第24話 お楽しみ
「茄子って食べれたっけ?」
「はい、私好き嫌い無いのでなんでも食べれますし、おじさんのお料理美味しいので嫌いな物でも食べれると思います」
「嬉しいこと言ってくれるねー、それじゃあ今日は日菜子ちゃんの好きなシチューにでもしようか」
「やったー、ありがとうございます!」
博人と日菜子は職場近くにあるスーパーに来ている。というのも、出かける前に連れていきたいといったシークレットお店は【あみりんご】なので、職場のほうにまで足を延ばしているのだ。といってもそこまで遠いという事もないので先に買い物から済ませている。
ただ、今の時期真冬と言っても差し支えない気温のため防寒対策はばっちりと行っていてマフラー、手袋、カイロは必須だ。
「あれ?おじさん帰りはそこの通りじゃないですよ?」
「家から出る前にお楽しみがあるって言ったでしょ?こっちにあるんだよ」
「あっ、そうでした」
なんど通ってもこの道に入るたびに心が躍ってしまう。大きいとは言えない一本道にたたずむこじんまりとしたお店、近くを通れば腹をすかせた人々を吸い寄せる匂いを発し思わず立ち止まってしまう。中を覗けば綺麗に整列したアップルパイが宝石のように鎮座され気が付けばお店の中に入っている。そんな魔性の魅力を秘めたお店【あみりんご】は今日も元気に営業中だ
「いらっしゃいませー!あっ!博人さん、この間はありがとうございました!」
「こんにちは洋子さん、こちらこそありがとうございました。」
「あ、あのー。お姉さんが洋子さんですか?」
「うん?そうだよ?」
「洋子さん、この子が前言ってた日菜子ちゃんです」
「そうだったんですね!?こんにちは日菜子ちゃん!わぁー可愛いなー、確かに博人さんが溺愛するのもわかります」
「こんにちは!日菜子と申します。その、携帯の件で私からもお礼を言わせてください、ありがとうございました!」
「ほ、ほんとに中学生?ううん、気にしないで。こちらこそありがとう!」
「もしかして洋子さん?」
「うん、わかってくれた?」
【あみりんご】に寄った理由として、僕が食べたい!という本音は小さくして置いておくとして、日菜子ちゃんのテストお疲れ様のご褒美が一つ。相談するにしてもその人を知っておいた方がいいと思い洋子さんへの顔合わせという目的がもう一つ。というより、最後の理由が一番大きな理由だ。
顔合わせという目的は達成し女性同士で仲良くしていることはとてもよろしいのだが、後半の目でコンタクトを取ったのはどんな意味があったのだろうか?何やら2人で通じ合っているように思えたのだが――まぁおじさんにはわかるまい。仲が悪いとかでもないので放っておこう。
「おや、いらっしゃい。博人さん、それに日菜子ちゃんかい?私のことは真紀さんか、おばちゃんとでも呼んでね。博人さんも!まぁお母様が良いなら私は構わないけどね」
店の騒がしさに誘われてか、洋子さんのお母様――もとい、真紀さんが表へと顔を出しに、というよりも博人と洋子を揶揄いにきた面持ちだ。
「お久しぶりです真紀さん。」
「初めまして、日菜子と申します。」
「ご丁寧にどうも、あら博人さん?私はお母様で構わないよ?」
「お、お、お、お母さん何言ってるの!?」
女三人寄れば姦しいとはよく言ったものだ、店内が騒がしくなる。賑やかな店内も嫌いではないし日菜子ちゃんの表情が和らいでいくのを感じたので寧ろ歓迎なのだが、男一人の僕としては少し肩身が狭い。
カランコロン
近況を報告しがてら、日菜子ちゃんへのご褒美を選ぼうとしたまさにその瞬間【あみりんご】の扉が開いた。
何も不思議な事ではない。いつもタイミングよく博人以外の客が来ていないだけで【あみりんご】には普通に客は来るのだ。
「うぅ、やっと終わったー仕事しんどいっすよ~」
