第34話 世話焼きさん
お世話をしているのは僕のはず
大量の仕事を終わらせ休みを獲得した日曜日。日菜子ちゃんや洋子さんへのお礼と色々考えていたのだが、何なのだろうかこの状況は。
「ご飯できました!おじさんは座って待っててください!」
「僕も手伝うよ」
「座っててください」
「でも…」
「座っててください!」
「はい」
家事などの行動を起こそうと動く度、こうして日菜子ちゃんに止められるのだ。甲斐甲斐しく働く日菜子ちゃんを尻目に流石に申し訳なさが勝ち、こっそりとお箸の準備。こっそりとコップに水を注ぐ――
「おじさん?」
「あっ」
目の前に降り立ったのは大魔神日菜子であった。小さい子が悪い悪戯をしてお母さんに見つかる、そんな懐かしい場面が脳裏によぎった。しかしこれは思い出でも回想でも何でもない、今現実に起きているのだ。
「大人しく座っていてくれますよね?」
「はい!大人しくしています!」
これ以上はいけないという直感が働き大人しく椅子に座るだけのお人形に早変わりする博人。料理を机に並べる際、こちらを見つめる視線はいう事を聞かない子供を叱る母親の監視の目をそっくりであった。
「おじさんから見れば私は子供かもしれませんが、こういう時は頼って欲しいです」
「ご、ごめんね」
むっーと頬を膨らませた日菜子ちゃんは可愛い――じゃなくて、大人として反省しなければ。と思いつつも、こんなかわいい姿を見ることが出来るのであればと邪推している自分もいた。
「今日はおじさん、働いちゃダメですからね!」
「うん、仕事はしないよ」
「家のこともですよ」
「体調良くなったんだけどな~」
「ダメです!」
ご飯を終えた後も念入りに釘を刺されるおじさん、あんまり信用が無いなと本人はへこんでいるが当たり前のように働こうと自然に動いていたのだから何度言われようとも仕方ないのだが、博人は知る由もなかった。
「たまにはおじさんの好きなことして休んでもいいんじゃないですか?」
釘を刺されている最中ふとこんな言葉を日菜子ちゃんから言われたのだが、博人には別段趣味というのを持ち合わせていない。だからやる事と言えば仕事となるのだが、半分口を開いたところで口を噤んだ。
「仕事…?」
「…は冗談で、何しようかな。掃除でもしようかな」
ジッと見つめる視線がやけに重く感じる。自分でもわかっている、掃除が趣味になる程綺麗好きでもないことに。
日菜子ちゃんの責め立てるようなあの視線に耐えかねて、何か適当な趣味でも探すかと本気で思う博人だった。
「はぁ、とりあえずベッドに行って寝ていてください、多分おじさんすぐ眠りにつけると思いますよ」
「ははは、そうするよ」
心配されて嬉しいと思う反面笑いが止まらなかった。さんざん深い眠りについてお世話まで焼かれている状態なのだ。目は冴えわたり、疲れを知らない体になっている。昼過ぎから朝まで眠っていたのだ、そう簡単に眠ることなぞありえないだろうと思いつつも日菜子ちゃんに背中を押されるがままに自室のベッドへと向かった。
「お昼ごろに起こしに来ますね」
「うん、ありがとう」
「パソコンとか開いちゃだめですよ?」
「わかっています、今日はお言葉に甘えてゆっくりするよ」
「仕事していたら洋子さん呼んで止めてもらいます」
「あ、あはは。洋子さん出されると弱っちゃうな」
最近の中学生はこうも大人の嫌なツボを的確に押せるのだろうか?洋子さんという単語を出されては博人も強く出ることが出来ない。例え大人の事情でとごまかしても洋子さんを呼ばれご迷惑をお掛けしてしまう。となると仕事に手を付けることが出来ない。
現時点で出せる最強の対博人カードを切ってこられたのだ。動揺して目が泳いでしまうのは仕方ない事だろう。決して仕事をしようと画策していたわけではないのだ。決して
全てを諦めてしぶしぶ布団へ潜り込む博人。バッチリ冴えたと思っていた目は、徐々に重くなりものの数十分で意識を落とした。
博人の自室からさほど時間も経っていないうちに聞こえてきた寝息に日菜子ちゃんは呆れたとかなんとか。幸いなことに博人は寝ていて何も知らなかった――
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