第36話 釜出の術
やってきた決闘の場、体育館。
床にテーピングされたバスケットコートのラインが、懐かしさを漂わせる。
大学入ってから体育館なんて入る事がなくなった。
……いかんいかん。
ほっこりしている場合じゃない。
体育館の隅に移動し、荷物を整理していると、体育館に三名の男女が入って来た。
こう言っては何だがとても解りやすくていい。
入って来たのは三人。
一人がビデオカメラを片手に持っているから、後の二人が陰陽師だろう。
とても個性的だ。
一人はスプレー缶が何本いるんのか解らん位、髪を盛った女性。
コレから対決だというのに何故か小豆色のドレスだ。
胸も身に着けているものもとにかくゴージャス。そんな感じ。
もう一人は黒いスーツで身を固め、髪をパキッとオールバックに決めている。
ぱっとSP見たいなボディーガードを連想する。
これ陰陽師対決じゃないの?
……はっ!? そうか。
一ヶ月桑野さんといたせいか、俺の頭の中は知らぬ間にしっかり染まっていたのかもしれない。
今どきどちらが動画栄えするか、或いは動画を見た人に人気が出るかなんて考えるまでもない。
「くっ……しまった……」
桑野さんも相手をみて歯噛みしている。
そんな桑野さんにゴージャスは女性が歩み寄り、先制口撃。
「あら、随分古めかしい格好だこと。
おっと失礼。自己紹介をさせて頂きますわ。
釜出家陰陽師が末裔、釜出沙貴理と申します」
「桑野家陰陽師、桑野美果多です」
「本日はどうぞお手柔らかに。
といっても型式に捕らわれた家の御様子。
術もまた古臭いものなのでしょうけれども。オーッホッホッホッホ」
……うわー。
いるんだこの御時世にこんな人。
どっちが古臭いのやら。
とはいえ、二人の様子を見る限り、残念だがこの勝負はどうやら桑野さんの負けらしい。
……何の勝負だっけコレ?
「それでは早速ですが術比べに入らせて頂きます。
では、まずは武の術比べと参りましょう」
ビデオカメラを盛っている人が取り仕切るらしい。
審判が相手の連れてきた人で良いのだろうか?
「ご安心を。
今回の術比べは公平性を保つため、動画にして一般公開致しますので。
贔屓やズルのような真似は致しません。公平なジャッジをお約束致しますわ」
「構いません。
ただし動画はこちらも撮影させて頂きます」
「よろしくてよ」
どう考えても動画の目的が違うと思うが、まあいいか。桑野さんが三脚を立ててビデオをセッティングしたところで術比べは始まった。
早速体育館に二本の丸太が置かれる。
新しい生木。多分桑野さんでも素手で割るのは無理だろうな。
その新しい丸太が重そうな広い土台に衝き立った。
この的を先に壊した方が勝ちらしい。勝負が無茶だ。
丸太はどちらも同じような太さ。
あちらが用意した丸太と言うことで、桑野さんに丸太を選ぶ権利が与えられた。
「ではこちらで」
丸太を入念にチェックし、桑野さんが丸太を選ぶ。
「そう。では斎藤」
「はっ」
向こうの代表者はゴージャス嬢ではなくオールバックらしい。
「斎藤
以後お見知りおきを」
「桑野美果多です」
桑野さんが再度自己紹介をし、荷物から小さな手斧を取り出す。
うん、まあホームセンターに売ってるけども。
「ふっ」
斎藤と名乗った男はその姿を鼻で笑いながら荷物からチェーンソーを取り出した。
「なっ!?」
「下調べを綿密に行い、的確な準備を怠らない。陰陽師の基礎中の基礎というもの。
悪く思いますな」
「フフフ、すでに勝負あったかしら?」
「くっ……勝負はやってみなければ解りません!」
「あら、そうですか。
まあ精々頑張って下さいませ。オーッホッホッホッホ」
この人達これを動画で流す気らしい。
頭大丈夫かな? あ、俺も映るのか。
急にやる気なくなってきた。
「では……始めぃ!」
「はああ!」
開始と同時に己を丸太に叩き付ける桑野さん。
対して斎藤と名乗った男はチェーンソーを起動させる。
ヴィーーーーーンと機会音がなる真新しいチェーンソーを起動させ、丸太に押しつける。
断然桑野さんより早い。
「くっ……はああ!」
負けじと桑野さんが猛烈に斧を叩き付ける。
力一杯叩き付けているように見えながら、常に同じところに振り下ろされる精度。
流石と言って良いのだろうか?
もう正直この勝負をどう見て良いのか解らない。
最初聞いたときは異世界学園もののラノベでありがちな、魔法の的当て試験みたいな高揚を実はちょっと期待していたのだが。
実際見てみると、「お、おう……」って感じ。
ひたすら斧を振り下ろすも、流石の桑野さんでもチェーンソーには勝てないらしい。既に半分まで刃の進んだチェーンソーに対し、桑野さんの斧は丸太の四分の一を削り取った位だ。
一戦目は負けかな。
大丈夫だよ桑野さん。動画を見た人、多分この勝敗結果を依頼する陰陽師の選考基準に適用しないから。
心の中でエールを送っていると、桑野さんは諦めたのか、斧を丸太へと叩き付けるのをやめ、床に置いて、両腕を垂らし目を閉じた。
「あら、潔く負けを認めたかしら?」
煽るゴージャス嬢。お前、これで勝って本当に満足か?
いや、負け惜しみとかじゃなくて……
桑野さんがそうしている間にも斎藤のチェーンソーは進んで行く。
あと四分の一。
と、その時桑野さんが目を開け、猛り上げた。
「桑野家護身法身固め、奥義!
臨! 兵! 闘! 者! 皆! 陣! 烈! 在! 前!」
怒濤の九連撃を斧に叩き付ける桑野さん。
体育館全体をを揺るがすような重い打撃が刹那の瞬間に九つ叩き込まれる。
「な!?」
ゴージャス嬢が驚愕の表情を浮かべる。
丸太は土台と接着剤でくっつけられていたのかな?
衝撃に耐えられず、丸太は今の打撃で生じた亀裂から破片を飛ばしながら、土台からメキンと音を立て、白い粉を舞わせながら吹き飛んだ。
……えーっと。丸太は一応無事だから勝負続行かな?
「勝者! 桑野家!」
「馬鹿な!」
同感。
「このような破壊の手段があったとは」
うなだれる斎藤さん。
そんな彼等を尻目に喜びをあらわにする桑野さん。
ゴメン。だれかどういうことか教えて。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます