第61話 探索前の会議と訓練

 鬼山二佐に連絡を取った数日後、初出勤となる最初の場所は役所の会議室だった。

 NE-WSじゃねえの? と思ったが、入り口がこの近くにあるわけだから、俺の出勤場所は当然、今後俺の秘密基地になる。飛来物のあるNE-WSに行く意味は確かにないよね。


 鬼山二佐が議長を務める会議。

 俺からの情報や自衛隊の持つ情報を合わせた状況整理、というか俺への説明を多分に含めた報告会議だった。


 自衛隊の皆さんが飛来物と呼ぶ、NE-WSに突っ込んだダンジョンの入れ物。

 非常に肩身が狭いのだが、俺がダンジョンの入り口を開けたことで落ちてきたんじゃねえかと……おう。

 時間経緯としてもそう考えるのが妥当だから何ともいえない。


 本来隕石が落ちてくれば天文観測所なり連絡が事前に入ってきたはずだが、飛来物は突如現われて落ちてきた。

 転移装置なんてものがあるから確かなことは言えないが、おそらくあの飛来物はかなりの昔からずっと地球の周りにあったんじゃないかという予想らしい。

 それは丁野教授が見せてくれたあの円盤が理由だ。


 転移装置は稼働すると黒い渦が現われる。つまり転移という行為には黒い渦の発生がセットになる。

 あの飛来物が突如転移してきたなら、天文観測所がその渦を観測したはずだが、それはなかった。

 ということは高度なステルス機能があって、ずっと地球の周りにいたと考えるのが妥当って事になるそうで。

 じゃあ、いつからよ? っていうと円盤と飛来物が繋がっていることから、つまり円盤があった時期。おそらく紀元前。

 そんなところフワフワしてたらスペースデブリにでも撃墜されてそうなものだから、何がしか回避機能とか姿勢制御機能とかも搭載されているのだろうと。


 そして俺が転移門を開いたことで飛来物内部のメイン電源? 電気で動いているのかどうかも謎だけど。とにかくメイン電源に該当する何かが稼働。

 あくまで推論だが紀元前からあるものだ。当然所々老朽化していたりするだろう。

 何がどうなったかは内部に入って調べないと分からないから、これも仮説だが、メイン電源が稼働したことでリソースを持って行かれたステルスや姿勢制御といったシステムが一時的に稼働停止。結果デブリにぶつかったか、或いは単純に姿勢制御を失ったかで墜落してきた、と言うのが現状の推論だと。


 自衛隊としては既に飛来物と円盤の関係は間違いないと掴んでいるそうで。

 NE-WSに突っ込んだ飛来物はNE-WSの地下にいた人達を妖怪に変えたそうで……人的被害はなかったんとちゃうんかい?

 で、その妖怪達が他の場所でも確認された。何がどうなったかは分からんが飛来物に何かしらの方法で取り込まれた人達が変異し、更に円盤で各地に飛ばされたと考えているからだとか。

 これには一応証拠があって、妖怪が身に着けていた破れた衣服がNE-WSにいた人達の着ていたものと一致したんだそうで。

 遺体のDNA鑑定もやったそうで、鑑定結果からも間違いみたい。


 遺体の生前の顔写真と名前もプロジェクターに映されたが、見知らぬ人を指してこの人がとか妖怪になる前の人物ですとか言われても、どう反応していいのか分からんよね。火棟ひむねとか名前出されても、いや誰やねん? と。


 しかし、正直まだ全力で疑っていたが、丁野教授の言う「日本神話の神々は実は宇宙人だった説」が若干現実味を帯びてきたわけだから驚きだ。

 このままでは教授が話題になり、そんな教授が書いた論文で有名になった桑野さんが絶大な支持を受けてしまう未来があり得る。

 阻止するためにもダンジョン内部で教授の理論を否定する新たな証拠を集めねば。


 不純な動悸でやる気を漲らせているのは、ここまで来て「ダンジョン探索は怖いから嫌だ」なんて言えないからだっていうのもある。

 ダンジョンに入れるのは俺だけ。だから俺が探索係になる。

 この後訓練を受けて、武装を固めてダンジョンに入るわけだ。

 自分から来たとはいえ、怖いものは怖い。


 期待通り自衛隊の武装が支給されるらしいから、猪位なら怖れるに足らずではあるが、あのダンジョンにいる凶暴理不尽生物が猪だけとは限らんわけで。


 支給される武装はフタマル式と呼ばれるマシンガンとSFP9とかいう拳銃。それとサバイバルナイフも支給される。自衛隊使用の迷彩服とヘルメットや銃に装着するタクティカルライトなんかも貰えるらしい。

 また、ラバースーツと忍者ブーツは使って良し。

 ダンジョン内部のアイテムも身を守るのに使えるものは使って良し。

 随分気前がいい。

 他のものは持ち帰らなきゃいけないらしいけど……チッ。


 俺の顔合わせを兼ねた会議を終え、俺も晴れて自衛隊員となった。

 といってもまだ学生の身。正式採用ではないけれど。

 翌日からは早速俺の訓練が始まった。


 訓練初日は訓練前の身体能力測定を受けた。

 自衛隊の皆様が驚愕の表情を浮かべて、一時的にドヤッとしてしまいましたが。

 冷静に考えるとこの表情は俺自身への評価ではなく、俺を僅かに変異させたダンジョンパワーに対するものであるわけで、ちょっと虚しくなった。


 体力的には文句のつけようがないらしく、その後一週間ほど匍匐前進のやり方とか銃火器の扱いなんかをレクチャーされていざ出陣という流れ。雑じゃない?


 「既に何度も潜っているのだから、実戦経験はむしろ君の方が上だ」と言われてしまえばぐうの音も出ないよね。


 そんなこんなと慌ただしい日々を過ごした。

 明日から改めてダンジョン探索が始まる。

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