第11話「大聖女の聖剣授与!いやいや、この聖剣ヤバいって!」


 ──その夜。

 俺たち三人は、いつもの公園に来ている。

 今日もラフィーの【結界サンクチュアリ】の中だ。


 さっそく特訓を開始するのかと思えば、ラフィーが神妙しんみょうな面持ちで言った。


「試してみたいことがあるの」


 いつも強気で周りを振り回しまくる、性悪聖女らしくないセリフだ。


「私は、けっこうたくさんのスキルを持っているんだけど」


 俺が知っているだけで【聖なる鎖ホーリー・チェーン】、【保護プロテクト】、【異世界旅行トラベリング】、【結界サンクチュアリ】【回復ヒール】、そして【付与能力グランティド・スキル】の6つ。

 他にもあるってことか。


「このスキルだけは、今までちゃんと使えた試しがないの」


「どんなスキルなんだよ」


「【聖剣授与アコレード】よ」


 聞きなれない言葉だ。


「【聖剣授与アコレード】は、『神』や『精霊』がこれと見込んだヒトに剣を授けるスキル」


「剣を?」


「そう。リアンの『炎帝の剣エウリリス』も、『大精霊』である『炎帝』がスキル【聖剣授与アコレード】によってリアンに授けたものよ」


 そろそろ、俺もファンタジー用語には慣れてきたぞ。

 今のは、ちゃんとわかった。


「ラフィーも【聖剣授与アコレード】を使えば、誰かに剣を授けることができるってことだな」


「そう。……でも、これまで何度も試したけどうまくいかなかったの」


「なんで?」


「わからない。どうしても、剣を顕現けんげんさせることができないの」


 ラフィーが、腕組みをして難しい顔をする。


「おそらく、私の剣を受けとる資格を持ったヒトがいなかったのよ」


「受けとる、資格?」


「『大聖女』たる私の願いを叶える『光の勇者』に、私は出会えていなかった」


 新しいファンタジー用語、っていうか厨二ちゅうにワード出てきたな。

 『光の勇者』か。

 確かに、『大聖女』と共に『魔王』を倒すなら、それくらいの称号はあってもいいよな。

 うん。


 だけど……。


「……この流れは良くない」


 【付与能力グランティド・スキル】の時と同じ流れだ。


「何が?」


「俺は嫌だからな」


「なんでよ!」


「俺は『光の勇者』なんてガラじゃないよ! だいたい、普通の高校生なんだぞ!」


「……もう気づいてるでしょ? 自分が普通の高校生じゃないってこと」


「……」


「普通の高校生は【回復ヒール】があるからって、あんな訓練しごきに耐えられない。そもそも、【付与能力グランティド・スキル】の時点で死んでる」


「……」


「ふつうのヒトが、『幸運:27』で死なないはずがない」


 何も、言い返せない。


「あんたは、かつて『魔王』を封印した『明智光秀光の勇者』と、それを助けた『聖女』の末裔まつえい


 そうらしい。


「そして、『幸運』……つまり、『神』に依存しない何者かの『加護』を受けている、特別なヒト。それがあんたよ」


 認めたくないが、事実だ。

 全ての現実が、これを裏付けている。


「それに……。今朝、私はあんたを殴った・・・


「……そうだけど、それが何の関係があるんだよ」


 嫌なことを思い出させるなよ。

 一緒にのことも思い出しちゃうだろ!


「なに赤くなってんのよ!」


「仕方ないだろ!」


「とにかく、この私が! 殴ったのよ!?」


「は? だから、どういうことだよ!」


「二人とも落ち着いて」


 言い合う俺たちの間に入ってきたのはリアンだ。

 心底あきれている、という顔を隠しもしない。


「馬鹿なこと言ってる時間、ないんだから」


「「はい」」


 リアンの言う通りだが、釈然しゃくぜんとしない。


「ラフィーさんは、まがりなりにも聖女だ」


「まがりなりって何よ、まがりなりって」


「聖女の唯一にして最大の弱点。それは、『何者も攻撃できない』ってことなんだ」


 ラフィーのツッコミを無視して告げられた言葉に、俺は首を傾げる。


「本来なら、ラフィーさんはヒトだろうと魔物だろうと、何かをなぐるなんてことはできない。そもそも、手を振り上げることすらできないはずなんだ」


「でも、俺、なぐられたけど?」


 確かに、痛かった。


「だから、お前は特別なんだ」


 本当はなぐれないはずのラフィーが、俺だけはなぐることができたってことか。

 よくわかんないけど、確かにそれが事実なら俺は特別ってことになる。

 

 ……何者も攻撃できないのか、ラフィーは。


 腹立つことがあっても、手を上げることができない。

 ああ、だから性悪になったのか?

