第28話 パーティ(4)
「ふっふっふ、お楽しみはこれからっすよ!」
パーティ開始から少し経った中盤、お腹の要領的にはまだまだ余裕はあり食べることは出来るが一通り並んだ料理に手を付け終えた時、皆の視線を集めるように雄大が声を張り上げた。
ゴソゴソと後ろの紙袋を開き取り出したのはお酒であった。「ジャーン!」と見せるように酒瓶をいくつか机に置く雄大、ラベルを覗き込んで見ると、赤ワインや梅酒、発泡酒など多種多様であった。
「親が酒屋を営んでるんで飲みやすくて美味しいお酒を色々と持ってきたっす!あっ、こっちは日菜子ちゃん用に、ちょっと大人な葡萄ジュースっす!勿論酒精は全く入ってないので安心して飲んでほしいっすけど、ビターな味なので苦手だったら無理しないで他のジュースを飲んでほしいっす!」
大人は美味しそうなお酒にくぎ付けになり、それを見た雄大が勝ち誇ったようにどや顔を浮かべる。僕自身、珍しいお酒の数々に思わず身を乗り出してしまうほどに興味を引いた。それにここぞという一線は超えない雄大は、ちゃんと今日の主役である日菜子ちゃん用の飲み物も用意してきており、よくやったと拍手を送りたい気分だ。
「このワイン、お母さんのアップルパイと凄く相性がよさそうです!」
「ほんとっすか?じゃあそれはちょっと置いといてこっちから飲みましょうか」
「僕は少しでいいかな、明日の仕事に支障出そうだし」
「何言ってんだこの社畜は、明日は会社自体ないよ。じゃなきゃここまで大量の酒持ってこさせないっての」
「そうっすよ!今日から2日間休みっすよ?流石にそこまで考えなしに買ってこないっす!あっ、洋子さんは大丈夫っすか?」
「ふふ、お気遣いありがとうございます雄大さん、お母さんから明日は来ないでいいって言われてるので問題ないです!」
仕事の連絡は欠かさず見ているのに、休みの連絡はすっかり忘れていた。そんな博人の考えは同僚からすればお見通しなのか鋭い視線がいくつも刺さる。慣れていると思っていた視線だが、洋子さんと日菜子ちゃんにも鋭い視線で見られ居た堪れない気持ちになった。
「あーごめん、気を付けます…」
「はー、博人先輩ってほんとに仕事のことしか考えてないですね」
「私は仕事に一生懸命な博人先輩を尊敬してますー」
「ちょ、恵子!?私だって尊敬しているわよ」
「博人さんは見てないってよりも忘れているんだろうな」
「あはは、気を付けるよ。雄大こっちのお酒開けてもいいかな?」
「おぉ、勿論っす!それ選ぶってことは結構いける口っすね?」
呆れた声はいくつか上がるが笑ってごまかし、パーティの楽しい雰囲気に無理やり戻そうと試みる。当然そんな簡単には行かないのだが「博人だし」ともう一度呆れた同僚たちは、空気を読んでパーティへと気持ちを切り替えた。
「わぁーこのジュース、クラッカーと一緒に食べると凄い美味しい」
「あらー、そう言われると作り手としてとっても嬉しいわーお口に合ってよかったわー気に入ったならじゃんじゃん食べてねー」
「恵子さんの手作りなんですか!?凄い美味しいです!」
「えっ、なにこれ!?飲みやすいな!なのに旨味がギュッと詰まってる、これペース間違えたらやばいな」
「圭吾先輩も結構いけるんっすねー確かにそれはゆっくり飲んだ方がいいっす」
「あ、あぁ、ここまで飲みやすいとは。ほどほどにしておくよ」
「ほい、亮太も」
「あんがと」
「はぁー、美味しい料理に合うお酒、最高だね」
「ほんとにな、雄大のやつお酒のセンス抜群に良いな」
「雄大も漏れずに優秀だからね」
「あの性格じゃなければな」
「あ、あー。」
仕草は子犬のように動き回り「凄いでしょー」と言いふらす様はまるで子供のようだ、それが社会人という括りで見てしまうから、可愛いより呆れが勝つ。とはいえ愛されキャラであるのは間違いではない。
各々小さなグループごとになりお酒や食べ物を楽しむ。お酒が出てきたという事もあり、料理のなくなるペースが速くなる。徐々に机の上にはおかずの姿は消え、次第にお酒やおつまみ系で占領されるようになった。
「このおつまみは甘くておいしいんっすよ!日菜子ちゃんどーぞ」
「頂きます!わぁーお酒と合いますね」
「うーん、ほんと出来るやつなのだけれど」
「あ、音羽に恵子それカロリー高いから食べ過ぎると太るっすよ?」
「はぁーバカはバカか」
「これが無ければー素直に尊敬できるのにー」
雄大は心配のつもりで声を掛けたのであろうが如何せん言葉の選択が下手すぎるのである。詰めの甘いところがよくないのだが愛されキャラとして“一応”確立されていると音羽と恵子もわかっているためギリギリのラインで嫌いにはなれないのであった。
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