第45話 酒屋
「いらっしゃい博人さん、いつも息子がお世話になっています。お嬢さんたちもよく来てくれたね」
「初めまして、岸田博人と申します。雄大君はとても優秀で安心して仕事を任せることができ、助かっています。こちら前頂いたお酒によく合うお菓子です。良ければ受け取ってください。」
「「こんにちは!」」
「はい、こんにちは。ってあらあら、そんな気を遣わせちゃって。ありがとうございます。息子は見たまんま、チャラチャラした性格ですので厳しく、遠慮なく指導してやってください」
「ちょっと!母さん!博人先輩に余計なこと言わないで!俺が対応するから!博人先輩向こうにいくっすよ」
「あんたまだそんな言葉遣いで!博人さんが優しいからいいものの――もっとシャキッとしなさい」
「あーもう、母さんは置いといて博人先輩こっちっす!洋子さんと日菜子ちゃんも向こうでお酒見ているっすよ」
先日我が家で行った、休日どこに行くか会議で決まった雄大の親御さんが経営している酒屋に行こうという話になり、雄大に連絡を入れたところ二つ返事で了承してもらったため、こうして足を運んでいた。
母親の前では流石の雄大も恥ずかしいのか、三下のような語尾は控え気味である。顔も心なしか赤く、照れているのだろう。
「雄大さん、前頂いたお酒はどこですか?」
「洋子さん後ろの棚にあると思うっすよ!」
「あっ、ほんとだ!結構種類があるんですね」
「はは、まぁ酒屋っすから!」
「ふふふ、そうですよね」
「あ、日菜子ちゃん!こっちの棚はジュースっすよ!種類は少ないっすけど、お酒を見るよりは楽しいかもっす」
「わぁー雄大さんありがとうございます!――凄い、スーパーとかじゃ見たことないジュースがいっぱい」
「あー確かに、日菜子ちゃんが入るようなお店にはないっすね」
雄大のコミュニケーション能力の高さは、きっとここで培われたのだろうと一目でわかる。僕を母親から引き離そうと画策しながらも、洋子さんにお酒の位置を教えたり、日菜子ちゃんが少しでも楽しめるように誘導させたり、細やかな気を配っていた。
恥ずかしさからか、母親のことを邪険にしつつも酒屋の倅としてお店のことを手伝っていたり、手土産のアップルパイが美味しいこと、洋子さんのお店の物であることを嬉しそうに母親に話す姿に愛されキャラである所以を感じた。
「悪いね雄大急に来ちゃって」
「いえいえ!博人先輩なら大歓迎っすよ!」
「ははは、ありがとう。はいこれ」
みんなとは少し離れたところで雄大にお礼を渡す。電話した翌日という訳でもないが、急な要件だったこともあり結構気合の入れたお土産だ。パーティーのお礼という事や、休日の上司に会う申し訳なさという部分も含んでいる。
「え?いいんすか?」
「勿論、お酒に合いそうなおつまみをね」
「ありがとうございますっす!俺酒屋の倅なんでおつまみには結構うるさいっすよ?どれどれ――!?ちょ!!これ行列に並んでも買えるかわからない超有名な燻製チーズじゃないっすか!?」
「ちょっとした伝手でね」
社畜で仕事を多くこなしていた即ち、携わっている人も多いのだ。一歩踏み込んだ関係の人は作り難いが年数を重ねていくうちにそれなりに出来ていた。今回はそこの伝手を使わせていただいた形で、雄大の反応を見るにその選択は正しかったことを物語る。
「お気に召したかな?」
「も、勿論っすよ!どんなものでも正直嬉しかったっすけど、これは予想外過ぎっす。流石博人先輩っすね」
「喜んでくれたなら何よりだよ、ご両親と仲良く食べてね」
「はい!ありがとうございますっす!」
大変だったが伝手を使ってでも有名店のチーズを送ることが出来てよかったと心の底から思う。手土産をこうも純粋に喜んでくれる姿はやはり嬉しいものだ、また買ってきてやろう。と思えるような人柄を持つ雄大はやはりコミュニケーション能力が高いのだなと教育係として嬉しく思う。
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