第53話 試食会(5)


「例えば週間、もしくは月間のローテーションで出したりできませんか?今月の新作!みたいな形で。売り上げが大きければそのままレギュラー化にすれば双方にとって利益があるのかなと…。」


 メモ用紙に簡単な絵を描いて伝える博人。4月はホイップアップルパイ(仮名)5月はゴロゴロアップルパ(仮名)6月はアソートアップルパイ(仮名)。といった具合にお試し期間?を設けるという案である。


「ほうほう、つまりは月替わり定食みたいな感じですかね?」


 博人の案に理解を示すように身近なモノに例える洋子さん。日菜子ちゃんも洋子さんの例えで理解を深めたのか、小刻みに首を振って理解を示していた。


「そんなイメージに近いです。」


 伝わってよかったと、微笑みペンを置く。


「難しいですか?」


 博人の中では意外といい案なのでは?と思い提案したものであるが、現実【あみりんご】でやる事は不可能と言われてしまえばそれまでである。日菜子ちゃんと同じように今回食べた3種類の試作は是が非でも食べたいと思っている博人。神に祈る気持ちで洋子さんの返答を待った。


「そうですね…それなら出来るかもしれません!」


 突発的な案にも関わらず好感触を示した洋子さんを見て、日菜子ちゃんと目を見合わせて喜んだ。


「ただ、お母さんと相談してからですね。折角いい案なのですがお母さんがゴーサインを出さないと難しいので、実現しなかったらごめんなさい」


 想像はしていたがそう甘くはないだろう。寧ろ紳士的な対応に惚れ直す。


「そうなったら仕方ないですよ。とても――とても残念ですが、新作の1種類を買いに行きます」

「ふふふ、そうしてくれると嬉しいです。ちなみに1種類だった場合、どれを置いてほしいとかあります?博人さんと日菜子ちゃんの率直な意見でいいので聞かせてほしいです!」


 博人の案が通らずに当初の予定で新作が出ることになった場合、3種類の中でどれを出してほしいか、そんな単純な問いに博人と日菜子は思考を巡らせ、頭に「強いて言えば」と団長の思いで順位付けをし始めた。


「日菜子ちゃんは何が良かったかな?深く考えなくていいからね!」

「うーん、どれも美味しかったです。強いて言えば、ホイップクリームの沢山入ったアップルパイが良いです!」

「ふむふむ、それはどうしてか聞いてもいい?」


 詰問にならぬよう、言葉を選びつつ優しく理由を聞く。


「口いっぱいに入れたとき、一番幸せって感じたからです。ごめんなさいわかりにくくて」

「ううん!すごい参考になるよ!ありがとう」


 日菜子ちゃんの言葉は確かに説明向けではないが、同じものを食べた博人は心の中で共感しまくり、力強く頷き同意見である事を示した。


「博人さんはどうでした?」

「僕も強いて言えばとなりますが、アソートアップルパイが良いなって思いました。」

「なるほど」

「【あみりんご】のアップルパイをお土産として持っていくと喜ばれるのは勿論なのですが、お土産用って小さなお菓子感覚で食べられるパイしかないですよね?このアソートアップルパイならお土産枠として丁度いいかなって思いました。」


 頷きながらメモを取る洋子と、流石大人の意見だなーと感心する日菜子。


「でも、ぶっちゃけどれが出ても嬉しいです!新作が【あみりんご】に並んだら教えてください!絶対に買いに行きますから!」


 【あみりんご】ファン改めアップルパイ馬鹿の博人。洋子さんと日菜子ちゃんから若干呆れを含んだ冷たい目を向けられるが、新作のアップルパイに気を取られ気が付く様子もない。


「まぁ、博人さんらしいかも」

「おじさん【あみりんご】も洋子さんも大好きですもんね」

「「ふぇ!?」」


 付き合ってからそこそこ日数を重ねるも、揶揄われたら初々しい姿を見せるいつもは頼もしいお兄さんお姉さんに「ふふっ」と小悪魔的姿を浮かべる日菜子ちゃん。博人と洋子は綺麗にいなすことは叶わず、熟れたリンゴのように顔を赤くすることしか出来なかった。


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