第30話「腕力Lv99!四天王を斬り伏せろ!」


「気をつけろよ」


「わかってる」


「敵だけじゃなくて、周囲にも注意だ」


「周囲……そうか」


 『傀儡スタボの店員』のスキルは、あくまでも感覚コントロール。

 実際に見えているものとは違う映像で視覚をコントロールされているだけだ。


「このあたりには、気絶してる人間が大勢いる」


「うっかり攻撃が当たらないようにしないと」


 それだけでも、こっちの状況はかなり不利だ。


「場所を変えよう」


 俺たちから見て左手、岐阜駅の駅舎の上には屋根がある。

 そこなら、確実に人はいない。

 見上げると、そこには見慣れた駅舎ではなくメルヘンな雰囲気のピンク色の駅。

 走っているのはピンク色の汽車だ。もちろん、煙もピンク色。


「いくぞ」


 リアンはラフィーを抱えたままで。

 俺たちは駅舎の上に移動した。


<んふふふふふ。私たちはどこでもいいのよぉ?>


 移動する俺たちの後ろを、四天王がついてきた。

 駅舎の屋根の上には俺たち三人と四天王だけ。


<最終決戦、って感じになってきたわねぇ>


 ここへきて、四天王たちの姿が変わった。

 それぞれ、悪魔のような禍々しい姿へ……!


<ところで。そちらの坊ちゃんは、どうして眠らないのかしら?>


 『傀儡甘味屋の女性』が首を傾げている。


「俺?」


<そうそう。昼間、彼女の隣で鼻の下伸ばしてた君よ>


「うるせぇ!」


<どうして私の【甘い夢スラートキフ・スノーフ】が効いていないのかしら?>


「知らん!」


 確かに甘い匂いはするけど、眠くはならない。


(これも、『あの人』のおかげなんだろうか?)


 ──俺を引き戻してくれた、あの人。


<まあいいわぁ。どうせ、すぐ死んじゃうしね!>


 その声を合図に、『傀儡くぐつ』たちが一斉に襲いかかってきた。


 まず俺たちを襲ったのはピンク色のモヤ。

 綿飴みたいなそれが、俺たちの視界をさえぎって。

 そこに襲いかかる紙の刃。


「こっちは後だ」


(まずは『傀儡甘味屋の女性』を倒して、ラフィーを目覚めさせる!)


 他の人も目覚めることになるが、それよりも眠ったままのラフィーを抱えて戦うリスクの方が高い。


 紙の刃をさばきながら、一気にモヤの外に出た。

 そのまま『傀儡図書館の司書』もスルーして、一気に跳躍ちょうやく

 『傀儡甘味屋の女性』との距離を詰める。


 ──ピコン!


----------


アラボラス:魔王の傀儡くぐつ


 魔力:183

 物力:685


 幸運:0


----------


 やっぱり。

 『傀儡甘味屋の女性』はスキルを使いすぎて『魔力』が少ない。

 これだけ大勢の人を眠らせているんだ。当たり前だ。

 これなら、対魔攻撃を一発でも当てられれば倒せる。


 問題は、それを守っている『傀儡映画館の常連客』の方だ。



 ──ピコン!


----------


リベザラク:魔王の傀儡くぐつ


 魔力:659

 物力:502


 幸運:0


----------



 こいつを倒さなきゃ、『傀儡甘味屋の女性』には攻撃できない。


(だけど、こいつの幕は対物攻撃には弱い! たぶん!)


<【映写幕スクリーン】!>


 目の前に四角い幕が展開されるが、構わず突っ込んだ。


「対物攻撃マックス!」


<しばいたれ!>


 ──ザシュッ!!


「斬れた!」


<予想通りや! このまま突っ込め!>


「『明智結季/ステータス/腕力/Lv24・・


 リアンの声。


「【MODモッド】『腕力/Lv99・・』!!」


 両腕に力がみなぎる。


「やれ、明智!」


「うおぉぉぉぉ!!」


 幕を破った勢いのまま、『傀儡甘味屋の女性』に剣を振り下ろす。

 硬質化した皮膚でガードされたが、無駄だ。


「俺の腕力は、Lv99・・なんだよ!」


 ──ザシュッ!!


<ギャー!!>


 『傀儡甘味屋の女性』の叫び声が響いて、傷口から黒いモヤが漏れ出した。


<敵の物力、残り126や! いけるで!>


「対魔攻撃マックス!」


<よっしゃ!>


 『聖剣ハルバッハ』が白い光を帯びて。 


 ──ズバァ!!!!


 返す刀で、腰から肩を斬り上げた。


<ギャー!!!>


 断末魔が俺の耳をつんざく中、『傀儡甘味屋の女性』の両目がギョロッと動いて俺を見た。


<すごいわね、えらいわね。……でも、夢は終わらないわよ?>


「は?」


<さようなら。また、夢で会いましょうね?>


 ──シュウウウウ。


 『傀儡甘味屋の女性』が消えた。


「ラフィーは!?」


 振り返ると、ちょうどピンクのモヤが晴れたところだった。

 リアンが紙の刃の隙をぬって、【燃焼エルサフィ】で焼いたのだろう。


(そんな!)


 ラフィーが、目覚めていない!?


「なんで!?」


<ヒトはね、夢の中がいちばん居心地がいいのよぉ>


 ──ゾクッ!


