第15話「失いたくない、だから戦う。俺は『光の勇者』だ!」
俺には怖いものがある。
小2の冬。
その日もいつも通り家に帰って、いつも通り自分で食事を作って、いつも通り母親の帰りを待っていた。
父親は、その時すでに2週間家に帰ってきていなかった。
朝になっても母親は帰ってこなかった。
はじめてのことだった。
夜遊びばかりのクズな母親だったけど。
それでも。
どんなに遅くなっても、いつだって朝までには帰ってきていたのに。
その日は、はじめて学校を休んだ。
次の朝になっても、その次の朝になっても……。
どれだけ待っても、母親は帰ってこなかった。
なにも見たくなくて、なにも聞きたくなくて。
毛布にくるまったのに、進み続ける時計の針の音だけが耳に刺さっていた。
『あんたなんか、産まなければよかった』
母親の
母親がいなくなったのは、俺のせいだ。
俺のことが嫌いだから。
俺のせいで、母親はいなくなった。
それに気づいた時、俺は心の底から怖いと思った。
中2の秋。
その日は、修学旅行の最終日。
俺の手には、少ないながらも
あれは確か、小さなスノードームだった。
それを早く父親に渡したかった。
父親には、学がなかった。
高卒でデキ婚、まともな職に
それなのに母親は夜遊びばかりで、ウチは常に貧乏だった。
母親がいなくなって生活は楽になるはずだったのに、そうはならなかった。
当たり前だ。母親がいなくなっても、俺はどんどん成長する。
俺のために必要なお金が、
それなのに、小5のときにはリストラされた。
その後も、父親は相変わらず家には帰ってこなかった。
仕事、仕事、仕事、仕事……。
顔を見る度に
俺には、どうすることもできなかった。
今日も家にはいないかもしれない。
それでも、俺は
はたして、父親はいた。
だけど、土産を渡すことはできなかった。
プランと垂れ下がった両足。
ツンと鼻をついたアンモニア臭。
ブンっと飛んだ一匹のハエ。
あの光景を見た瞬間、俺の中に
『お前のせいで、いつまでたっても俺は貧乏だ』
父親の
俺のせいで、父親は死んだ。
俺には、怖いものがある。
「リアン!」
ラフィーの悲鳴が響く。
「明智! 追え!」
リアンが声を
追わなきゃ。
わかってるのに、足が動かない。
怖いから。
(リアンが、死ぬ)
血が、あんなに流れている。
(俺のせいで……!)
<落ち着け、
『
<大丈夫なんや! リアン
でも、血が……!
俺のせいだ。
俺がちゃんと
俺が、弱いから……。
──パチンッ!
痛い。
右頬だ。
「しっかりしなさい」
ラフィーの青い瞳が、俺を見上げている。
「リアンは大丈夫よ」
ラフィーに。
「あ……」
ラフィーが、俺の頬を叩いた左手で、そのまま俺の頬を撫でる。
(あったかい)
叩かれて、ハッと気づいた。
「【
そうだ。
ラフィーの【
手足の骨が折れて虫の息だった俺も、死ななかった。
「ね、大丈夫だから。斉藤くんの『幸運』を取り返して」
さらにラフィーの両手が、俺の頬を包み込んだ。
「頼むぞ、明智」
リアンの声が俺を
<この二人は、いなくなったりせえへん。大丈夫や>
『
「行ってくる」
リアンもラフィーも俺が守る。
斉藤の『幸運』も、俺が取り戻す。
俺が、あいつを倒す……!
<落ち着いたか?>
「悪かった」
<ほなら、やることはわかっとるな?>
「ああ」
敵の姿は、すでに見えない。
俺が足がすくんで動けなくなっている間に、逃げたんだ。
どこまで離れたのかは分からない。
どこに向かっているのかも分からない。
そんなの関係ない。
ここに、
「『アルピエル』『ロード』!」
叫んだ瞬間、グラウンドの中央にアイツの姿が戻ってきた。
<なんだ!?>
「お前は逃げられないよ。何度逃げても、ここに引き戻してやる」
<ふむ。スキルか。……なるほど。だが、俺のダメージも戻っているな>
そう。
【セーブ】の弱点だ。
敵を『ロード』で戻した場合、それまでに与えたダメージまで元に戻ってしまう。
──ピコン!
