第35話 遊園地(1)
「いやぁー、お礼が遅くなってすまん!日菜子ちゃんも洋子さんも楽しんでね!お礼だから遠慮は要らないよ!」
亮太が入院し、その代わりに仕事をしたお礼という事で博人、日菜子、洋子、そして亮太の4人で都内でも有名な遊園地に足を運んでいた。
あれから普段の業務に支障がで――ないように、仕事に追われたため博人と亮太の丸々一日の休日が中々とることが出来なかったため2月が終わり、時は3月の中旬に差し掛かろうとしていた。
「僕からもお礼なので日菜子ちゃんと洋子さんに付き合いますから!」
身体の調子が悪い時に家まで来て料理をしてくれた洋子さんに、家のことを全て代わりにやってくれた日菜子ちゃんへのお礼をするのは当たり前であろう。実をいうと会社に通勤して亮太に会ったときに計画を立てていたのだ。実行にはだいぶかかってしまったが。
「すいません、私まで」
「亮太さんに、おじさん。ありがとうございます!洋子さん!あれ乗りましょう!」
「わわっ、日菜子ちゃん待ってー」
若干申し訳なさそうな洋子さんを察してか、洋子さんの手を引いて乗り物へと誘導する日菜子ちゃん。本当に中学生の気遣い力なのか疑問に感じる。
「あー、博人には別途でお礼するわ」
「いいよ、お互い様でしょ」
「でもよー」
「じゃあ今度会社行った帰りの銭湯おごりね」
「はぁー、了解。ありがとな」
「ははは、何年共に働いていると思っているのさ、これくらいどうってことないよ」
これとは他にお礼をすると提案してきた亮太を止めた。それでも納得いかない顔を浮かべていたので銭湯おごりをお願いしたのだがそれでも納得は言っていない模様だった。しかし、博人からすれば仕事自体は大変だったが本当にどうってことないと思っている。
それこそ亮太に助けられた場面は数えきれない、亮太を助けたことだって何度もある。だからこそお礼なんて銭湯ぐらいでいいと言ったのだ。
「おじさんー、亮太さんー」
と、おじさん同士でうだうだと話している間に、女性陣はだいぶ遠くで手を振ってこちらを呼んでいた。顔を見合って「今日は体力を使う一日になるぞ」とアイコンタクトを交わし日菜子ちゃんらの元へ駆け足で歩み寄った。
今日の主役は彼女らなのだから。と。
「こっちです!」
「えっ、これ絶叫系だよね?日菜子ちゃんも洋子さんも乗れるの?」
「割と怖いって有名だったよなここ」
「私はジェットコースター好きなので!」
「私も特に苦手ではないですね。ここの遊園地で乗れないものはないので日菜子ちゃんに付き合います!」
顔をほぼ垂直に見上げないと全貌が見えないくらい長く迫力のあるジェットコースターがそこにはあった。時折聞こえる悲鳴は楽しそうにしているものではなく、本当に恐怖を感じた人間が出す悲鳴に聞こえてならなかった。
「結構怖そうだね」
「そ、そうだな」
情けないことに、おじさん2名がビビッてしまっている。
「おじさんと、亮太さんもしかして絶叫系苦手でした?」
「他のにします?」
「いや、苦手ってわけじゃないよ!」
「そうそう、ただこのレベルを知らないってだけで」
そう、亮太も博人も絶叫系が苦手ではない、寧ろ好んで乗る部類にはいるだろう。しかし、いくら好きだからとはいえ限度はある、辛い食べ物が好きでカレーは辛口を食べるが唐辛子がふんだんに使われた真っ赤なスープは流石に躊躇してしまう。その感じと全く似ている
「そろそろ私たちですね」
「洋子さん一緒に乗りましょ!」
「うん!楽しみだねー!」
「一番前だと迫力が凄いんでしたよね?」
「確かそうだったと思う!前に乗れるか聞いてみようか!」
「はい!うわぁー怖いけど楽しみだなー」
「ふふふ、そうだね」
和気あいあいと楽しみを隠しきれずにいる女性陣
「博人、これ大丈夫かな」
「う、うん、だだだ大丈夫なんじゃない」
「だ、だよな死にはしないもんな!」
「そうだよ!大丈夫大丈夫」
一方でビビりを隠しきれず、お互いに大丈夫だと言い合う事で何とか精神を保とうとしている男性陣。乗る前から差は明白で、女性陣からクスクスと笑われようがそちらまで気を回す余裕なんて残されてはいなかった。
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