第64話 新たなモンスターももはや

 ドローンが撮影した動画を合成して出来上がったダンジョンマップ。

 そのマップをインストールされたスマホのような端末は、流石軍の持ち物。

 耐久性も耐水性も市販のものとは比べものにならない。

 その分重いんだけどね。


 因みに俺の頭の上にはカメラが取り付けられ、その映像は端末に保存されている。


 端末が指し示す方角に従い、ダンジョンの中、歩を進める。

 ダンジョンだというのに冒険感が全くない。

 冒険とは危険を冒すと書く。危険な目に会いたいわけじゃないから、冒険感なんてなくていいといえばいいのだが……なんだかな。ロマンがない。


 マシンガンを抱え、わざわざ鳴いて出現を教えてくれるゴブリンや猪を撃ち抜きながら前進する。

 難易度の低いガンシューティングをやってる気分だ。

 いや、難易度の低いのはいいことか。それだけ安全ってことだもんな。


 一応命がけの仕事で更なる刺激を求めるとか、油断して気が抜けてる証拠だ。いかんいかん。気を引き締めねば。


 この後行く場所には強敵らしきモンスターがいることが解っている。

 ダンジョンの中の強敵。ゲームなら中ボスとか言われる存在かな?

 油断なんぞしている場合じゃない。


 あ、ふと思ったがダンジョンボスに辿り着いたところで弾切れとか最悪だな。

 そう思ってどこぞのゾンビゲーのようにマシンガンを温存し、装備をハンドガンに切り替えてゴブリン達を撃ち抜く。


 素手、あるいは小汚い刃物を装備しているのが精々の、ギキャギキャ喚くだけの小動物など、ハンドガンでも充分余裕だ。


 自信過剰になるのは良くないが恐怖で竦むのはもっといけない。

 余裕だと自分を奮い立たせ、しかし油断はしてはならない。

 戦士ってのは難しい職業だと改めて思う。


 あんまりゆっくり歩いていると一日が終わってしまうので、途中から小走りで目的地まで向かう。

 自衛隊が組み立て式のバイクを手配していて、以降の探索ではダンジョンの入り口から部品を投げ入れ、内部で組み込んで探索範囲を延ばす、なんて計画もあるそうだが、手配までにはまだ時間がかかるらしい。ひとまず今日は足を使う。


 敵が現われる度に乾いた火薬の弾ける音を鳴らしながら、到着した目的地。

 そこには黒い大きな獣が身を伏せていた。


「熊……かな?」


 今やファンタジー作品の中で鉄板の強敵モンスター。最初に主人公にやられて強さを表すカマセともいう……ドラゴンと一緒やん。

 俺の方を睨め付けながらゆっくりと身を起こそうとする。


「待つ義理ないけどね」


 温存したマシンガンの弾丸を顔面に叩き込む。


「ヴォオオオッヴヴォ……ヴォ」


 顔面から血を吹き出しながら倒れ、黒スライムに覆われる熊。

 この先に目的地があるのだが、今日はここまで。


 流石公的機関。作戦が安全第一で助かります。

 そう謙虚に感謝しつつ、自衛隊から渡されて持参した装置を大地に突き刺す。


 こいつは簡単にいうと座標アンテナらしい。

 指定したドローンが一定距離に入ると、電源が自動でオン。

 ドローンに座標位置を発信する。


 自衛隊の目的地はこのダンジョンを制御する制御室だ。

 だが結局俺が何度も潜り込んでドローンで撮影した映像の中に、それらしきものは映らなかったようだ。


 ダンジョンからナノマシンが見つかった以上、草原フィールドといってもそれは人工物。制御室の存在を疑う余地はない、というのが自衛隊上層部の言い分だ。

 それが、見つからないとなれば理由は二つ。

 見逃したか、ドローンの撮影映像がそもそも制御室まで届いていないか。

 そして自衛隊は後者と判断した。


 ドローンには射程がある。

 地球全土が電波塔の射程範囲にある地上と違い、ダンジョンではリモコンが発する電波の外にドローンは行けない。

 そして軍のもつ最新鋭の機体といえども、インターネットのない場所でのドローンの可動領域などたかが知れている。


 一方この空間は驚くほどに広大なんだそうで。

 じゃあ射程を伸せばいいじゃない、と。


 そこで自衛隊が考えた作戦は、完全自律したドローンを飛ばすこと。

 飛行ルートを予めプログラムしたドローンを飛ばす。

 解り易く言えばリモコンを自分でもってドローンが飛べば、バッテリーが続く限りいくらでもとべるよねって感じ?

 ただ、単にランダムに自律飛行させるとドローン同士がぶつかったり、南に飛ばしたつもりのドローンが北に飛んだりしてしまうから、ドローンに今どこにいて、どの方向を向いているかを教えるものが必要になる。


 それがこのアンテナだ。

 これを今日から三日かけて三箇所に配置。

 三角形に配置したアンテナをベースにドローンを飛ばしまくれば、更に広範囲のマップ情報が手に入るという理屈らしい。


 俺としても幾ら潜れるからと言って、強力な武器を貸し出して貰っているからと言って、死の危険がある場所を精神論で徘徊したくはない。

 この作戦が上手くいくことを切に願う。




 そうしてアンテナ設置を進めた三日目。

 なぜかまだ会ったことのないモンスターのいる位置にアンテナを刺したがる自衛隊の指示に渋々従い、新たなモンスターを銃殺する。


 二日目に出会ったのは……近いものをいうならゴリラかな?

 黒い体毛にデカい巨体。そしてビックリするくらい長い爪。


 この世界には人間を変異させるナノマシンがあるだから、獣も変異しているのかもしれない。人間が鬼に変わったことを考えると本当に元がゴリラだったかどうかは自信がない。


 そして三日目。


「ギギャ」

「モンスターのレパートリーが凄いな。なんじゃいな、こいつは? ……まあいいや」


 疑問に思いつつも、構わずマシンガンをぶっ放す。

 それを一言で言うならロボット? それも全身赤みを帯びた金色の。

 ゴブリンが剣を腰に吊るした人間ザイズのロボットの胴体部分に乗って、レバーをガチャガチャしている。

 ゴブリンの知能が低いから、そいつは踊るようにハチャメチャな動きしかしない。

 ゴブリンも操縦しているつもりはないのかも。シートベルトの外し方が解らなくてレバーを掴んで足掻いてるって感じ。

 その為、ゴブリン自体には襲ってくる気はあったんだろうけど、結果として襲ってこないから命の危機は感じなかったが……ロボット部分に全く銃弾が効かなかったことにはビックリした。


 コクピット部分である胴体は開きっぱなしだったから倒すのに苦労はしていない。

 ゴブリンを蜂の巣にすればそのロボットも動きを止めた。


「いろんなのがいるな……」


 黒いスライムがゴブリンだけを覆うのを見て、ダンジョンモンスターが死んでも無機物は黒いスライムの捕食対象にならないんだと改めて理解する。


 三箇所目のアンテナを無事刺して、帰宅する。

 この三日目に出会ったモンスターの存在の意味を俺はもう少し考えるべきだったのかもしれない。

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