第37話 二戦目

「ふん。流石は我が家と同じく現代まで続いた陰陽師。

 術は確かということですね。

 いいでしょう。大人しく一戦目は負けを認めましょう。

 ですが……二戦目も同じようにはいかなくてよ?」

「こちらとて負ける気はありません」


 よく解らんがゴリラ-パワーで桑野さんが勝利をもぎ取った一戦目。

 間を置かず二戦目が始まるらしい。

 確か呪符を投げ合うんだったっけ。


 一戦目は正直なんのこっちゃか良くわからなかったけど、二戦目は陰陽師っぽい戦い方が見れそうだ。


 呪符を投げつけ合うというのは、互いの式神をぶつけ合うと言うことらしい。

 式神をもって妖魔を祓う陰陽師の家にとって、使役する式神の強さは言わばその家の位の高さと言い換えてもいい。


 今まで効果をイマイチ実感できなかった桑野さんの呪符。

 はっきり言うと疑っている。だが一方でこう思っている自分もいる。

 俺にはこの勝負、ぺらぺらの紙をぶつけ合っても、両方ぺしゃりと落ちるビジョンしか創造できない。

 だがそうならないから昔からこのやり方で勝負をし、事実勝敗がついていた歴史があるのだろう。

 だったら、やはりそこには勝敗を決するような何某かの違いが存在するんじゃないだろうか?

 であれば呪符には何某かのパワーが眠っているのかもしれない。

 

 桑野さんは術者としては若く、まだまだ未熟だと言っていた。

 あくまで桑野家の現代最強術者は桑野さんのお父さん。

 相手が熟練者であるかどうかは知らないが、もしそうなら俺は初めてここで術者っぽい何かを見ることが出来るのかもしれない。


 術者同士が術をぶつけ合う力比べ。

 正直に言おう。こういうの好き。


 今度はゴージャス嬢が出撃するらしい。


 西部劇のガンマンよろしく、桑野さんとゴージャス嬢が進み出て相対する。


「では術比べ、第二戦を行います。

 慣例に従い日本先取の三本勝負でよろしいか?」

「ええ」

「結構よ」

「では……始めぃ!」


 カメラマン兼審判が号令するやいなや、「俺のターンだ! カードをドロー」と言わんばかりに呪符を懐から取り出す。さあ、どうなる!?

 

「出ませい! 式神! 霊鬼!」

「出でよ! 式神! 邪鬼じゃき!」


 自身の式神を呼びながら札を投げつける二人。

 シュルルっと互いが投げつけた札は風を切り、空中で衝突する。そして


「な!?」


 ゴージャス嬢の呪符が桑野さんの呪符を真っ二つに切って、桑野さんの足下、体育館の床にそのまま突き刺さった。

 一見文字を書いただけの只の和紙。

 それが木製の床に刺さるだけでも驚きなのに、刺さった後も込めた霊力が今だ宿ることを示すようにピンッと立ったままでいる。


 凄い。これが陰陽師の術、式神か……


 ヒラヒラと舞い落ちた桑野さんの札を見れば、流石に今回は俺にも勝敗が解る。


 もうちょっと派手なのを期待したがよしとしよう。

 いや喜んでる場合じゃないな。一投目は桑野さんの負けだ。


「まさか……」

「気付いた様ですね」


 絶望の表情を浮かべる桑野さんに、ゴージャス嬢がウフフと笑いを浮かべる。

 二人の間ではお互いの力の差が解った的な展開だろうか?


「呪符に……カミソリを仕込んだのですか」

「その通りよ! オーッホッホッホッホ!」


 ……ふぁ?


 よく見ると札の端面にきらりと光が反射している。


「こんな……手が……」


 膝からくずおれる桑野さんと勝ち誇るゴージャス嬢。


 いや、え、どういうこと?


 ……イカサマってことかな?

 でも、ゴージャス嬢は勝ち誇ってるし、桑野さんは見破ったのに顔が青い。


「呪符とは式神、つまり使役した怨霊宿りし札。言わば紙の妖怪とも言えるもの。

 そして妖怪の強さは怨霊の妖気と宿りし物の強さによって決まる。

 であれば当然、呪符の強化に取り組むのも陰陽師としての力量というもの。

 それを……漫然とただ先人の伝えに習い、未だに……しかも和紙の呪符などを使うとは。

 受継ぐ者には受継いだものをよりよく発展させる義務がありましょう!

 恥を知りなさい!」

「うっ……」

「鬼に河童と名だたる妖怪を祓ったと聞いて、どれほどのものかと思っていましたが……

 所詮はこの程度ということかしら? オーッホッホッホッホ」


 膝から頽れる桑野さん。高笑いするゴージャス嬢。


 なんかゴージャス嬢が良いこと言ってる風な空気出しているけど、納得全然いかないのがこの場で俺だけなのはどういうことだろう?

 その理屈で言うと呪符ですって言ってさっきの手斧投げても良い理屈にならない?

 あと式神の強さとかどこ行った?


「さて、この勝負。もはやついたも同然。

 弱者を嬲る趣味はありません。

 負けを認めてお退きなさい」

「……桑野家の陰陽道に撤退の文字はありません!

 勝負です!」

「ほう……」


 侍みたいなことを良いながら桑野さんが立ち上がり、呪符を構える二人。


 なんだろう……

 これって見てなきゃダメですか?




 ………………


 結局どうにもならずに二戦目に敗北した桑野さん。

 かける言葉が色んな意味で見つからない。

 ていうか、あの勝負を真顔でやってるこの人達に物理的にも精神的にも距離をとりたい。


 でも残念ながら次の勝負は俺にも出番がある。

 ゲロ吐きそう。


「ふう。負けちゃったけど次がある。

 次に問われるのは武力と術力の総合力。大丈夫。勝ち目はある」


 なんかブツブツ言っている桑野さんを尻目に俺も戦いの準備を進める。

 この戦いを見て一つ確信したことがある。

 術比べの勝敗以上に大事なことが俺にはあるということを。


「カブトさん! 次は……どうしたんですか?

 マスクなんかして」

「顔出しNGで」

「?」


 それは俺の社会的な名誉。

 即ち、この動画に映ってはいけないということだ。

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