4章 ~術比べ~
第32話 釜出 沙貴理 ~陰陽師の愁い~
<Stranger’s Record>
長い旅路の果て、漸く見つけた“ヒト”なる者達。
しかし彼等は肝心の物を持っていなかった。
それは文明。
我々は選択を求められた。
彼等を諦め、また旅にでるか。それとも彼等を育てるか。
彼等を見つけるのにどれほどの旅路を歩んだか。
我らは選んだ。彼等を育てる道を。
だがどれほどの時間があるだろう。
我々十二人の主張は割れ、議論は難航を極めた。
我々に停滞は許されない。
最後に決断を下したのは私だ。
我々は別れた。
戻る者と、留まる者とに。
◇◆◇◆◇
陰陽の術を継ぐ家はなにも桑野家ばかりではない。
代々伝わる代々伝わる退魔の術を磨き、今も残る陰陽の血筋。
「はぁ……」
その娘、
暗い闇が広がる空に抗うように、朱色に染まる西の空。
だが時間が経てば、西の空もいずれは闇に覆われる。
そんな風景に自分の家を重ねたのかもしれない。
「……」
見つめたところで日は再度昇ることはない。
これもまた時勢。
愁いたところで変わるものでもなし。
釜出家もまた同じ。
陰陽師として再興することはもはや叶わず。
「沙貴理様」
「あら、齋藤。どうかしました?」
執事に返事をしながら沙義理は僅かに自嘲の笑みを浮かべた。
(少し白々しかったかしら?)
まだ寒いこの時期に、窓辺でずっと外を見ていたのだ。
どれほどそうしていたかは、もう冷えきった紅茶を見れば一目瞭然。
それは心配もされるだろう。
だが、齋藤と呼ばれた男は全く予想外のことを口にした。
「沙貴理様はこちらの動画はご覧になられましたか?」
齋藤がそういいながらテーブルにタブレットを置く。
題名は【河童が陰陽師に退治された瞬間】。
「何ですか、これは」
俗な動画に呆れながらも沙貴理は動画を再生した。
そこには確かに河童が陰陽師によって退治されている瞬間が映し出されていた。
「齋藤……これは……」
「はい。どうやら釜出家と同様陰陽師の末裔のようですね。
真相は不明ですが、動画でもあった通り近頃話題の陰陽師を偶然見つけた撮影者が彼女を見つけ、隠し撮りをした瞬間ということのようです。
撮影者の素性は不明ですが、陰陽師については調べが付いています。
桑野美果多。他にも彼女の動画はあり、それが評判となって今桑野家には様々な依頼が舞い込んでいるとか」
「……なるほど」
齋藤の言いたいことは理解した。
陰陽師たる家が没落するその要因は、信仰薄い現代の民衆に陰陽師を頼る者がいないことだ。
「沙貴理様も同様の方法を用いれば或いは……」
「いえ」
「沙貴理様?」
齋藤からの提案を沙貴理は考え、そして否定した。
何か気に障っただろうか?
沙貴理の口調に齋藤は自分の主の機嫌を損ねたかと提案に後悔しながら頭を下げようとする。が、その頭は下げる途中で止まった。
沙貴理の表情は笑みへと変じていたからだ。
「齋藤。この者を見つけ、
「文、ですか?」
齋藤には主の考えが解らなかった。
文を書くのは自分の仕事だ。
「沙貴理様、それはどのような……?」
だから主の意図を聞き出そうとする齋藤に、沙貴理はこう言った。
「術比べを致しましょう、と」
その一言で齋藤は主の意図を汲んだ。
沙貴理はもっと効率的な手段を選んだのだ。
術比べ。それは陰陽師の決闘ともいえるもの。
その決闘に勝てば、そしてそれが民衆に伝わったならば。
沙貴理は桑野美果多を術者として負かし、それを動画にすることで、桑野家に舞い込む依頼毎桑野美果多の名声を乗っ取るつもりなのだ。
「日は沈めどまた昇る。そういうことですわ!
オーッホッホッホ!」
まだ沈みきらぬ夕焼けの空に、沙貴理の高笑いが木霊した。
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