第11話 親戚の女の子
母からの電話があった2日後、すぐに引き取ることになったため引っ越し業者と日菜子ちゃんが来る予定である。流石に早すぎないか!?と内心焦っていたが覚悟を決めたのだからと、気を引き締めて来る時間まで部屋を掃除していた。
ほんとに仕事休みでよかった
ピンポーン
「はーい」
覚悟を決めても緊張はするもので、家のチャイムに胸が高鳴った。声も若干上ずってしまうが努めて冷静に扉を開けた
「あ、あの近藤日菜子と言います。博人さん私を引き取ってくださりありがとうございます。これからよ、よろしくお願いします。」
扉の先にいたのは何とも可愛らしい少女であった。艶やかな髪質や、健康的な肌を見て大切に育てられてきたことが一目でわかる。わかってしまう故に心が痛むが表に出さぬよう気を付けた。
「うん、よろしくね日菜子ちゃん。僕のことはおじさんでいいから、わからないこともあるだろうし気軽に聞いてね」
「は、はい!」
「先に荷物入れちゃおうか、入って奥の右の部屋わかる?あそこ日菜子ちゃんの部屋だからね。ベッドはないって言ってたから入れてあるけど、動かしたかったら業者さんに言えば動かしてくれると思うからね」
「あ、ありがとうございます!」
たどたどしい言葉遣いだ、おそらく緊張しているのだろう。初めて――でもないが、赤ちゃんの頃以来の会合だがその様子が手に取るようにわかった。何かして緊張をほぐしてあげることは出来ないか、博人は思考を巡らした。されど良き案は何も浮かびやしなかった、寧ろ考え込む姿を見て緊張の色を強める日菜子ちゃんが目に映る。
「これはどちらに運べば?」
失敗した、挽回せねばと思うも時すでに遅し。引っ越しの業者さん方の邪魔が入り挽回も何もできぬままその場を切ってしまった。
「それは彼女の部屋にお願いします。えぇ、入って奥の右にある部屋です。お願いします。」
「わ、私も手伝います!」
行ってしまった、日菜子ちゃんに聞こえぬよう小さなため息を吐き自分の情けなさを悔いた。しかしまだ初日である、ゆっくりと仲を深めていけば良いではないかと自らを激励し引っ越し準備に手を貸した。
「えっと、これで全部?」
「はい、おじさんも手伝ってくれてありがとうございました。」
引っ越しは大体一時間もしないうちに全て終わってしまった。大きな荷物もなかった為か家を傷つけない為のシートを張ることもなく、ただ淡々と段ボールを運ぶだけで引っ越しとは思えない程荷物が少なかった。日菜子ちゃんに事情を聞くと、ただ単に自分の物が少ないことだと返事が返ってくる。加えて
「母子家庭で、母の収入も多いとは言えず生活費でギリギリだったので。自分の部屋があるのも驚きました。憧れだったんです――でもおじさんの部屋だったのにごめんなさい。」
と何とも大人びた回答に困惑した。咄嗟に気にしないでいいんだよと返すが、どこか申し訳なさそうにする表情が取れることはなかった。日菜子ちゃんはとても優しい性格をしている、会って間もない大人がそう感じたのだからその通りなのだろう。だからこそ施しを手放しで喜ぶことが出来ないのだ、しかしそんなことが分かったところで博人にはどうすることもできない「気にしないで」とサラッとした当たり障りのないフォローを入れた後見ないふりをした。
「これで全部ですね?間違いないっすか?」
「はい、大丈夫です。ありがとうございました。」
「それでは失礼しますー。」
業者が博人の家を発った瞬間、2人の間に静寂が訪れた。気まずさを紛らわすために話そうと言葉を発すると2人の声は被る。目線を合わせることもできない、まるで付き合いたてのカップルのような動作に気まずさが増していくのを感じていた
「あー、とりあえず日菜子ちゃんのこれからについて聞きたい事や決めたいことがあるからリビングで話そうか、日菜子ちゃんもおじさんに聞きたいこともあるでしょ?」
このままではまずいと、少しばかり強引な手段ではあるが言葉を続けつつリビングへと向かった。当然日菜子ちゃんは雛鳥のように後ろからくっついてくる、こんな強引な方法しかとる事の出来ない自分に情けなさを感じつつも、気まずさが流れたことに安堵した。
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