卯月

うとうとと黒い人と

 私は職場の席が近くのおじさん達と、世間話に興じておりました。たわいもない世間話です。

 すると、不意に黒い人影が現れました。

 それは、下のフロアから生えてきたかのように、床から突き出すように出て来ました。

 たまたまそこはひとりのおじさんの席だったのですが、その影はおじさんを椅子ごと呑み込んでしまいました。いや、『呑み込む』というより、『重なる』といった方が正確だったかもしれませんね。ただ、影はまるで真っ黒の寒天のように見えましたので、『呑み込む』という印象でした。

 おじさんは濃い紺色の作業着を着ていたのですが、呑み込まれてしまうと真っ黒な闇の中にみえなくなりました。

 その影には長い脚と腕、頭もあり、身長は少なくとも180㎝はありました。どことなく綺麗で、どことなく不気味でした。

 ぼんやり見ていると、影はポリゴンが落ちたように、円筒を繋ぎ合わせたようなようなヒト型に静かに変わり、よりまっすぐに立ちました。厳密にはほとんど動いていないのですが、私にはゆっくり動いているように見えました。


 そして、影は周りのことなんて、全くお構いなしに「ぴーっ!!!」と、大きな警告音を放ちました。

 その甲高い音はとても人の心を不安にさせるもので。


 私は目を覚ましてしまいました

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