晴れ女とはいっても
手をつないでいた少女は私の手を振り切って、パッと後ろへ駆け出した。振り向くと、黒い裾を四角い凧のように、はためかせて走っていく。
職場で部署が異動になった。雑誌の原稿を書いたり、3Dモデルを作ったり、金属の部品を作り出したりする謎の部署。一見、普通の小さいオフィスなのに、机によっては天井から棚や照明がたくさんぶら下がっていて、よくわからない工具がいっぱいある。
私の他にも異動で来た新人が数人。
その中に、お嬢様キャラがひとりいた。
「天才のワタクシに任せてくだされば、万事上手く行きますことよ!」
オホホホホ!とばかりに自信満々でちょっとヤバいなと思っていた。漫画やアニメ、VTuber以外で見ることがあるなんて……。
とはいえ。
お嬢様もこんなに変わった部署は初めてだったらしい。特に何か起きることもなく、みんなで先輩のPCを覗き込み、仕事のレクチャーを受けていた。
「――3Dモデルの作成についてはこんな感じで……」
そのとき。不意にガガガガガっ!と大きな音がした。
振り向くと、ゴーグルをしてよく分からない工具を持った同期。そういえば、変わった部署に配属されたと言っていた。レクチャーしてくれる先輩の後ろの席だったらしい。
「よっ!」
ゴーグルを外しニカッと笑って、大きなネジのようなものを嬉しそうに見せる。足踏みの工具を使って、手作業で金属片から削り出しているという。
「実はワタクシ、前の部署ではこんなことをしておりまして――」
彼が私の同期と知って、対抗心を覚えたのか、何故かお嬢様は以前の部署で発行していたという雑誌を大声で音読し始めた。
ワケが分からないので、無視して同期に工具の説明を聞いていると、ぶちギレられた。
「ちょっと!聞いてますの?!」
足元の工具を覗き込む私の身体をガンガン蹴ってくる。同期が何やら宥めると、「フフン、貴方は分かってますわね」とか何とか機嫌を持ち直す。あぁ、同期くんは優しいな。
優しい彼が相手をしてくれている隙に、私はそーっとその場を離れた。
「晴れ女っぽいお嬢様だな」
近くの席でPCとらめっこしている髭の男性の呟きが聴こえた。
「晴れ女の需要はいっぱいあっても、彼女の人気があるかは別だな」
と画面から目を離すことなく、言葉を続ける。浅黒く焼けた彼の横顔。
何と返せばいいのか分からなくて、苦笑いを浮かべて、起きた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます