第33話 身体能力の活かし方

 猪をなんとか仕留めたものの、若干の反省点というか……思う所がある。

 現状ファイヤーボールがショボいこともあって俺の最大火力は槍か短刀での一突き。時点が金属バットでのフルスイングだ。

 まあ要は物理。


 スキルを求める俺は言わば魔法使い系統のジョブを希望しているわけだが、現状やっていることは戦士とか、そういう言わば物理系だ。


 鑑定が取得できていない現状解らんが、もしこのゲーム……現実だけど、ダンジョンで上がるステータスが戦闘手段により変わるタイプだった場合、俺は間違いなく物理特化系に育ってしまう。


 ゲームでもソロプレイは物理の方が有利なこと多いよね。偏見かな?

 魔法使いは使える魔法の回数にMPの縛りがある上、魔法と物理攻撃のダメージがそんな変わらなかったりするともう物理一択ってなるパターン。


 それはともかく。


 考えてみるとレベルアップによって身体能力が上がれば、それも就活に活かすことは可能だろう。いや、魔法使いを諦めたわけじゃないよ?


 例えば警備員。

 警備員に戦うことを求められているかどうかは怪しいが、弱いよりかは強い方が需要あるよね。多分。


 例えば格闘家。

 ダンジョンでレベルアップの概念が明らかになったら……ドーピングに分類される可能性もあるかな。ていうか殴り合いが仕事とか普通にイヤだ。


 あと何だろう?

 警察とか自衛隊とか? 大変そうな職業しか浮かばない。


 あ、ロッククライマー……もっと大変そうだ。


 まあ、今頭に浮かばなくても後で見つかるかもしれない。

 世の職業を全部知ってるわけでもなし。


 なんにせよ、このレベルアップの恩恵を放っておく手はない。

 贅肉で構成されてブヨブヨだった腕が、現状は曲げれば力こぶがそこそこムキッと盛り上がる位に筋力も発達した俺の身体。

 使えんことはないだろう。


 ただね。

 発達したのだが、なんというか……宝の持ち腐れ感がすごいんだよね。


 例えるならF1のエンジンを軽自動車に組み込んだような?

 例えがちと違うか。要は俺のパワーを俺自身が全く使いこなせていない状態を自覚している。


 本来ならもっと効率的に猪も倒せたんじゃないかと思う。

 というか毎回網買って相手を捕まえてからヤるとか無理。

 ゲームでもデバフって、スキルを覚えていれば使うかもしれないが、武器とか防具そっちのけで所持金一杯アイテム買って使ったりしなくない?


 猪が網をブチブチ千切った実績を考えると、一回こっきりの使い捨てとは言わないまでも網の使用回数には限りがありそうだ。というか、ある。

 網、高いのよ。そんな使っちゃ捨ててー使っちゃ捨ててーってやってたら折角バイトで稼いでも貯蓄が猪の為に全部溶けてしまう。


 猪を倒すのはあくまで手段だ。

 目的はスキルアップ。

 猪をひたすら倒してレベルアップしてスキルアップに期待するのも一つの手だが、可能ならばスキルスクロール的なものに期待して、次に進んで行きたい。


 その為の方法は簡単だ。

 自分の力で倒せるように鍛えるべきなんだろう。

 そんなことが出来るなら最初からぶよぶよの贅肉人間になったりしてないが。


 どこぞのブートキャンプの如く嫌がる俺を無理矢理引きずり出してくれる鬼教官が俺には必要なのかもしれない。

 俺は基本出不精だが、やらなきゃいけないと言われればやるタイプだ。

 勉強が何より嫌いなくせに宿題とかはちゃんと提出する奴。

 おかげで一応とはいえ国立の大学に入れたあたり結果も出せている。


 厳しく俺を導いてくれる先生。出来れば週一くらいで。

 そんな都合の良い人はいないだろうか?

 とか言っている時点で今後どうなるかはお察しなのだが。


 大学四年生が始まり、研究室に配属して研究テーマを振り分けられた。

 俺が選んだテーマはそこそこOB達によって研究が進行しており、過去の先輩達の卒論を丸々コピー……は流石に拙いが、ちょっと加筆すれば問題なさそうだ。


 つまり、あんまり大学には行かなくてもOKなんじゃないかと思われる。


 空いた時間を使って最初は空手道場にでも行こうと思ったが、月謝がさ……

 というか猪相手に空手が機能するのか結構微妙だ。


 ネットで武術系動画とか見ても対人戦にしか使えなさそうな知識ばっかりだし、なにより俺に一人コツコツ地道な努力とか無理だ。

 ランニングマシーンで走るのは辛いけど、外に出れば続けられるってタイプの人は解るんじゃないだろうか?

 今ダンジョンに一人潜ってコツコツレベルアップ出来るのは、ダンジョンがあるから出来るのであって……


 はぁ……

 ないものをねだっても、精々出てくるのは愚痴くらいだ。


 というかラーメン屋のバイトがなくなった今、網で捕まえてチクチク作戦も難しい。うん、まずバイトを探すのが先だな。


 アルカナバイトを立ち上げるためスマホを起動する。


 すると画面が通話画面に切り替わった。


「またコイツか……」


 桑野美果多。

 俺を自分の専属バイトだとでも思ってるんじゃねえの? コイツ。

 切ってしまおうかとも考えたが考え直す。保険もない実戦バイトなんぞ多少金額が大きくてもお断りしたいが、相手がまた水子だった場合近くにダンジョンへの入り口があるかもしれない。


 んー……


 迷った末に嫌々ながら電話に出る。

 そして結局、俺は翌日桑野家へと向かうことになった。

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