第15話 お母様

「ごめんなさい博人さん、母がはしゃいでしまって。」

「いえいえ、直接お礼も言えましたし良かったです。なんというかパワフルなお母様でしたね。」

「いつもは頼りになるんです――ほんと、お恥ずかしい」

「ははは、確かに頼りがいのあるかっこいい方でしたね!それはそうと、改めて連絡先の件なのですが、是非お願いしてもよろしいですか?」

「えっ!いいんですか?」

「勿論です。寧ろこちらからお願いしたかったですよ。中学生の女の子ですからね、男の僕じゃわからないことがありそうで、多分今も気を遣わせちゃってる部分もあるのでしょう――女性の目線があるのはほんとにありがたいです。お願いできますでしょうか?」

「はい!勿論です!いつでも連絡してきてくださいね!」

「ははは、ありがとうございます」


 アップルパイを買いに来たつもりが、綺麗で可愛らしい店員さんの連絡先をゲットしてしまった。

あの、お母様――娘さんからは見えてない角度ですが後ろからサムズアップするのは辞めてください。ほんと、洋子さんに釣り合うだなんて思うほど自惚れてないです。育児の相談をお願いしたいだけなんです。その意味ありげな笑みはどのような意味がおありなのでしょうか?


「これがメアドです。おーい?博人さん」

「はい!?あぁ、これで大丈夫ですかね?」


 お母様に翻弄されているところで洋子さんを不審に思われてしまった。慌ててアドレスを確認し確認用のメールを送ってもらった。


 あれ、日菜子ちゃんって携帯持ってたっけ?番号は紙に書いて渡したけど、これは不味いな、気軽に連絡が取れないじゃないか。明日買いに行くか


「どうなさいました?」

「いえ、日菜子ちゃんが携帯を持っていないことを思い出しまして。明日買いに行こうかと」

「洋子、貴方も付いていってあげたら?博人さんの持ってる携帯結構古いやつでしょう?携帯電話の良し悪しはともかく女の子の好みの近くを選べるのは洋子が適任だと思うのだけれどどうかしらね?」


「「!?!?」」


 これって所謂デートなのではと脳内に悪魔が囁くが、頭を振って煩悩を振り払う。洋子さんが顔を真っ赤にしているのはきっと恥ずかしいからに違いない。自分はおじさんで、洋子さんは若い女性だ。と自身に言い聞かせ気持ちを落ち着かせる。それにお母様はとても悪い顔をしている――いやいい笑顔なのだがそれは悪い顔だ、冗談で揶揄っているのだろう。

 未だ娘を揶揄うお母様はとてもいい笑顔をしていらっしゃる。あぁ、おじさんと娘で遊ばないでいただきたい。


「そ、その私で良ければ付き合いますが――」

「え、いいんですか?それはとても助かるのですが」


 悔しいが翻弄されっ放しである。嬉しいが冗談ではなかったのかと疑いの気持ちは晴れない。きっとお母様がいるこの状況では疑いの気持ちは残ったままになるだろう


「その、有難いのですが後でメールしてもよろしいでしょうか」

「そうですね、後で話しましょう」


 と、お母様には申し訳ないのだが洋子さんと小声で相談した。


「おや?そこでこそこそどうしたんだい?年寄りを除け者なんてお母さん悲しいわー」

「「いえいえ、そんな!」」


 ニヤリと口角を上げた姿をしっかりと見ました。聞こえていたんですねお母様――


 これ以上言葉を重ねても揶揄われるだけだと判断し、アップルパイのおすすめについてお母様に質問した。逃げの質問である。

 どうせこれ以上戦っても負け戦は確定しているのだ、長引かせたところでこちらの傷が増えるだけ、負けは認めてますので見逃してもらえると助かります。


 洋子さんの手助けもあり、シンプルなアップルパイを2つと入院したときに試食させてもらったアップルパイを1袋頂いた。これからも洋子を宜しく頼むわねとサービスして頂いた。ただでは見逃してくれないお母様、次回来る時がほんのちょっと怖くなってしまった。


「「ありがとうございました」」


 さぁ帰ろう。日菜子ちゃんが帰宅する前に

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