詩「堤防から」

有原野分

堤防から

 堤防から飛んだ瞬間、空と海がぐちゃぐち

ゃに混ざり合った。籍を入れていない彼女と

その娘が見守る中、プラスティックの薬箱が

割れるような、暴力を振るった元夫を思い出

すような、空気と空気がぶつかって弾ける音、

いくら浅瀬が透き通っていようが、少し深く

なればなにも見えず、壊れたゴーグルと真っ

赤になった眼球、その視線の先になにひとつ

 変わらない彼女と娘と。


         ☆


空中に飛んでいる魚 うろこ やけ酒 黒ず


んだ顔の釣り人(夫婦だ)「幻燈の思い出」


         ☆


 空と海と野次馬と、ぐちゃぐちゃに混ざり

合っていた世界と、壁になった堤防と、鼓膜

に残る残響と、激しい痛みと、背中に残った

恥ずかしい思いと、いつの間にか消えていた

恐怖と、ぼくはいつの間にかぼくではなく、

「飛び込んで顔を打ったぼく」に生まれ変わ

っていて、そしてこれから先、もしかしたら

一生、ぼくは世界を騙して生きていくのかも

 しれない。

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詩「堤防から」 有原野分 @yujiarihara

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