赤い枝とおばあさん

「みなさーん!私が白と言えば、黒も白ですからねー」

 後ろから少し甲高いおばあさんの声が響いた。もう何千回も聴いた声。


 いつの間にか、ここは独裁国家になっていたらしい。僕は心の中だけでため息をついて、ただただ前へと進む。

 桜並木の綺麗な街道。不意に振り返ると、長い行列。電柱についたスピーカーから、ポロンポロンと、調子外れのピアノが聴こえた。その音色に合わせたように、行列の人たちはピョコピョコ上下に揺れて歩く。

 まるで鍵盤みたいだなぁって思っていると、桜並木の枝々がグニャアと曲がって、人の頭を叩き始めた。まるで大きな指みたいに。

 みんな叩かれてることなんて気づいてないみたいに、無表情で歩き続ける。スピーカーの音が大きくなって、私の番が近づいたとき。大きな指が触れる前に、私の体がグラッと揺れて、電車は止まり、駅に着いた。

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