに、やめておけば良かったよ……。

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