第39話 遊園地(5)
「わぁー綺麗ですね!」
「そ、そ、そうですね」
恐怖の大迷宮を終え、4人で観覧車に乗ろうという話になったはずなのだが、突然日菜子ちゃんと亮太が「私たちは間に合わない~」とか言って洋子さんと2人きりになってしまった。お化け屋敷や、夜の帰り道とは違い観覧車においての男女2人きりというのはとても気恥ずかしい。
洋子さんはあんまり気にしていないのか、純粋に景色を楽しんでいる。自分だけ邪な感情を持ち出してしまいそれはそれで恥ずかしい。
「あっ、後ろで日菜子ちゃん達が手を振っていますよ!おーい」
「ほんとだ、おーい」
時計の10時を差し掛かったあたりの場所に上ると、後ろの観覧車に乗る人が見える位置に上がるのだ。亮太と日菜子ちゃんはいつの間にか仲良くなっていたのか、僕らのことを確認し終えると携帯を取り出し、2人仲良く写真撮影を始めた。
「わ、私たちも撮りませんか?その、深い意味はないのですが、折角ですし日菜子ちゃん達もしていますし、思いで作りと言いますか」
「ははは、僕で良ければ是非撮りましょう」
「博人さんが、いいんです」
茶化すでもなく、どこか真面目そうな表情を浮かべ告白めいた言葉を発する洋子さんに、またしても心臓が高鳴った。もしかしてこの心臓の音が洋子さんに聞こえてしまっているのではないかと不安になってしまうくらいはっきりと聞こえる。
「は、ははっ。嬉しいけどおじさん勘違いしちゃいますよ」
「勘違いじゃないです、伝わってないなんてことはないですよね。それとも私のことはお嫌いですか?」
社会人になってから仕事が忙しく恋愛にカマかけている暇なんてなかったがそれでも学生時代に恋愛経験が無いわけではない、それにどこかの物語の主人公のように鈍感系なんて部類でもない、ここまで言われれば流石の鈍感系でも気が付くだろうが
兎も角、洋子さんの気持ちに気付いていなわけではない。ただそれ以上に僕でいいのか?仕事は?日菜子ちゃんは?なんて余計な心配事が頭を駆け巡るのだ。
「仕事や、日菜子ちゃんのことですか?」
ハッと顔を上げる。顔に出るタイプでもないのだがどうも洋子さんの前だと取り繕うのが難しい。
「よくわかりますね」
「好きな人ですもん、お顔はよく見ているつもりです」
「ははっ、まいったな。僕なんかのどこがいいのか…」
先伸ばそうとしているよくない行為である事なんて自分が一番よくわかっている。けれど整理の付いていない頭ではこんな行為で時間を作る事しかできなかった。
「最初はただの客と店員でしたもんね。でも、倒れるくらい仕事頑張っちゃうところとか、優しいところを知っていくうちに自然と目で追いかけてしまうようになったんです」
「優しいなんてそんな、普通ですよ」
「後半さんたちや、日菜子ちゃんを見ればわかります。優しくない人にあんなにいい子たちは集まりません。それに今日だって、振り回す私たちに気遣って付いてきてくれましたし、お化け屋敷ではあんな頼りになる姿を見せられて、増々好きになっちゃいました」
「洋子さん」
顔を真っ赤に染めてもやめない洋子さんの本気に気圧され、こちらまで顔が赤くなる。
僕だって前から洋子さんのことは気になっていたし、好ましいと思っていた。それでも今の状況で恋愛に走っていいのだろうか、色んなことを理由に避け続けているのかもしれないのだが勇気が出ない。
「博人さんは私のことどう思っていますか」
「それは、勿論好き――です。ただの客に優しくしてくれる人柄や、いつも元気なお姿を見てこちらまで元気を頂いていました。それに、洋子さんといると楽しいのです、傍にいてくれるだけで幸せな気持ちになるんです。ただ――」
「ただ?」
悩みを打ち明けるか迷いながら言葉を紡いだせいで、いざ口に出そうとすると言葉に詰まってしまった。
もしかしたら嫌われるかもしれない、がっかりさせるかもしれない、そんな不安が大きくなる。けれど言葉に詰まる僕を優しく見守りながら待っていてくれている洋子さんを見てようやく決心が固まった。
「僕は――」
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