第18話 デート?
「お待たせしました!ごめんなさいお待たせしてしまって」
「いえいえ、僕も今来たところなので」
今日は【あみりんご】で働く店員さんの洋子さんとデート――もとい、買い物に付き合ってもらう約束をしていた日だ。出会い方が余りにも少女漫画的なベタな始まりだったので思わずデートと妄想を膨らませてしまったことに反省。そんなことより今日は随分と――
「洋子さん髪型かえました?短いと素敵な笑顔が映えますね。それに私服もおしゃれなのですね」
可愛らしかった。【あみりんご】で働く制服姿の洋子さんも勿論可愛らしくお綺麗なのだが、私服の破壊力というのは何とも凄かった。たまたま昨日は美容院があったのか、髪も短くなっており、普段とのギャップの違いに思わず本音が漏れてしまう。
「あ、ありがとうございます。博人さんもカッコいいです」
「あ、ありがとうございます」
これは何というか、とても恥ずかしい。いい大人が「かっこいい」というお世辞一つで舞い上がり言葉が出なくなるほど頭が固まるなんて思いもしなかった。
「そ、それじゃあ行きましょうか!日菜子ちゃんの携帯を買いに!日菜子ちゃんよりも帰りが遅くなったら困りますもんね!」
「そ、そうですね!僕のわがままに付き合っていただきありがとうございます!」
「いえいえ!で、では行きましょうか」
頭が固まっていたのはどうやら洋子さんも同じだったらしく、お互いに空回りしている感じが否めない。ただ、自分だけではなく洋子さんも緊張しているんだと知ることが出来ちょっと安心。
「そういえば今の子達ってみんな携帯を持っているんですね、僕知りませんでしたよ。」
「えっ!そうなんですか!?私も知りませんでした。今の子は進んでいるんですね」
「僕たちが小さいころだと考えられないですよねー」
「あはは、確かに。でもあの頃は携帯が出たばかりですから仕方ないですよ。」
他愛もない話をしながら歩くこと数十分、いざ話してみれば初々しいカップルのような様子は姿を消し、長年付き添った親友に話しているような気楽さを覚える。ここで夫婦という言葉を思い浮かべるのは失礼だろうか、いつかそんな関係に慣れればな――なんて烏滸がましいか。ただ、こんな人となら同じ時を過ごしてもいつまでも楽しいのだろうな。
「博人さんー?」
「わっ、ごめんなさい」
「考え事ですか?」
「い、いやーあのーそのー」
「あっ、今になって私じゃ不安になったなんて言わないですよね?」
「そんなことないです!!」
「ふふふ、良かった」
幸せな妄想に深く浸りすぎていたのか、上の空になっていたようだ。まさか「洋子さんと結婚出来たらこんな楽しい日々が続くのかな」なんて口が裂けても言えない。でもその笑顔は反則だと思う。
――
「いらっしゃいませー」
特に日菜子ちゃんは拘りが無いみたいだったので、博人と同じ店で購入することに。
「博人さん!これこれ、この機種とかどうですか?一世代古いタイプですが使いやすそうですし、お値段もそこまで高くないですよ。しかもカラーバリエーションも豊富です。」
「確かによさそうですね、この隣の物とはなにが違うんですかね?」
「ん?隣ですか?あーこれは大きさが違うだけですよ!性能自体は同じです。」
確かに説明は同じで大きさだけが違うようだな。にしても僕の手で丁度いい感じのサイズかな?となると日菜子ちゃんだと少し大きいか
「あれ?これは僕の使ってる携帯と違いますね。洋子さんと同じ機種?」
「そうですね!博人さんのでもいいと思ったんですが、後ろ見てもらってもいいですか?」
「後ろ?」
「ほら、私の携帯と比べてください。」
「あっ、カメラのレンズ?が3つありますね」
「そうなんです!やっぱり女の子は写真が好きじゃないですか、私の使っている機種のほうが写真映りがいいのでどうかなーと思いまして」
「な、なるほど!確かに写真のことは考えていませんでした」
「博人さん写真あまり撮らなそうですもんね、ライブラリ見せてもらってもいいですか?」
別に拒否することもないのでパッと見せたのだが、会社での納期をメモしたスクリーンショットや、やる事リスト、資料作成のための資料など仕事に関わるデータしか出てこなかった。
「あー、こんな感じですね。お恥ずかしい」
「す、すごいですね。よくお仕事されている方だと思っていましたがここまでとは。お身体気を付けてくださいね」
「はい、十分に気を付けます」
「「ははは」」
自分の体調管理不足によって一度、とんでもないご迷惑をお掛けしたのだが今はこのように弄りのネタにされるくらい「昔こんなことがあったねー」のような流れになっている。
しかし、洋子は笑い合ってはいるものの博人のことを本気で心配しており、機会があれば弄りのように見せかけた本気の心配をしていて、目や表情で訴えているのだが如何せん元が可愛らしい(博人目線)顔をしているため、少ししかめたところでかわいい顔が崩れることはなく本気の心配は博人には届かないのであった。
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