社畜さんとアップルパイ

第42話 報告

「という訳で、こちらにいる博人は洋子さんとお付き合いすることになりました。付き合い方を変えろとは言わんが、節度を持った接し方を心がけるように。」

「「え」」

「おぉぉー！博人先輩おめでとうございますっす！いやー博人先輩は女の影が全くなかったので女性に興味が無いのか、仕事が恋人なのかと思ってたっす。」

「博人さんおめでとうございます！良かったですね。」

　音羽と恵子が口をあんぐりと開けたまま固まり、雄大と圭吾は素直に祝福をしてくれた。博人は気が付いていないのだが、恵子と音羽は博人に気がある事を亮太はなんとなく知っていたため先手で釘を刺したという訳だ。流石できる男亮太である。

「ほれ、恵子と音羽も何とか言ってやれ」

「お、おめでとうございます」

「おめでとうございますー」

　亮太が背中を押すことで何とか――といった形だが、2人は気を取り直し博人を祝福。それでも表情は諦めきれていないというか、状況の整理ができていないというか、ともかく呆然としていた。

「ははは、ありがとう皆」

　恵子、音羽から気があるだなんて露とも思わぬ博人は当然笑顔でお礼を言う。その優しい笑顔に2人は落ちていたとは知る由もなく、無自覚に追撃を与えてしまうのだった。

「うぅー私の憧れが」

「もっと早めにーアピールするべきでしたー」

「恵子、今日は飲みに行きましょう！」

「えぇ、行きましょうー」

「お？飲み行くんすか？」

　落ち込んだ2人に臆さずにくっ付く雄大。

「この馬鹿も連れてくか」

「馬鹿がいると気が逸れますしねー」

「ちょ！？馬鹿って酷くないっすか！？」

「だって私たちの気持ち気付いてないじゃない」

「そうですよー」

「え？今日は飲み明かしたい気分なんすよね？俺も幸せオーラ食らったんで飲みたい気分なんすよ」

　わかっているのかわかっていないのか、雄大の微妙な発言に恵子と音羽はため息を吐き首を振った。どうせ馬鹿の考えることだわかっていないのだろうという風に、ただ雄大のお陰で気が紛れたので一応飲みに連れていくことにした。

「ん？飲みに行くのか？」

飲むという単語しか聞こえていなかった亮太がここで参戦。空気を読めるやつに話しかければよかったとすぐさま後悔することに。

「あ、じゃあみんなで飲みに行くっすか？」

「「え！？」」

「だって、大人数のほうが楽しいじゃないっすか」

「「はぁ」」

恵子と音羽はやっぱり雄大は大馬鹿であったとため息を吐いた。

そして雄大は何もわかっておらず、ただただ飲み明かしたい気分であり恵子と音羽が何故自分を馬鹿扱いしてくるのかいまだにわかっておらず、増々2人を不機嫌にさせるのだが馬鹿なので察することが出来ないのだと2人のほうが折れてしまう形となった。

「あー、いいのかな？」

「すまんな恵子、音羽」

　博人と亮太は流石に雰囲気でわかってはいるのだが、当事者の博人。馬鹿に聞いてしまった亮太は罪悪感を覚える。

　ちなみに圭吾は端っこで聞いていませんよオーラを発し、パソコンの前で仕事に食らいつき厄介事から離れていた。賢明な判断である。

「もう、いいです――博人先輩のお祝いもしたいので皆さんで行きましょう」

「そうですーあの馬鹿は察しようという優しさはないのでしょうからー」

　雄大には厳しい彼女らも普段であれば一線超えぬよう大人としてわきまえていたが、今回は我慢ならなかったようで特に恵子は言葉に棘があった。

「そっか、じゃあ俺のおごりで行くか！」

「え？亮太先輩いいんですか？」

「それはー悪いようなーあの馬鹿にも払わせましょうかー？」

「ははは、いいんだよ。同期の祝いなんだ、俺に払わせろ」

　亮太の粋な計らいにより、2人の機嫌は少し和らぎ、亮太への好感度は爆上がりしていた。

雄大という察することの出来ない男が比較対象として目の前にいることでその好感度の上がり方は異常なほど得ていた。

「んじゃ、先に仕事片しますか」

　いつものように誰かの一声で賑やかな時間は仕事モードへと変貌していった。