第38話 遊園地(4)


「あ゛あぁぁぁあ」

「うわぁ、吃驚した」


 通路の角、天井裏、真上など、ところどころに忍ばせられたギミックの数々に驚かされる博人と洋子。博人はアトラクションとして楽しめてはいたのだが、横の洋子というと――


「きゃぁぁあ!!無理無理ぃぃぃい!首がぁ!首がぁぁぁあ」


 ことあるごとにいいリアクションを取り、大迷宮にいる幽霊の方からすると、とてもやりがいの出る客なのだろう。追い打ちのように追いかけてくる幽霊に、ギリギリまで引き寄せて驚かせてくる幽霊など逆に幽霊を張り切る始末。


「よ、洋子さん!?」

「ご、ごめんなさい!こここ、このままでお願いしますぅぅ」


 ギュッと服を――いや、腕ごと掴む洋子さんにドキッと、幽霊とは異なったことで心臓が高鳴る。勿論男としては冥利に尽きるのだが、如何せん当たってしまうのだ。何処とは言わないが結構当たっているのだ、きっとそのせいで幽霊に怖がる洋子さんと同じくらいドキドキしていることだろう。


「洋子さんその――」

「きゃぁぁあ!!ななな、なんですか?今離すのは無理ですよ!みずでないでぐだざい」


 当たっていることを伝えたかったのだが、この様子では無理そうだ。目元に涙をパンパンに溜めこちらを見つめる目に耐えられない。それどころか、離されると勘違いした洋子さんが更にくっ付いてくる事態に何も言わぬが花なのだろうと悟った。


「うぅ、出口はまだでしょうか」

「お札を5つ集めないといけないらしいですね。これで3つ目っと」

「あ、あと2つもあるんですか――うぅぅ」

「大丈夫ですよー、あと少しで集め終わりますから。離さないので目を瞑っていてもいいですよ」


 今にも泣きそうな――泣いている洋子さんを宥める様に背中をさすってあげながら慎重に前へと足を運んだ。

 しかし、ここの幽霊は泣いている大人にも容赦がなく全力で驚かしにかかってくる。僕としては十分に楽しめているのだが、洋子さんが「お化けなんてないさ」なんて歌い出す程精神を追い込まれていた。


「ここで4つ目か…とすると行っていないところは、あの部屋かな?」


 洋子さんのためにも早くお札を5つ集めて脱出してあげたいのだが、恐怖の大迷宮という名前だけあって、広大なマップに数ある行き止まり、そして惑わす目印なども豊富で中々思うように進めていない。更に言ってしまえば、迷路を覚える頭と目は実質僕一人だけ、目を細め歩く洋子さんに足取りを合わせているためゆっくりとしか進めていない。


「この部屋のはずなんだけどな」

「ひ、博人さんそっち」

「え?どこですか?」

「左の棚のところ違いますか?」

「あっ、ほんとだ!すごいよく見つけられましたね」

「なんとなくです、集まったなら早く出ましょ!お話はそれからで」

「そ、そうですね。」


 希望が見え始めたのか、早く出まいと歩みを早める洋子さん。目を細め迷路なんてロクに見ていないはずなのにまるで正解を知っているかのようなそぶりで、僕よりも寧ろ早いペースで進んでいく。まぁ腕は僕自身を引っ張ってでも離そうとしないのだが。


「で、出れたー」

「ははは、お疲れ様です」

「わわっ、すみません腕掴みっぱなしで」

「いえいえ、役得でした」

「や、役得って、あぅぅ」


 おじさんの腕をずっと掴んでいたのが今更になって恥ずかしくなったのか顔を真っ赤にして蹲っている。


「おーい、おじさんー洋子さん―」

「ごめんごめん、待った?」


 丁度いいタイミングで同じ出口から日菜子ちゃんと亮太ペアが顔を覗かせた。


「洋子さん洋子さん、おっきいお化け屋敷楽しかったですね!」

「うん!そうだね!」

「あれ、洋子さ――「合わせてください(小声)」はい」

「5つ目は洋子さんがさっと見つけてくれて凄かったな~」

「えぇ!私たち結構探したのに凄い!」

「そ、そうでしょ~」


 大見栄を張る洋子さん、博人亮太然り子供の前では見栄を張ってでも恰好を付けたいのが大人なのだろう。できないことや苦手な事でもついつい嘘を付いてしまうのだ


「最後は観覧車乗って終わりにしましょ!」

「はーい」

「おじさんと亮太さんも!」

「今行くー」

「はいよー」


 長時間歩いた足腰は悲鳴を上げながらも、最後という希望の言葉を信じ無理やり動かした。最後まで日菜子ちゃんの楽しみを邪魔しないように見栄を張りながら。


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