第6話 スキル検証
サバイバルスティックは組み立てて槍にし、黒い渦を抜け、ダンジョンに入る。
前回はここで鼠っぽい何かが出て来た。
鼠が出て来た穴はある。
が、鼠が出てくる様子はない。
リポップがないのか、リポップにまでまだ時間がかかるのか。
んー……わからん。考えて解るわけもない。
出来ればリポップをガンガンしてくれた方が良いのだが。
奥に進めば進むほど帰るのに苦労する。
別に危険な目に遭いたいわけじゃない。
できる限り簡単に倒せる敵を狩って、レベルアップしてスキルを手に入れたいだけだ。
最初の敵がリポップしてくれるのなら、ソイツをひたすら倒したかったが、世の中というのはそうそう甘くはないらしい。
しかたない、進むか。
そう意気込んでダンジョンを見る。
薄暗く、遠くまでは見えない。
ヘッドライトだっけ? 頭につける懐中電灯をなぜ俺は買わなかった?
前回敵にビビって逃げたこともあり、ダンジョン内の記憶が曖昧で失念していた。
今度買うことにしよう。
頭につける懐中電灯で思い出したが、ヘルメットも欲しい。
頭を守れるから良いだろう。
てゆーか、大体防具を身に着けてないとか無防備すぎないだろうか?
防弾ベストとか売ってるよな……金ないけど。
どうやら自分だけがダンジョンを見つけた高揚感で相当舞い上がっていたらしい。
ダンジョンに入った途端、足りないものがドンドン見つかる。
現代ダンジョンもののラノベでも読み返せば、この辺りは忘れなかったろうに。俺のバカ。
最近のRPGとか主人公が普通に私服だったりするから、ついね。
……言い訳してる場合じゃない。どうしよう?
不足していることが解っているのに進むべきだろうか?
いざ来て見るとビビって帰る理由を探している自分に気付く。
一体だけ。敵一体だけ倒して帰ろう。
なんかこう、何もせずに帰ったら今後もう二度と来れなくなる気がする。
若干震え始めた足をバンバン叩き、歩こうとするが足が前にでない。
ヘタレか? 俺は。
んー。そうだ、スキルの検証はどうだろう?
青い炎だ。
人差し指を立てて神経を集中する……あっつ。
OK。火は出た。
じゃあ次。火を飛ばす。
飛ばせなかったら何の為にある能力か解らない。自分が火傷するだけのスキルとかマジでゴミだ。だから飛ばせん事はないだろう。
問題はどうやって飛ばすか……まあ色々試してみるしかないか。
ここなら人目もないし、出口もすぐ後ろ。
声を出してモンスターが来てもすぐ逃げられる。よし。
さて試すといっても何からやれば良いだろう?
まずは……やっぱりアレかね。
「かー、めー、はーアッチィッ!」
……これはダメだな。溜めてる間に手が燃える。
んー。つまり火を出現させると同時に飛ばさないと俺がダメージを喰らう訳か。そらそうだよな。
参考にするものを間違えた。ダンジョンのスキルだ。
異世界ものの魔法のイメージでやってみよう。
手を広げて前方へ突き出す。魔方陣は……まあ今回は妥協する方針で。
手の平に火を出現させる。
「行くぜ、ファイヤーボール! ……あっつうう!」
青い火は俺の手を焼き続けた。
ダメか。じゃあ……あ、そうか。魔法使いの武器と言えば杖。
杖は……スティックという位だからサバイバルスティックで代用できるか?
あとアレだ。詠唱とかしなきゃダメかな?
呪文……知らんがな。まあ適当で良いか。
「我が内に眠る炎の精霊よ。求めに応えて敵を撃て。ファイヤーボール! ……あついってばぁあ!」
…………
その後二時間ほど試して、野球ホームで腕を振りながら炎を出すと、五メートルくらい飛ぶことが解った。流石俺。結果にコミットする男。
スキルの名前は知らないが、どうせ初期スキルなんだからファイヤーボールだろう。ボールだもんな。そら投げないと飛ばんわ。
手が真っ赤になってめっちゃヒリヒリしてサバイバルスティックを持つ手が痛いが、遠距離武器を手に入れた引き替えの尊い犠牲だ。仕方ない。
今日はまだまだ時間がある。よし、今度こそ進むとしよう。
スキルがある。それだけでなんと心強いことか。
今度は足が前に出た。
僅かに進んで、前に鼠が出て来た壁の穴をチェック。不意打ちとか嫌すぎる。
暗いので奥まで見えないが、かといって近寄ってのぞき込む勇気はない……そうか、槍を突っ込めば良いのか。
フンッ! フンッ! フンッ!
手応えなし。今日はやっぱりいないようだ。
或いは俺に恐れをなしたか? 臆病者め。
周囲を警戒しながら更に歩を進める。慎重に忍足で。
克服できない恐怖のせいで進むのが自分でもイラッっとする程遅いが、最初はそんなもの。それでいい。
焦らないよう自分に言い聞かせ、床をサバイバルスティックの後ろ側。槍で言うところの石突でコツコツしながら進む。
ダンジョンと言えばトラップだ。
床にスイッチとか定番。
そう考えるとやっぱりヘッドライトは必須だな。
罠があるかもとか言いながら、前方すらよく見えない状況をよしとしている意味がわからない……帰るか?
