7章 ~求められて~

第59話 鬼山達海 ~求める者~

<Stranger’s Record>


 各地に設置されたゲートの光が消えた。

 訝しむ我々にメインゲートを介し、送られた同胞からの通信が届いた。


 その内容に我々は絶望を禁じ得なかった。

 この地でただ死を待つしかなくなった。


 どうせ死ぬならば船に戻ろうという妻となった相棒を止めるも、生きる意味を問われれば今の私に返す言葉はない。


 我らが文明を与えたるヒトなる種族。

 少しずつ進歩を遂げる彼等の歩みに喜びを感じられたのも、いつか帰る我らが母星あってのこと。


 いつか目覚めた同胞達が再度隊を組み、ここを訪れる日に期待してヒトを導き続けよというのか。


 我々は名というものを持たない。

 イザナギとイザナミ。私と妻。

 いつからかヒトなる種族は、我々をそうと呼ぶようになった。


 ここで初めて得た名前。

 昨日まではそう呼ばれることが嬉しかった。


 名を呼ぶ。言葉を話す。

 彼等の進歩を実感できたから。


 だが今は違う。

 昨日まで愛着すら持ち得たヒト達が今はただ鬱陶しい。


 私は心を病んでいたのか?


 言い訳だ。


 妻イザナミの異変に私は気が付けなかった。




◇◆◇◆◇◆


 内部、ダンジョンの技術を欲しているのはアークレス達ANTIS総合技連だけではない。

 自衛隊もそうだ。

 鬼山は変わらず政府からの突き上げを喰らっていた。


 部下の秋朱を失ったこともあり、鬼山自身もまたこの件から退けなくなっていた。

 歌舞人からの情報で秋朱がANTIS総合技連の手にかかったこと、そしてANTISの目的が内部であったことは明白。

 ここで内部を諦め手を退けば、調査権限は他国に渡る。

 そこから情報がANITSに漏れれば秋朱の死を無駄にする。


 しかし打つ手もなかった。

 天津探偵事務所や警察からの情報提供もあり、もはや内部と人間のモンスター化の関係は明らかだった。


 そんな折、鬼山の元に歌舞人が解放された情報が入った。

 鬼山は追い詰められていた。周囲からも自分からも。


 軍事に民間人を巻き込む。本来あってはならないことだ。

 だが、鬼山の望むものは内部に入らねば手に入らない。


 内部の技術、内部のシステム。

 それを手に入れる為には内部に入るしかないのだ。


 空間拡張、転移装置。

 鬼山が求められているのはそのような情報ではない。

 それを成すものの入手だ。


 迷わなかったわけではない。

 いや、迷い迷って迷走したが故の決断だった。


「私が直に久留井歌舞人君に会い行く。しばらくここを頼む」


 部下にそう告げて鬼山は歌舞人の済む借家へと向かった。

 秋朱が命を絶たれたその場所で、その命に酬いるために、軍人としての禁忌を犯すことを自覚しながら。

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