第26話 パーティ(2)
「「ただいまー」」
「お、お邪魔します―」
支度を終えた洋子さんと共に、博人の自宅へと帰ってくる。外は真冬でどれだけ防寒対策をしてようとも顔や服と手袋の間などに入り込む隙間風は容赦なく博人たちの体温を奪い去っていく。
「先に暖房付けてきますね」
「うん、お願い」
自分が寒かったというよりも僕らを気遣っていち早く暖房を付けに行く日菜子ちゃん。手間が掛からないというか、細かな気遣いが出来るというか、何とも頭の下がる思いである。しかし、暖房のことで頭がいっぱいになっていたのか自分の持っていた荷物を玄関に置いて行ってしまうあたり可愛い子供だなと感じる。
「はぁー風が無いだけでだいぶ違いますね、暖房無くても暖かく感じます」
手袋を外した手に息を「はぁー」と吹きかける洋子さん、息を吐いたり、手をこすり合わせる動作があざと可愛い。
ジロジロ見つめていても失礼に当たるので早々に日菜子ちゃんの忘れた荷物を持ってリビングへと向かった。
「ごめんなさいおじさん、荷物有難うございます」
「ははは、これくらい大丈夫だよ、部屋に置いておいで。洋子さんは荷物があればこちらにどうぞ」
家主として日菜子ちゃんとお話ししつつ、お客様への対応も忘れない。自分の家だと思ってゆっくりして欲しいのだが僕と洋子さんの間柄ではそうもいかないだろう。ここを自分の家だと言えるのは今のところ僕と日菜子ちゃんと亮太だけだ。僕と日菜子ちゃんは言わずもがなこの家に住んでいる者として当然なのだが、亮太とは今更そんなこと気にするような仲ではない。あと、例外として雄大は自分の家みたいに寛ぐだろうがあんなのは例外だ
「さて、動きましょうか」
「「はい」」
「日菜子ちゃんは冷蔵庫に食材入れてもらえるかな?洋子さんは申し訳ないのですが机だしを手伝ってもらってもいいですか?」
「わかりましたー、スープの材料は出しておきますね」
「勿論です!ちゃんと手伝いますので遠慮なく指示出してください!」
何も言わずとも一歩先の動きをしてくれる日菜子ちゃんには最早何も言うまい。お客様として来ている洋子さんを使うのは心苦しいが、何もしていない状況というのも辛いだろうし少し働いて貰う。嫌な顔一つせず動いてくれる洋子さんには感謝しかない。
「机2つで足りますかね?」
「うーん、そうですね。この机大きいですし、足りなかったら追加で出しましょう」
「確かにそうですね。そうしましょう。」
家に来るのは大人7人、子供1人の計8人だ。4:4で別れれば余裕を持って座ることは出来るだろうが、これから並ぶであろう食材がどれだけ占領するかわからない。その為一旦2つだけでいいだろうという風に落ち着いた。
「おじさん、こっちは終わりました!」
「ありがとう日菜子ちゃん、スープはやっておくから机拭いてもらっていいかな?あと、ビニール袋出して簡易的なゴミ箱にしようか」
「わかりましたー!あ、お皿とかはどうします?」
「圭吾が持ってきてくれるらしいから準備しないでいいよ」
「了解です」
バトンタッチをするようにリビングと台所にいる日菜子ちゃんとポジションチェンジ。日常的にこなしているのだから当たり前の光景と言えるだろう、ただ一点日菜子ちゃんが中学2年生という事を除けばになるが。
「洋子さん、こっちお湯が出るようにしたのでお米研いでもらっていいですか?」
「わかりました!どのくらい炊きましょうか?」
「うーん、余ったら冷凍できるのでMaxの10合分お願いします」
「はーい!」
「冷蔵庫の隣にお米おいてありますので」
洋子さんも目立っていないがその働きぶりは凄まじく、僕と日菜子ちゃんの邪魔にならないように立ち回りながら自分の仕事を見つけ行動。終われば僕に付いてこのように指示を貰うような形をとって実践しており大変ありがたい。
博人が野菜を切り、隣で米を研ぐ洋子、ちょこちょこ動きながら仕事をする日菜子を見て久しぶりに家族の光景を思い出す。
僕が父親で洋子さんが母親、そしてその間に生まれた子が日菜子ちゃんなんて妄想、確かにこれは僕のふざけた妄想かもしれないがこの一時だけは家族という繋がりを感じていた。
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