SS バレンタインデー

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・リアルイベントに合わせたお話です。

・時系列、暦は本編とは関係ありません。

・こちらでの内容が本編に影響することはありません。

・本編とは別途に投稿するつもりです。

――

 


 広告代理店で忙しなく働く博人と亮太。広告代理店の2月は実をいうと閑散期にあたるのだが、そんなことは関係ないとばかりに仕事に打ち込むその姿はまさに社畜である。一応亮太は「自分は社畜ではない」と言い張るのだが、後輩から見れば十分に社畜の類である事に気が付いていない。比較対象が博人の時点でおかしいのだ。

 そんな中そわそわして、仕事に手を付けたかと思えば辺りを見渡す男が一人。名を橋本雄大、チャラ男である。


「はぁー、雄大動きがうるさい」

「ほんとですよー最後に渡そうと思ってましたのにー、雄大君は子供ですねー」


 仕事中ちらちらと目線に入る雄大を鬱陶しく思ったのは彼の同期である音羽と恵子だ。雄大の動きがうるさくなっている原因は考えなくてもわかるので声を掛けたのだが、秒で反応を示す雄大に若干引いていた。

 そう、今日は2月14日。女の子が男の子にチョコを渡し気持ちを伝える日、バレンタインである。


「え、え?何がっすか?別に普通っすよ」

 

 誰が見てもバレンタインを意識していることが明らかであるのに見苦しい嘘を付く雄大。本当に嫌いであれば嫌味を言うか、全く関わらないようにするかの2択なのだが音羽と恵子を見つめるその表情はまさに子犬でありどこか憎めない。ウザさはあるのだが愛嬌と思えばそう感じれる程度のウザさなのだ。


「これ、“義理”チョコ。一応お世話になってるからどうぞ。先輩方も少し休憩にしませんか?雄大がうるさいので」

「私からも“義理”チョコですー、一応全部手作りなんですよー。“義理”ですけど」

「そんなに強調しなくてもいいじゃないっすか!でもありがとうっす2人とも」


 騒がしくなった職場に目をやり一旦手を止める亮太、博人、圭吾。一度休憩を入れないといけないなと思っていた3名は丁度良いとばかりに仕事から離れた。雄大が気になるというか鬱陶しいと感じていたのも紛れもない事実なのだが、雄大には察することが出来ないだろう。


「こっちは亮太先輩、これが博人先輩、これが圭吾先輩のです」

「私からもー受け取ってくださいー」


 いつもお世話になっているのでと義理チョコを頂く。別に無視するか、市販のチョコでごまかせばいいものをこうして手作りで先輩にチョコをくれる後輩を持てて幸せである。


「お、ありがとう2人とも。丁度甘いものが欲しかったんだよな~」

「ありがとう音羽、恵子。これで仕事頑張れるよ」

「博人さんや亮太さんはわかるが俺にもか?悪いな有難く頂くよ」


 早速食べ始めようとする亮太と雄大。大事そうに仕舞う博人と圭吾にわかりやすい行動の差が生まれる。


「折角休憩中なので圭吾先輩も博人先輩も食べてくださいよ」

「私もできればー感想をいただきたいですー」


 チョコを作った本人たっての希望とあらば食べるしかないと思い、圭吾と博人は鞄から今貰ったばかりのチョコを取り出した。


 音羽から頂いた箱の中には丸いチョコボールが3×3で綺麗に並んでおり、パウダーのようなものが掛かっていた。口の中に入れると初めにパウダーの苦みが舌を伝う、けれども口内の熱ですぐに溶けたチョコからはトロっとした感触の甘さを持ったチョコレートが口の中を支配した。生チョコレートだろうか、味から感触まで細かなところまで手が行き届ておりついつい2つ、3つと手を伸ばしてしまう。


「博人先輩―私のも食べてほしいですー」


 恵子の催促でいったん音羽から頂いたチョコから手を離し、恵子から頂いた白い箱へと手を伸ばす。その白い箱は小さなドライフラワーを麻で括っており、まるでお店の商品のような仕上がりであった。これが手作りだというのだから恐ろしい。


 綺麗な箱に傷を付けぬようそっと取り出すと、ケーキのようなものが2つ程入っていた。


「これは?」

「それはー、ガトーショコラと言いますー、チョコレートケーキみたいなものですよー」


 なるほどと、一度相槌を打ちガトーショコラなるものを口の中に含んだ。表面が割れていたためパサパサした感じの物なのかなと想像していたが実際は真逆でしっとりとした触感で驚いた。ガトーショコラの間にはキャラメルソース?らしき味の違うソースが入っており味うぬんよりも「こんなことまで出来るの!?」という驚きが勝ってしまう。勿論、お店で出てきてもおかしくない味の完成度にも感動している。


「2人ともありがとう、とっても美味しいよ!」

「「「ありがとう」」」


 男性陣の称賛の数々に照れながらもハイタッチを交わす音羽と恵子。


「いやー、美味かったっす!普段あんな感じなのに結構女子力高いんっすね!」

「「は?」」


 何も言わなければ済んだものを余計な一言で騒がしくなる職場。仲の悪いぎすぎすした雰囲気よりはいいのかと温かい視線で見守るのであった。

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