 背筋が凍るような気配。

 ネットリとした女の声は、俺のすぐ横から聞こえてきた。


「くそっ!」


(気配を感じられなかった!)


 だが、怯えている場合じゃない。


(次は『傀儡図書館の司書』だ!)


 こいつはリアンへの攻撃に集中していて、背中こっち側はガラ空きだ!



 ──ピコン!


----------


ルゼバアル:魔王の傀儡くぐつ


 魔力:548

 物力:372


 幸運:0


----------



 こいつは見た目通りのヒョロヒョロで、物力が高くない。


<主さん! 【神足剣レスベルグ】で決めてまえ!>


(でも、それだと『幸運』の消費が!)


<心配あらへん。間もなくレベルアップや! レベルアップしたら、『幸運』はマックスまで回復するっちゅう『おまけボーナス』や!>


(なるほど!)


 レベルアップすると『幸運』は全回復するのか。

 知らなかった。

 というか。


(なんだよ、そのゲームみたいなシステムは!)


<バランスの中でできる、『神』からの精一杯の援護えんごっちゅうことや!>


(わかんないけど、わかったよ!)



「【神足剣レスベルグ】!」



 神速に加速した俺と『聖剣ハルバッハ』。

 その刃で、『傀儡図書館の司書』を一瞬にして貫いた。


<おやおや。文学的ではありませんね>


「だからなんだよ、文学的って……」


<ふんっ。これだから情緒じょうちょを理解しない若者は……>


 それだけを言い残して、『傀儡図書館の司書』はあっという間に消えてしまった。


「あと2体!」


<その前に! パンパカパーン!>


(やめろ、気が抜ける!)


<せやって、レベルアップしたもん!>


(もん! やめろ!)


<今回は、スキル2つやで! 2つ!>


(それは、ありがたい……!)


<【天槌剣レクトラス】と【烈洸昇華ガーデール・レクタリス】や!>


(どんなスキル、って聞いてる暇はないよな)


<とりあえあず、【烈洸昇華ガーデール・レクタリス】や! 広範囲を光のうずで浄化してまうんや!>


(初めての、広範囲攻撃系!)


<せや!>


 ──ザッ!


 いったん、リアンの近くまで下がる。

 リアンの不安そうな瞳が俺を見上げた。


「明智、ラフィーさんが目覚めない」


「みたいだな」


「あの『傀儡』、殺すなよ」


「む」


「目覚めさせる方法を吐かせる」


「わかった」


(それって、できそうか? 『聖剣ハルバッハ』)


<ほんなら、各個撃破やな>


(広範囲攻撃はお預けか)


<しゃあないやん。リアンねえさんのリクエストや>


(わかってるよ)


 ──ふぅ。


 小さく息を吐いた。

 ここまで、まさに急展開。

 息をつく間もなかったのだから。


(あれ?)


 息を吐いて初めて、その違和感に気がついた。


(何か、大事なことを忘れている気がする)


<大事なこと?>


(うん。大事なことなのに、思い出せない……)


<確かに、なんか、引っかかるなぁ>


ハルバッハお前も、そう思うか?)


<うーん。せやけど、あるじさんの分からんことはワシにも分からんし>


「明智、来るぞ」


 リアンの声で、ハッとして目の前に向き直る。

 2体の『傀儡くぐつ』が、一気に距離をつめてきた。


「肉弾戦か!」


 スキルなんか使わなくても、こいつらは普通に強い。

 肉弾戦に集中されたら、2対1はきつい。


<せやけど、ワシはレベル3や! 負けへんでぇ!!>


 ──ギンッ! ギンッ! ギギンッ!!!!


 2体分の爪攻撃を『聖剣ハルバッハ』で受ける。


(さっきまでより、軽い!)


<素早さが上がっとるんや!>


 ──ギンッ! ギギンッ! ギンッ!!!!


「回転を使え! 訓練を思い出せ!」


 リアンのげきが飛ぶ。


(言われるまでもない!)


 右に回転、爪を受ける。

 反動で左に回転、首を狙ったがこれは受け流された。

 だったら、さらに回転して胴!


 ──ギンッ! ギンッ! ギギンッ!!!!


「そこだ!」


 リアンの声を合図に、俺にも見えた。

 隙が!

 ここなら、決まる!


 ──ザシュッ!


(やった!)


 『傀儡映画館の常連客』の肩に、刃が深く食い込む。


「対魔攻撃マックス!」


 引き抜きながら叫んで、そのまま腹にひと突き。


<ギャー!!!!!!!>


 黒いモヤが立ちのぼって、すぐに消えた。


「あとはお前だけだ!」


<あらぁ。ホントにやられちゃったわねぇ>


 ネットリとした声。

 耳がゾワゾワする。


<でもでもぉ、何か忘れてるんじゃなぁい?>


 ──ドキッ。


 図星だ。

 俺たちは、何か大事なことを忘れている。


 それを、この『傀儡』は知っているんだ。


「何を企んでるんだ」


<んふふふ。もう遅いわ>


「は?」


<チェックメイトよ>





 ──ザシュ。





 静かな音だった。

 だけど、最近の俺には聞き慣れてしまった音。


 ──刃が皮膚を裂き、肉を断つ。あの、音。


 音のした方へ振り返る。


 リアンの腕の中、ラフィーの胸に黒い刀が突き刺さっていた。


 黒い刀を握っているのは……。



「なんで」



 彼女が、ここに……?





「ぜんぶぜんぶ、ユウくんのためだよ?」



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