第3話 落ちたモノ

 とあるありふれた家庭。

 一軒家に住むその娘は空を見ていた。


「お父さん! お母さん! 見て見て、あれ!」

「おおー」

「はいはい。あら、思っていたよりよく見えるわね」


 突如ニュースで流れた宇宙からの飛来物。

 大気圏で高熱を発し、全身を赤く染めたそれは、灼熱の尾を引いて空を縦断していた。


「なんか槍みたいだね。かっこいいー」

「そうだな」

「もう。被害を受ける方々がいるかもしれないんだから……」

「まあいいじゃないか。

 日本の領土からは外れるって政府が発表したんだろ?」

「そうだけど……領海には墜ちるかもって。

 一応海岸沿いの人達には避難警告が出ているみたいよ?」

「ん……そうか……

 よし、アゲハ。戻ってご飯食べよう」

「えー」

「えー、じゃないの。

 ほら、今度の休みはお爺ちゃんと会うんだろ?

 アゲハが風邪引いたらお爺ちゃん悲しむぞ」

「んー、じゃあ戻る!

 ……ねえ、お爺ちゃんもお星様調べてるのかな?」

「考古学者はお星様は調べないかな」

「えー」



 翌日のニュースでこの飛来物はこう報道され、その後人々の記憶から消えていった。


『昨日確認された飛来物ついて最新の情報です。

 飛来物は昨夜、昨年閉鎖された人口海上都市、NE-WSニウスに衝突しました。

 政府の発表では、閉鎖された海上都市に人はおらず、人的被害はないとのことです。また気象庁からは、この衝突による津波被害の心配はない、とのことです。

 この飛来物について、政府は隕石であるとし、あくまで念の為であることを強調した上で、現在新しい細菌や微生物等、災害となる要素がないか等を調査をしていると発表しています。

 これを受けまして、現在NE-WSは自衛隊により封鎖をされており、取材の立ち入りは

許可されておらず、飛来物の映像などの詳しい情報は入手できておりません』




◇◆◇◆◇◆


「そういえば見ました? 昨日の」

「ん? ああ」

「綺麗でしたよね? 私めっちゃお願い事しちゃいました」

「強いなぁ。まあ、確かに流れ星と言えば確かにそうだな。

 俺は本当に近くに落ちないのかってヒヤヒヤしながら見ていたよ」

「アハハ。クルイさんは?」

「ん? え?」


 なんか桑野さんと八須賀さんが喋ってんなー、くらいには認識していたんだが、何も聞いてなかった。


「どうかしました?」

「いや、ちょっと考え事してて。で、なんでしたっけ?」

「隕石ですよ。昨日の隕石」

「ああ。はいはい。俺は……見てないっスね」

「ええ!? どうして?」

「あー……大学の単位がヤバくて、それどころじゃなくて」

「わ。カワイソー」


 全くそんなこと思ってないだろう顔でそう言われたが、実際カワイソーではなかったので受け流す。


「って、なんかクルイさん。目の下青くないですか?」

「ちょっと……昨日眠れなくて。あー……そう、勉強のせいで」

「うわー。大丈夫ですか? この後実技試験ですよ?」


 正直、大丈夫じゃないかもしれない。

 一昨日身に着けたスキル。そのおかげで昂ぶった気分は昨日一日ずっと続いて、昨夜は眠れなかった。

 隕石? それどころぢゃねえよ。

 テレビやネット動画も見ずに昨日はひたすら一人で悶々と考え事をしていた。


 考えてもみて欲しい。俺は考えた。


 ダンジョンだ。モンスターだ。そしてスキルだ。

 モンスターを倒してスキルを得た。これの意味するところは?

 レベルアップだ。

 当然アパートで叫んださ。「ステータスオープン!」と。

 隣の住人が壁を叩く音が返って来ただけだったけど。


 その後色々試してみたが、ステータス画面は見えなかった。

 だから俺は考えた。俺史上一番頭使った。


 多分ステータスは鑑定スキルみたいなのがないと、見えないのではないのだろうか? これに思い至った俺は控えめに言って天才だと思う。


 言い方を変えれば、レベルアップを続ければ、いずれそういったスキルも身につくんじゃなかろうか?


 スキルと言えば鑑定と空間収納。二大巨頭だ。


 例えば鑑定。物をみれば、その状態を目に映すスキル。

 そんなものがあったなら、産業界に革命が起きるだろう。

 工業界において、開発や量産というのは製品不具合との戦いだと聞いたことがある。造っては不良が出て来て原因調査。そして対策。

 この原因調査を鑑定スキルがあればマルッと飛ばせる。


 例えば空間収納。これは現実だと運送業にしか使えないか?

 もしゲットできたらフォークリフトなんぞ御役御免だ……容量次第だけど。


 まあなんにせよ、スキルを手に入れれば絶対就職で有利になれる。


 その意味で俺のスキルはハズレであったが……

 青い炎を灯すスキル。使える職業が放火魔くらいしか思い付かない……職業か?


 まあ外れたからと悲観する必要はないだろう。

 大事なのは、こんな金を払って習得する資格や免許より遥かに有用なスキルを覚えられる術を手に入れたってことだ。

 しかもダンジョンの入り口は俺の秘密基地。皆知らない。


 勿論最初は胡散臭いと思われるかもしれない。

 だが、タイミングを見計らい、あのダンジョンを動画で配信したら?


 世間にスキルが周知されれば話は別だ。

 政府があのダンジョンを封鎖し、誰も入れなくしてくれたりしちゃった日にゃあ、ダンナ。お解りでしょう?


 様々なスキルを俺だけが使える。

 あらゆる企業から引っ張りダコの未来が見える。


「クルイさん……急にニヤニヤして、どうしたんですか?」

「え? あ、いや……なんでも……」


 いかんいかん。

 

 そう上手く話が転ぶか? という不安は勿論ある。

 解っている。

 時節を見ながら臨機応変に動かねばなるまい。


 何はともあれ。

 今後何をすべきかは決まった。

 あのダンジョンを攻略し、スキルを手に入れ検証する。

 これじゃなかろうか?


「じゃあ試験を始めます。

 えー、久留井くるいさん。久留井くるい歌舞人かぶとさーん」





 ………………


 だからいいんだ。

 今日の試験の結果は。


 はい。次回の予約をお願いします。

 今度こそ頑張ります。

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