 口で言い返すことならできるから。

 だからって、性根が曲がりすぎだと思うけど。




「……あんたは、私にとっての『特別』なのよ」





 小さな声で、ラフィーが言った。

 その頬が、真っ赤に染まっている。


 青色の瞳が、上目遣いでこちらを見つめている。



 俺が、特別……?



 ──ブワッ。


 俺の顔にも、一気に熱が集まってきた。



「とにかく!」


 ラフィーが真っ赤な顔のままで、俺を睨みつける。


「あんたは、私の・・『光の勇者』よ」


 ラフィーが両手を突き出した。

 いつもの、あのポーズ。


「【聖剣授与アコレード】!」


 ラフィーの両手から、白い光が溢れる。

 溢れた光はブワッと広がってから、徐々に細長く収束していった。


 現れたのは──白く輝く剣だった。

 金とも銀とも違う素材でできている、不思議な剣。


「できた……!」


 ラフィーがつぶやく。


 その剣は、ふわりと動いて俺の手に収まった。

 まさに、しっくりと、俺の手に馴染なじむ。


「闇を切り裂き、災いをはらう。……聖なる剣」


「これが……」


「あんたの、聖剣よ」


 手元の剣を見つめていると、ふと頭によぎった言葉。



「ハルバッハ」



 この剣の、名前だ。


「いい名前ね」


「カッコいいな」


 二人が駆け寄ってきて、『聖剣ハルバッハ』をしげしげと見つめる。

 

 確かに、カッコいい……!

 うらやましかったんだよな、リアンの『炎帝の剣エウリリス』が。


 男の子だからな、俺も。

 

「これ、どんな剣なんだ? 『炎帝の剣エウリリス』みたいに、燃やしたりできるのか?」


「聞いてみなさいよ」


「誰に?」


「剣に」


「は?」


 何言ってんだ、こいつ。

 剣に聞く?

 無機物だぞ。どうやって質問するんだよ。





<普通に話しかけたら、ええんやで!>





 急に割り込んできた関西弁の男の声。


「誰だ!?」


 周囲をキョロキョロと見回すが、誰もいない。

 そもそも、ラフィーの【結界サンクチュアリ】の中だから、許可されていないモノは入ってこれない。



<オレオレ!>



 オレオレ詐欺さぎかよ。

 ほんとに、誰だ?



<ココやココ! 無視せんといて!>



 ……まさか。


 手元の剣を見下ろす。

 ここから聞こえているような、気がしないでもない。


『やーっと気づいたんか! ワシが、ハルバッハ様や! よろしゅうな!』


「剣が、しゃべってる!?」


 んな馬鹿な!


「聖剣なんだから、あるじとは・・会話できるに決まってるじゃない」


 常識みたいに言うの、やめてください。

 ん、待てよ?


あるじとは・・、ってことは」


「私たちには聞こえてないわよ」


「じゃあ、俺って……」


「独り言しゃべってるキモい奴に見えるから。気をつけなさいよ」


 ひどい!


<お前が俺のあるじさんか! 弱そうやな! 大丈夫か?>


「は? 喧嘩売ってんのか?」


 あ。

 ラフィーとリアンが、笑っている。

 俺、独り言しゃべってるヤバい奴じゃん。


『ええやん。魔王倒そうなんちゅう奇特な人間なんや。そもそもヤバい奴やから、気にせんでええよ!』


 ええよ!

 じゃないんだよ!




<ワシを使いこなせれば、魔王なんか一発KOや! いてこましたれ!>




 俺がヤバい奴なんじゃない。


 この『聖剣』、かなりヤバい奴だ……。



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