第12話「聖剣チュートリアル、俺は厨二でも陰キャでもねぇ!」


<まずは、チュートリアルや!>


 俺の前には『炎帝の剣エウリリス』を構えるリアン。

 剣を使った戦いを、実戦で覚えていこうというわけだ。


(最初からリアンと『炎帝の剣エウリリス』が相手って、無理じゃない?)


<無理ちゃうわ!>


「心を読むな!」


<何でや! その方がええやろ! 独り言やなくなるやん!>


(確かに!)


<せやろ?>


「いや、でも心を読まれるのは、普通に嫌だ」


<嫌でもしゃあないわ。ワシはお前の『魂』と繋がっとるねんもん>


「『魂』?」


<ワシはラフィーねえさんの【聖剣授与アコレード】によって作られた。主な原料は姐さんの『幸運』。設計図は主さんの『魂』の中から引き出したんや>


「はあ」


 よくわからん。


<主さんの『魂』に眠っとったワシが、ねえさんの『幸運』で形作られたっちゅうことや>


 わかるようで、わからん。


<まあ、ええわ。とにかく、あるじさんの考えとることはワシには全部わかるっちゅうことで、ひとつよろしゅう>


「……わかった」


<ん。ほなら、チュートリアルの続きや!>



 ──ピコン!



 電子音と共に、俺の前にガラスの板が現れた。


「何これ!」


 触ろうとしたけど、俺の手はすり抜けた。

 ホログラムみたいなものか?


<ハルバッハ様を手に入れたあるじさんには、『おまけボーナス』があるんや>


「『おまけボーナス』って、スキルを使う時に副次的に現れる効果、ってやつだよな?」


 そもそもの能力がわからないのに、先に『おまけボーナス』を見せられても。


<ウィンドウの表示を、よお見てみ>


 ウィンドウ、か。

 ゲームとかでセリフやコマンドが表示される、アレってことか。


----------


聖剣ハルバッハ


 対魔攻撃:■■■□□

 対物攻撃:■■□□□


 幸運:157


----------


「これは、ステータスか? どういう意味?」


<ワシは、闇を切り裂き災いをはらう、聖なる剣。つまり、『魔王』が生み出す『魔力』を斬るための剣や!>


「それが、この『対魔攻撃』か?」


<せや!>


「じゃあ、この『対物攻撃』っていうのは?」


<『魔力』しか斬れんかったら、不便やろ? 普通に物体を切れるってことや>


「なるほど。『魔力』も斬れるし、普通に『物体』も斬れる、と。それじゃあ、隣のゲージみたいなやつは?」


<それぞれの威力いりょくを調節できるんや>


 ははあ。なるほど。

 『魔力』だけを切りたい時は『対物攻撃』をゼロにすればいいってことか。


<せや! ただし、ゲージの合計は5以上にはできん。5をそれぞれに振り分けるんや>


「つまり、『対物攻撃』を強くしたら『対魔攻撃』は弱くなるってことだな」


<そういうことや>


「これって、俺の『幸運』は消費するのか?」


 表示されてるのは、俺の『幸運』じゃないみたいだけど。


<お前の『幸運』は消費せえへん! ワシの持っとる『幸運』を燃料エネルギーにするカンジやな。ただし、ワシの『幸運』が減ったら弱なってまうから、気をつけるんや>


「お前の『幸運』は、回復する?」


 ラフィーも寝れば回復するし。


<せや! ラフィーねえさんの『幸運』と連動しとると思っとれば、間違いあらへん!>


 『聖剣ハルバッハ』の『幸運』が減ればラフィーの『幸運』も減る。その逆もしかり、ってことか。


「じゃあ、表示されてるのはラフィーの『幸運』か」


<せや! 今日は【聖剣授与アコレード】を使つこうたから、えらい減っとるな!>


「今日は、ほどほどにしか練習できないな」


<そういうことや!>


「でもさ、『対魔攻撃』はリアン相手に練習できなくない?」


<アホ。忘れたんか? リアンねえさんは、『悪魔の子』やで!>


 ──ピコン!