----------
アルピエル:魔王の
魔力:375
物力:489
幸運:0
----------
ウィンドウで確認するが、やはりリアンが削った物力が元に戻っている。
「だけど、お前が逃げられないって事実は変わらないぞ。俺は何度だって、お前を引き戻せるからな」
俺の手の甲に浮かび上がっている数字、つまり『幸運』は『45』。
『99』から『54』も減っている。
もう、『ロード』は
<ふんっ。貴様を倒してから立ち去るだけのことだ>
これで、アイツは『俺を倒されなければ逃げられない』と信じ込んだ。
俺が倒れなければ、逃がすことはない。
(やるぞ、『
<ボッコボコや!>
(まずは、対物マックスでボコる!)
──ピコン!
----------
対魔攻撃:□□□□□
対物攻撃:■■■■■
幸運:731
----------
<右足から踏み込んで、いち、に、さんで真っ直ぐ振り抜くんや!>
(1、2、3歩で、振り抜く)
<難しいことは考えんでもええ。とにかく、いち、にい、さんや!>
(わかった)
<コイツ倒したら、リアン
そうしよう。
剣の振り方、足の運び方、攻撃の防ぎ方、ぜんぶ教えてもらわないと。
俺は、足を踏み出した。
1、2、3!
「おりゃー!!!!」
──ザンッ!
避けられた!
<遅いわ!>
大きく剣を振り抜いたので、俺の胴がガラ空きだ。
そこに、敵の爪が迫る。
<左に2歩! 振り返りながら剣を振り上げる!>
──ガキンッ!
<チャンスや! そのまま、振り下ろせ!>
「うおぉぉぉぉ!!」
──ザシュッ!
手応えがあった。
『
<大丈夫や。『
「……うん」
<はよコイツを倒して、溝尾センセを助け出すんや!>
「おう!」
<
(対魔攻撃マックス!)
──ピコン!
----------
対魔攻撃:■■■■■
対物攻撃:□□□□□
幸運:731
----------
──キィン!
『
白い光に包まれる。
『闇を切り裂き、災いを
俺の、聖剣。
『……あんたは、私にとっての「特別」なのよ』
そうだ。
俺は特別なんだ。
何もかも失って一人ぼっちの、あの頃の無力な俺じゃない。
「俺は、光の勇者だ!」
俺は持てる限りの力を振り絞って、『
<ギャー!!!!!!!!!!!!>
おどろおどろしい叫び声が、耳を
溝尾先生の身体から、黒い光が立ち
黒い光は、そのまま
あっけない、終わりだった。
先生の体が倒れるのを受け止めた。
「先生!」
呼びかけるが返事はない。
だけど、体は暖かいし、ちゃんと息をしている。
斉藤の『幸運』が入った袋も無事回収。
よかった。
そうだ、リアン……!
そう思った瞬間、俺の体を温かいものが包み込んだ。
あたたかい、腕。
二人分だ。
「よくやった」
「頑張ったわね」
俺、ちゃんと戦えた。
俺は大切な人を、失わずに守り切ることができたんだ。
「甘い。甘いね、明智くん」
学校の屋上。
給水塔よりもさらに上、
『大聖女』の手足となる『勇者』にしては、甘すぎる。
「君は、先生を殺すべきだったよ」
そうすれば、『器』の中の『魔力』も行き場を失って消え失せただろう。
「……甘いのは、『大聖女』も『悪魔の子』も同じか」
最も楽な解決方法を選ばない。
そして、あえて彼に教えなかったのだから。
「ふふふふ。そんな甘い考えで、ここから先の戦いに耐えられるかな……?」
とっても、楽しみだ。
「さあ、はじめようか。『大聖女』、『悪魔の子』、そして『光の勇者』よ」
……いや。
「ユウくん」
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ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
次回からは新章が始まります。
ご期待ください!!
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