第41話 社畜さんと…
「ふふふーおめでとうございますおじさん!やりましたね洋子さん!」
「いやー博人も隅に置けないなぁ~、というかあそこはもう少し頑張るところだぞ」
観覧車の中で彼氏と彼女になった博人と洋子。そう、見られていたのだ、亮太と日菜子ちゃんにバッチリと。僕がうだうだ迷っていたせいで洋子さんを抱きしめたのは丁度時計の針が3時の位置にいるころ、後ろに乗っている亮太と日菜子ちゃんからは当然見えていた。景色を見られるようにと観覧車の上までスケルトンなのが災いした。
「あんまり揶揄わないでくれ」
「うぅぅ」
日菜子ちゃんの「やりましたね」という物言いや、亮太のニヤニヤした顔から察するに2人は僕らの思いをなんとなく知っていたのだろう。しかし亮太は大人で、日菜子ちゃんは大人びている、決して子供のように「やーい付き合ってるー」的な揶揄方でないところが厭らしいというか恥ずかしいというかなんとも言い難い。
「まぁーそのー見ていてわかっていると思うけど、洋子さんとお付き合いすることになりました…」
声に出すことがこれほど恥ずかしいとは思ってもみなかった。言葉のお尻は声が小さくなる。
「そ、そのこれからもよろしくね日菜子ちゃん、亮太さん」
「ふふふ、洋子さん後でお話聞かせてくださいね!」
「あー、忘れてた恵子と音羽になんて説明すりゃいいんだ」
やいのやいの揶揄われている感は否めないが、祝福されていることも事実だ。洋子さんとお付き合いできただけでも幸せなのに、これ以上の幸せを享受してよいものなのかと罪悪感さえ生まれる。
「さ、さてあんまり遅くなっても危ないし、そろそろ帰ろうか!」
「そ、そうですね」
「「はーい」」
遊園地の思い出は観覧車に全て印象を持っていかれたが、身体はそうもいかず悲鳴を上げている。亮太も歩く度に顔をゆがめているので、きっと彼もそうなのだろう。
「博人さん大丈夫ですか?」
多分僕も同じく顔をゆがめて居たのだろう、洋子さんに気付かれてしまった。
「ははは、大丈夫ですよ」
「そ、その手を」
「あっ――ありがとうございます」
指の一本一本を絡め掌を合わせる。所謂恋人繋ぎというものだ、温もりが洋子さんの手から直接伝わり心まで温まる。身体はとうに限界を迎えているというのに、このまま歩き続きたいと気持ちが湧いてくる。
「なんかいいですね」
「ふふふ、こうなればいいなーってパーティーの帰り道ずっと思っていたんです」
「僕も思っていました。まさか本当に実現するだなんて思ってもいませんでしたけれど」
「私もです」
後ろからお熱いですね~と言った声が聞こえてきた気がするが無視を決め込んだ。恥ずかしくともこの瞬間を手放したくないのだ、再度ギュッと握った手を強めた。握り返してくれる手が心地よい。
「おじさん亮太さん」
「博人さん亮太さん」
「「今日はありがとうございました!!」」
時が過ぎるのは早いもので【あみりんご】の店前に着いてしまう。手を離さなければいけない時は身体の痛みよりも辛かったのだが、いつまでも握っているわけにはいかない、心を鬼にして心地よさから手を離した。
「うん、こちらこそありがとう」
「おう!マジで助かったからな、楽しんでくれて何よりだよ!原因を作った俺が言うのも何なんだけど、よく博人は無理するから洋子さんと日菜子ちゃんはこの社畜を支えてやってくれ」
「勿論です!おじさんにはとても良くしていただいてますもん!」
「ふふふ、私もしっかり支えます」
「は、はは、お世話になりすぎないように頑張るよ」
まるで身体を壊すようなことが前提な物言いに不服な気持ちを覚えたが思い当たることがありすぎて強く言えない、実績を鑑みるにこれからもないとは言えないので、お世話になりすぎないという曖昧な返事で誤魔化す。
「はぁ、ほどほどにしてくれると心配事が少なくて済むんですけどね」
心に刺さるお言葉に落ち込んでいるところ、横から「もう尻に敷かれているな」と亮太からのやじ。博人の苦笑いから始まるも徐々に笑いは賑やかしいものに変わりその場を笑顔が支配した。
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