 電子音と共に、新しいウィンドウが表示された。


----------


リアン:悪魔の子


 魔力:978

 物力:587


 幸運:728



炎帝の剣エウリリス


 魔力:0

 物力:490


 幸運:968


----------


 リアンと『炎帝の剣エウリリス』のステータスだ。


「リアンだけ、『魔力』がある」


<『炎帝の剣エウリリス』は聖なる獣である炎帝が授けた剣や。『魔力』なんか持ってるわけないやん>


 そういうもんなのか。


<『魔力』は『対魔攻撃』で削ることができる。『物力』は『対物攻撃』で削るんや>


 ほうほう。


<ただし、『物力』が十分にあるときは、『魔力』を攻撃しても、大して削れえへん。まずは『物力』を減らしてから『魔力』を叩くんが、セオリーや>


 だんだんわかってきた。

 『対魔攻撃』と『対物攻撃』、それぞれの威力を調節しながら、敵の『魔力』を削るってことだな。


<せや。特に『傀儡くぐつ』と戦う時は気をつけえよ。『傀儡くぐつ』の『物力』がゼロになるってことは、『器』になっとるヒトの『物力』がゼロになるってことや>


「つまり?」


<『傀儡くぐつ』の『物力』がゼロになるってことは、『器』になっとるヒトの死を意味する>


 こわ!

 なにそれ、こわ!!


<せやから、気をつけるんや。敵のステータスを、よう見て戦うんやで>


「戦いながら、ちゃんと見れるかな?」


<そこは、ワシの音声ガイド機能で補ったるさかいな>


「あ、その喋ってるのは音声ガイドなんだ」


<せや!>


「ただの音声ガイドのくせに、なんで関西弁でキャラ付けしてくるんだよ」


<他のキャラと紛れへんから、聞き取りやすいやろ?>


 それは、確かに。


<ほんなら、今日のところは『対物攻撃』、やってみよか!>


「『対物攻撃』ね。……このゲージは、どうやっていじるんだ?」


<考えたら、そのようになるで>


「ん。やってみる」


 えっと、考えるだけでいいんだよな。

 よし。


(『対魔攻撃:0』、『対物攻撃:5』)

 

 ──ピコン!


 電子音と共に、一つ目のウィンドウの表示が変わった。


----------


聖剣ハルバッハ


 対魔攻撃:□□□□□

 対物攻撃:■■■■■


 幸運:157

----------


「おお!」


 確かに、考えるだけでゲージが変わった!


<そんじゃあ、『炎帝の剣エウリリス』パイセンに、『対物攻撃』や!>



「リアン! 今から斬りかかるから、いい感じに剣で受けてくれ」


「わかった」


 改めて、『聖剣ハルバッハ』を握りしめる。

 重いけど、今の俺の筋力なら十分振り回せる。


「よし!」


 ──タッ、タッ、タッ!


 ダッシュと同時に振りかぶる。

 あ、だめだ!

 振り下ろすタイミングがわからん!


 そんなことを考えているうちに、リアンが間合いに入った。


 タイミングがわからんから、とりあえず足を止めてから剣を振り下ろした。


 ──ガキンッ!!


 火花が散る。


「うおっ!」


 リアンが驚いている。


 ──ィィィン!!


 剣戟けんげきの余韻が残る中、お互いに剣を引いた。


「すごい威力だな。明智が上手く振れてたら、はじかれてたかもしれない」


「まじ?」


「ああ。その剣、かなりの攻撃力だ」


「おお」


<ステータス、確認してみい!>


「おう」


 って、ウィンドウ消えてんじゃん。どうやって出すんだ?


<念じるだけや>


 なるほど。


(リアンと『炎帝の剣エウリリス』のステータス表示!)


 ──ピコン!


 電子音と共に、再びウィンドウが表示される。



----------


リアン:悪魔の子


 魔力:978

 物力:546


 幸運:728



炎帝の剣エウリリス


 魔力:0

 物力:299


 幸運:968


----------


「すげぇ! 『炎帝の剣エウリリス』の物力が、587から299まで減ってる。リアンの物力も減ってるな」


<これが、ワシの力や! まあ、リアン姐さんが真っ直ぐ受けたからこんだけのダメージになっただけで、こんな風にバッチリ攻撃が入ることの方が少ないと思っといた方がええで>


「わかった」


<ワシのステータスも確認してみい>


「うん」


 ──ピコン!


----------


聖剣ハルバッハ


 対魔攻撃:□□□□□

 対物攻撃:■■■■■


 幸運:157

----------


「あれ? 『幸運』が減ってない?」


<『対物攻撃』は、『幸運』は減らへん>


「なるほど」


<ちなみに、『物力』は時間経過と共に回復するから、気いつけや>


「わかった」




「独り言は終わったか?」


 リアンがニヤリと笑っている。


「独り言じゃないんだってば!」


「ははは! 心の中だけで会話できるようになった方がいい。その方が早いし」


「リアンは『炎帝の剣エウリリス』とは、心の中で話すのか?」


「もちろん」


「慣れる?」


「そのうち」


「そっか」


 そのうち慣れる、か。

 まだまだ先のことになりそうだけどな。


<大丈夫や! あるじさんは厨二やし陰キャの素質あるから、すぐ慣れるって!>


「うるせえ!」

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