Ⅳ 倒せ魔王、掴み取れ明日!
第26話「初めてのデート、後をつけてくるな!」
あれから1週間。
俺たち三人の生活は、何も変わらなかった。
びっくりするぐらい、本当に、何も変わらなかったんだ。
学校、バイト、訓練、訓練、訓練、実戦、訓練、学校……。
この繰り返しの中に、『チカちゃんとの
俺とチカちゃんが付き合い始めたことで、ラフィーやリアンの反応がどうなるかビクビクしていたけど。
<そら、
という『
そうだよ。
俺たちは魔王退治に挑む、ただの
と、思っていたんだけど。
(なんで、後ついてきてんだよ!)
日曜日の午後。
なんと、テニス部の練習が休みということで。
俺とチカちゃんは付き合い始めて1回目の『ちゃんとしたデート』に行くことになった。
待ち合わせ場所に向かう俺の後ろを、コソコソとついてくる二つの気配。
もちろん、ラフィーとリアンだ。
隠れているつもりだろうが、ぜんぜん目立っている。
サングラスにトレンチコートは、おかしいだろうが!
もうすぐ夏だぞ!
<
(なんの心配だよ!)
<そらあ、人生初のデートやろ?>
(なんで知ってんだよ!)
<
(やめろ!)
<童貞を恥じる必要はないで。ワシも童貞や!>
(剣ですからね!)
<そらそうやわなぁ! ははははははは!>
なんなんだ、まったく。
『
(あの二人のことは、気づかなかったことにしよう。そうしよう)
ちなみに、待ち合わせ場所は岐阜駅・北口駅前広場歩行者デッキ。
今日は
(映画の後はかき氷を食べて、ぶらぶら歩こう。ちょっと遠いけど、
ない頭を絞って考えてきたプランを、頭の中でシミュレーションする。
(
「ユウくん」
(いっそ、歩いて
「ねえ、ユウくん」
(
「ユウくんってば!」
(岐阜大仏……。いやいや、高校生の初デートで?)
「もう! ユウくん!!」
腕を引かれて、体が揺れた。
パッと意識が戻ると、目の前にはチカちゃんの顔。
あれ、怒ってる?
「何回も呼んだのに!」
「ごめん。考え事してて」
「誰のこと考えてたのよ」
「そりゃ、……チカちゃんのこと、だけ、ど」
「そ、そっか……」
モジモジ。
この1週間、俺たちは全く進歩していない。
二人きりになると、こうしてモジモジしている間に時間が過ぎてしまうのだ。
今日のデートは、それを打破するためのアレなのだ!
「……行こっか」
「うん」
<このヘタレ! 手を! 手を繋がんかい!!!!>
言い方はアレだが、『
ここは、手を繋ぐべきだ。
もちろん、俺から!
──ぎゅ。
思い切って、チカちゃんの手を握った。
チカちゃんは
(嫌がってない。よかった)
今日もチカちゃんは可愛い。
なんか可愛いレースのワンピースに、足元はスニーカー。
髪はいつもとちがって、くるくるした
……男の俺にだってわかる。
いつもより時間をかけて、支度してきてくれたんだ。
(浮かれてるのは、俺だけじゃないってことで良いよな?)
浮かれているんだ。
俺は人生初めてのちゃんとしたデートに、浮かれている。
──映画館。
ロイヤル劇場で昭和名作映画を観た。
「なんや、若いアベックがおるな」
「ゲンさん、ちゃかさないでよ」
「ははは! 昭和の映画はええで!」
常連らしいお客さんに茶化された。
ちょっと恥ずかしいけど、そういう空気も込み込みの映画館なんだろうな。
チカちゃんも恥ずかしそうだけど笑っていた。
「流行りの映画じゃなくてよかった?」
今日の上映は『七人の侍』だ。
初めてのデートで、これ観ちゃう?
「特別なのがいい」
うん。
そりゃもう、特別なのを観ましたよ。
──かき氷。
人気の店だから、大行列だった。
「ごめんねぇ。もうちょっと待っとってねぇ」
「ええよぉ」
「おばちゃん、週末のたんびに
お店のおばさんが行列にペコペコ頭を下げていた。
並んでいる人たちの方が恐縮していて。
どうやら地元のお客さんが多いみたいだ。
並んでいるのに、みんなにこやかだった。
「どうする? 並ぶみたいだけど」
「食べたいな。待ってる時間も、おしゃべりできるし」
うん。
たくさんおしゃべりした後のかき氷は格別だった。
──
「けっこう歩いたな。大丈夫?」
「大丈夫だよ。私、テニス部だよ?」
そういえば、そうだったな。
たくさん歩いて
「本をお探しのときは、こちらの端末で検索できますよ」
「タイトルわからないんですけど、大丈夫ですか?」
「はい。フリーワード検索ができます。それでも見つからなければ、お声がけくださいね」
「ありがとうございます」
親切な司書のお兄さんが、まごついている俺たちに声をかけてくれて。
二人とも、無事に目当ての本を見つけることができた。
「これ、面白いよね」
「こっちもおすすめ」
二人でオススメの本を紹介しあったりして。
うん。
どれもぜんぶ面白そうだから、たくさん借りてしまった。
控えめに言って、最高のデートでした。
……後からついてくる二人さえいなければな!!
「あのさ、ユウくん」
「ん?」
「ちゃんと、二人きりになりたいな」
「……だよな。ごめん」
「別にいいの。だって、親戚なんだもんね? 心配なんだよね?」
もちろん、チカちゃんにもバレバレなんだよなあ。
「じゃあ、ちょっと走ろう」
「走る?」
「ちょっと走って、二人を
「でも、いいの?」
「いいよ。……俺だって、二人きりになりたい」
「うん」
図書館を出たのを合図に、二人で駆け出した。
後ろの二人も慌てて走り出したが、尾行だから追いつくわけにもいかなくて
少し走ると、バス停の前に差し掛かった。
その瞬間、たまたま停まっていたバスのドアが開いた。
「今だ!」
俺はチカちゃんの手を引いて、バスに飛び乗った。
──プシュー。
バスのドアが閉まった向こうで、ラフィーとリアンが目を
(悪いな)
俺は、二人きりでデートを楽しみたいんだ!
俺たち二人は、バスで岐阜駅まで戻った。
駅に着く頃には、すっかり日も沈んでいた。
俺たちは岐阜シティ・タワー43の最上階展望デッキに上がって、夜景を見ることにした。
「きれいだね」
「うん」
「楽しかったね」
「そうだな」
「ユウくん、あのね」
「ん?」
「好きだよ」
「……俺も」
「私、ユウくんのこと大好きなの」
チカちゃんが俺の手をぎゅっと握る。
「だから、ぜんぶユウくんのためだからね」
「チカちゃん?」
「ぜんぶぜんぶ、ユウくんのためなの」
そう言いながら、チカちゃんがバッグの中から何かを取り出した。
風呂敷に包まれたそれは……。
「茶碗?」
デートに茶碗?
普通の茶碗よりちょっと大ぶりなそれは、黒っぽい色。
柄なのか、青色の模様が入っている。
茶碗の中に宇宙が広がっているみたいな、きれいな青。
「何、それ?」
「曜変天目」
「ようへんてんもく?」
知らない単語に首を傾げる俺に、チカちゃんがニコリと笑った。
「ぜんぶ、ユウくんのためだから。……ごめんね」
視界が、真っ暗になった。
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