そう考え始めると、帰りたいという感情が吹き出すように出て来た。
そりゃそうだ。だって怖いもん。
よし今日は戻ろう。
そう思って戻って来た道を戻ろうと背を向けると、
『ヂュイー』
あーそう。このタイミングですか、そうですか。
通り過ぎた穴からまたあの鼠が出て来た。
それも二匹……話が違うぞ?
帰り道を鼠二体に塞がれた形。
どうしよう? いきなり二匹はハードルが高すぎる。
落ち着け俺。落ち着け俺。
鼠二体と目が合った。
そして鼠は身をかがめてこっちを向いた。
戦闘態勢だな。知ってる。その状態から近寄って突然ジャンプしてくるんだよね。
まだ鼠との距離はある。
どうする……ファイヤーボールは射程外だ。
槍の切っ先を片方の鼠に向ける。
同時に跳んできたらどうしよう?
ダメだ。多分守りの姿勢じゃ負ける。
先手だ。先にまず一体仕留めなきゃ……そう思う一方身体が恐怖に震えて思うように動かない。
『ヂュイイイイ』
威嚇のつもりが濁った鳴き声を響かせながらゆっくり近寄ってくる鼠達。
それに合わせて後退る俺。
ダメだ。この状況はダメ。
この状態でトラップのスイッチを踏んだりしたら詰む。
行け! 行くしかないんだ!
「おお!」
気合一発、槍を構えて前に踏み込む。
驚いたのか、鼠たちが今度は後退る。といっても俺みたいなへっぴり腰の後退じゃなくて俊敏なバックステップ。
流石野生の生き物。野生か? 分らんが戦いを前提に生きてらっしゃる。
今のを見て解るが、動きは向こうが圧倒的に早い。
何か足止め……あ、そうだ。
ショルダーバッグから発煙筒を取り出し、槍を脇に抱えて切っ先を鼠に向けながらキャップを回す。
震える手にイラつきながら、何とかキャップを外して発煙筒に火を灯す。
「っら!」
本当は二匹の間に投げようと思ったのだが、手が震えているせいで若干コントロールが狂い、一匹の鼠の前に発煙筒が落ちた。
『ヂュイ? ヂュイィイイ!』
投げた場所は思った通りではなかったが、これはチャンスだ。
発煙筒を目の前に投げられた鼠は、煙が目に染みたのか、逃げるように後ろに下がり、二匹の鼠を分断できた。
その場に残った鼠も、目線は発煙筒。つまり、これは完全なるチャンスだ。
「ぉおお! ファイヤーボール!」
『ヂュイー!』
ダッシュしてジャンプしながらファイヤーボールをぶん投げる。
ファイヤーボールは鼠にヒット。ボンと音を立てて鼠の表面を焼く。
走って来た俺に気付いて迎え撃とうとしていたようだが、目の前を突如覆った青い炎に視界を焼かれて動きを止めた鼠。
「っらあ!」
そこに槍を突き込むことは今の俺にも難しくなかった。
『ヂュイー!』
「あああああ!」
刺しどころが悪かったのか、刺した鼠は生きていたが、槍から抜けていない。
恐怖と気持ち悪さを堪えながら、刺さった鼠を槍ごと壁に叩き付ける。
グシャッと音が聞こえ、叩き付けられた衝撃で槍から抜けて床に落ちた鼠がグッタリしたのを視界に捕える。
「っしゃあ! 後一匹!」
一匹やれたからか、脳内で吹き出し始めたアドレナリン。
もう一匹にすぐさま槍の切っ先を向ける。
『ヂュイィイイイ!』
もう一匹の鼠は目の痛みからは復帰したのか、仲間がやられてそれどころではないのか、怒りの視線をしっかりこっちに向けてきた。
大丈夫。俺はやれる。
鼠は攻撃態勢をとり、前回のヤツと同じように跳んできた。
「っらあああ!」
槍をバットのようにぶん回し撃墜。やっぱり壁に叩き付けられた鼠は今度は生きて立ち上がったが、俺は既に鼠に向かって踏み込んでいる。
「食らえよ!」
突きだした槍が鼠に刺さる。もがく鼠を槍を指したまま押さえつける。
頼む。このまま逝ってくれと念じながら。
どれ位押さえつけていたのか、体感的には長かったが、そうたいした時間ではなかったかもしれない。
鼠が動かなくなったのが感触で解り、槍を引く。
そういえばと思い出し先に倒した鼠を見ると
「へ?」
鼠の死体を黒いネバネバした液体のようなものが覆っていた。
新しいモンスター? スライムかな?
見てわかる。物理攻撃……少なくとも槍は効きそうにない。
「ファイヤーボールをぶち込むか……いや、もう今日は勘弁だ」
幸いにも黒いスライムは鼠の死体にお熱だ。
鼠に使って解ったがファイヤーボールはあんまり威力に期待できない。
赤い水晶まで走り、走った勢いのまま赤い水晶を押し込む。
駆動音が鳴り、黒い渦が発生するまでの間、黒いスライムを警戒する。
黒いスライムが動いた。
先に倒れた死体は鼠は黒いスライムがどうにかしたのか、骨も残らず消えている。
そして黒いスライムは、次のターゲットにもう一匹の鼠を選んだらしい。
黒いスライムが残る鼠の死体に纏わり付くその光景を見ながら、俺は開いた黒い渦へと逃げるように飛び込んだ。
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