第49話 試食会
「じゃーん!!」
「「おぉ!!」」
机に並んだ3種類のアップルパイ。家には洋子さんが来ていたのだが、いつものように遊びに来たのではなく今日はお仕事に来たと言って家に上がった。
内容は試作のアップルパイを食べて、上位1つを新作に出す予定で、未だに【あみりんご】へ通い超常連の博人とそれに付き添う形でよく食べている日菜子ちゃんの元に審査員をしてもらおうという魂胆でやってきていた。
「この中から1種類だけですか、うーん見た目的にどれが並んでいてもおかしくないですね。それに袋から取り出した匂いがもう…食欲をそそりますね」
「ははは、おじさんアップルパイよく買うけど毎回新鮮な反応なんですね。確かに【あみりんご】のアップルパイはとっても美味しいですからわかりますけど」
「ふふふ、いつも――だけれど、今回は特に自信作なの。」
「「ゴクリ」」
自信作、美味しいアップルパイを作る【あみりんご】の店員さんが試作の段階で自信作と豪語する物は中々無かった。
今までであれば「どうかな?」といったテンションだったのだが、今回はどうやら気合を入れないといけないらしい。
はやる気持ちを抑え、一つ目のアップルパイへ手を伸ばした。
「一つ目は…いや、食べてからのお楽しみですね。どーぞ」
「「いただきます!」」
見た目はシンプルなアップルパイと同じ、長方形に模られた食べやすい形状だ。一口目に躊躇ってしまうと生地だけを堪能することになってしまうため大きく齧り付いた。だてに【あみりんご】のファンをしていない。呆れられるかもしれないが博人は真剣にアップルパイに臨んでいた。
その食べ方が果たして正解か否かはわからないが、一口目で生地の中まで口に入る。外面から何が入っているのかわからず、食べる前からワクワクしていた。しっかりと味わうように噛み締めるとモッタリとした甘みが押し寄せてくる。その正体はホイップクリームのようなものであった。勿論美味しいことに変わりはないのだが、博人のような年寄りではないが若くもない年齢のおじさんにとってはちょっと重いかなと感じつつも、二口、三口と噛り付いた。
「ふふん」
洋子さんが勝ち誇った笑みをこちらに向けてくるが、気にせず咀嚼しているとなぜ笑みを向けていたのかがわかった。正体に気が付いた瞬間思わず洋子さんの方へと顔を向けてしまった。洋子さんはきっと博人が驚愕の顔をするだろうと思っていたのであろう、悪戯が成功した子供のような表情を浮かべ小さくガッツポーズを取っていた。
「「すごー!!!」」
日菜子ちゃんと言葉が重なる。
一口目では甘ったるいホイップクリームが口の中を蹂躙していたのだが、二口目からころころとしたリンゴが口の中に入り込み程よい酸味と、触感でホイップクリームのモッタリ感を完全に打ち消し、ホイップクリームの良さだけを引き出していた。
「大成功!」
数種類あるから半分食べたら他のアップルパイへ手を出そうと思っていた博人だったが、それは甘い考えであると突き付けられた。口の中がなくなれば一口、また一口と身体が止まることをしない。気が付けば手からアップルパイはなくなり完食していた。
完全に食べ終わってからまだ食べなきゃいけない試作があるのにと、自重できなかった自分を責めたが後悔はしていない。
日菜子ちゃんも博人も浮かべる顔は惚けておりしばらく余韻に浸っていた。
「美味しすぎます洋子さん~、この中から一種類なんて選べないですよ」
「ほんとに、ねぇ…」
「ふふ、美味しそうに食べてくれて嬉しいです、はい、博人さんに日菜子ちゃん紅茶飲んで口の中リセットしてね」
「「あ、ありがとうございます」」
ここで紅茶を口に含んでリセットするべきなのだが、あまりの美味しさに紅茶へは手を付けずしばらく余韻を楽しんでから紅茶を飲んだ。
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