「仕事ができる人に気軽に相談できる環境ってすごく有難かったと今更ながらに思うわ」
「ほんとですねー」
「博人さんの説明わかりやすかったもんな」
「あーそうなんだよな、博人はその辺俺と比べ物にならないくらい上手い」
「あ、いらっしゃいませー!亮太さんに皆さんお久しぶりです!」
と、よく見知った顔が5人ほど【あみりんご】へと足を踏み入れた。
「「「「あっ」」」」
「ん?」
「「「「博人先輩」」」さん」
「久しぶりだねみんな、この子が前言ってた日菜子ちゃん。」
「よ、よろしくお願いします。」
こんなに一斉に紹介するつもりなんて微塵もなかったのだが来てしまったものは仕方がない、日菜子ちゃんには申し訳ないが、これ幸いとばかりに日菜子ちゃんを後輩と亮太に紹介した。
中学生にしてはやけに大人びた日菜子ちゃんは突然の対応にも関わらず、前に一歩踏み出しぺこりと頭を下げながら挨拶。ほんとにできた子である。
「俺は亮太っていうそのおじさんのお友達だ、よろしくね日菜子ちゃん。博人にも言われてたけど連絡先交換しようぜ、博人が働きすぎてたら俺に連絡してくれればいつでも駆け付けるから!」
「は、はい!亮太さんですね、ありがとうございます!」
持ち前のコミュニケーションスキルとイケメンで速攻日菜子ちゃんと連絡先を交換した亮太。僕と友達であるという事で「自分は安全な人間ですよ」とアピールしつつ、僕をだしに心配だから交換しようという高等テク、更にイケメンの爽やかさで不信感を抱かせないという何とも怖い男である。
「はいはいはーい!自分は雄大っていうっす!博人先輩の後輩っす!よろしくね日菜子ちゃん!」
「私は音羽よ、同じく博人先輩の後輩。博人先輩には現在進行形でお世話になっているし私にできることがあったら相談してね」
「私は恵子といいますー。日菜子ちゃん大人っぽくて可愛いですねー。お姉さんに出来ることがあればいつでも連絡してくださいねー。」
「俺は圭吾という。俺もみんなと思いは同じだ、いつでも連絡して欲しい」
「雄大さん、音羽さん、恵子さん、圭吾さんですね?私は日菜子と申します、よろしくお願いします!」
「みんなありがとう」
遠回しでもなく力になってくれると言い切ってくれた仲間たちに素直に感謝しかない。雄大も普段はチャラついた口調をしているがそれが愛されキャラとなってとても親しみやすい、物怖じしない性格からか積極的に日菜子ちゃんに話しかけては笑いを誘っている。亮太、圭吾は主に僕の味方、相談相手としてとても心強い。恵子、音羽は言わずもがな女性という事もあり僕より日菜子ちゃんの理解者になってくれる時もあるだろう、皆頼もしく嬉しさがこみあがってくる。
「そりゃ博人先輩に恩を返せるチャンスっすから!日菜子ちゃんとももう友達っすし!ねー?日菜子ちゃん?」
「え、あっ、はい!」
「ちょっと日菜子ちゃん怖がっているじゃない!」
「そうですよー、雄大君は距離の詰め方がおかしすぎますー。年だって10個近く離れてるんですよー、デリカシーを持ってくださいー」
「うぇ?み、皆さん大丈夫です、雄大さんとても優しい方だってわかりましたし、おじさんの知り合いに怖い人はいないと思うので」
「うぅぅぅー-日菜子ちゃんなんていい子なんすか!」
「ほんといい子ね…こいつが悪さしたらいつでも頼ってね」
「こんな妹が居たら幸せなんでしょうねー、雄大君は純粋な日菜子ちゃんに近寄らないでくださいー、チャラが移ったら困ります―」
「ちょ!同期がひどい!」
「「酷くない」」
これじゃどちらが子供かわからないなと呆れつつ、コントめいたやり取りにみんなが声を上げて笑った。約一名を除いて
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