第62話 現代兵器は充分チート
開かれたダンジョンの入り口。
久々に見た。
いつもは入るときに胸に沸き上がる恐怖がある。
レベルアップとスキルの引き替えに命の危険があるからだ。
そう思って潜っていた頃は、それでもリスク無視して行けるほどにこのダンジョンは俺にとって魅力的に感じていた。
スキルとレベルでの現代無双。そんな馬鹿げた妄想を心の中で信じていた。
今魅力と呼べるものはダンジョンにはない。
だがこのダンジョン探索には安定した次の就職先の確保という魅力は残っているし、装備の充実によりリスクも比べものにならない程減少している。
むしろダンジョン内のモンスターより、外でダンジョンの入り口を固める自衛隊員達の方が怖い。
全員がマシンガンを手にしているのは、単純に自衛隊員だからかもしれないが、仮に俺が今持っている銃を自衛隊員達に向けた時に対処するため、という理由もあるんじゃないかと妄想してしまう。
ここにいると、むしろ後ろが怖すぎるからさっさとダンジョンに入ろう。
タクティカルライトを点けてネズミの巣を照らす。
『ヂュイッ! ヂュビッ!?』
赤く反射する一対の瞳。
さっさと銃弾を一発撃つ。
ライトが照らしている方向に銃弾は飛ぶ。外しようもない。
人差し指を動かす。それだけの動作で戦いは終わった。
……いや、どうなのよ。
ファイヤーボールの威力の低さと意味のなさが良く分かる。
正直とても複雑。
通路を進むと現われたゴブリンを鳴くことすらさせずに撃ち抜く。
……こいつ等相手に死ぬ思いをしていた昔の自分が恥ずかしい。
通路を進み扉を開ける。
広がる草原空間で、見つけた猪。
『ブモモオオオオ』
足で地面をかき、突進してくるおかげで丸見えなその脳天に銃のレバーを連射に変えて照準を合わせる。
しっかり狙いをつけられる状況で銃を当てることは素人にもそんなに難しくない。
相手が横に、あるいは縦に移動しているところに当てるのが難しいのであって。
まっすぐ走って来てくれる相手など、むしろ外す方が難しい。
だから猪は一週間の短い訓練しか受けていない俺でも良い的だ。
『プギィイイイ』
引きつけてぶち込んでやった銃弾は瞬く間に猪の脳天をグチャグチャの蜂巣に変える。猪は速度を落しながら這いつばりながらヘッドスライディング。
そして物言わぬ肉塊に変わった。
スライムに捕食されて始めた猪を見つめながら、頑張って一ヶ月桑野さんに身固めを教わった昔の自分を思い出す。
努力って何だろう?
さて、今日の戦闘ミッションは完了だ。
ため息をつきながら、自衛隊から支給されたボンベを取り出す。
今日はまず、今まで俺が戦闘したモンスター達に自衛隊の武器が有効かを確認することが一つ。最悪銃が効かなくても、今まで倒せていたから何とかなるでしょう的な感じらしい。
あと一つのミッションが、このボンベを使ってダンジョン内の空気を持ち帰ることだ。
小金井教授がANTISに殺害されたことを俺が報告したことで、自衛隊も小金井教授の研究内容に関心を示したらしい。
そしてそこから、まず自衛隊はこのダンジョンの空気サンプルの取得を最優先事項に選んだようだ。
俺の血液サンプルやなんやから、このダンジョンに人を妖怪に変えるナノマシンが充満していることは明白だ。ではそれとは別に、ナノマシンはこのダンジョンに何種類あるのか?
鬼山二佐曰く、むしろ大量に存在していると考える方が自然だという。
いや、こんな不自然な場所に自然もクソもないのは分かっております、はい。
少なくともこの地球上に現存するナノマシンはSFなんかで登場するそれとはかけ離れた、マシンと呼ぶのはどうなのよ? ってものばかり。
だが、ダンジョンにはまさにSF世界を彷彿とさせるナノマシンが存在している。
おそらくダンョンの今、まさに俺がいるこの空間。
空間拡張因子を拡張したい範囲に広げ、制御する。
そんなことをしようとするならナノマシンでもなきゃ不可能だし、何よりそんな技術がおそらく宇宙船という技術の塊であろう、このダンジョンの中で使用されていないとは考えにくいと。
言わんとしていることは解らんこともないし、別に納得出来なかったとしても従う所存だ。
だからそのボンベを開き周囲の空気を入れて、ボンベの栓をしっかり閉める。
そして異様に難易度の低いダンジョン探索を終えて俺は帰途についた。
自衛隊にボンベを渡し、帰ったマイルーム(事故物件)。
なんか落ち込んでいる自分に気が付いて、理由を考え漸く理由が解った。
現代兵器は充分チートだ。
少なくとも銃を持たずに生きる俺達にとってはそうだ。
武道家が百年修行しても辿り着けるか否かの必殺の極地に、ちょっと基礎だけ習って人差し指動かせば至れるというのだから、強さを求めるものからすれば充分
今弄っているスマホだって似たようなものだろう。
検索すれば簡単に答えが出てくる知識チート。
昔の人達が頑張って勉強して頭に詰め込んだ知識も、今ではデバイスを指で弄るだけでいい。
俺が欲していた解析や空間収納も、その内人々は生み出すのかもしれない。
そう思っている俺のスマホの画面には、今まで安全性の観点から開発はされても実用化されていなかった自動フォークリフトについて政府が申請を通したというネット記事が映っている。
個人の技能が五年後にはもはや誰でもできる作業になる時代。
そんな世界でちょっと他人と変わったスキル如きで単身成り上がろうとした俺は、やっぱりただの愚か者だったのかもしれないな。
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