第5話 習慣

それから【あみりんご】に行くことが習慣になった、会社からの帰りに必ずアップルパイ専門店【あみりんご】へ寄り店員さんのおすすめを聞き、シンプルなアップルパイとおすすめを買った。


ふわふわのパイ生地にソースが掛かった「ふわリンゴパイ」

ウサギを模した形で、両耳が異なるリンゴ味の「うさりんごパイ」

フランスパンのように細長い「ロングアップルパイ」

リンゴがまるまる入った「贅尽くしリンゴパイ」

 もう何もかもが美味しかった。店員さんからはすっかり常連さんですね、嬉しいですと言われたが、もう【あみりんご】のファンになっているのだ。それにまだまだ食べていないアップルパイだってあるし、新作も楽しみにしててくださいなんて言われてしまったので、増々通わなくてはならない。

 一度だけ、昼休憩中に会社を出て【あみりんご】に行ったときは自分でもその行動力に驚いた。亮太も会社から出ていく僕を見て目を真ん丸にして驚いていたっけ、あれは面白かった。会社で食べるアップルパイは相変わらず美味しかったけどピシッとした顔を維持するのが大変だったよ、一度口に入れるとその都度にやけそうになってしまうのだから、その日の仕事はいつも以上に頑張れた気がしたけどやっぱりアップルパイは人目を憚らず頬張りたい、苦渋の決断であったがそれ以降会社で食べることはしていない。

 たまにならいいかなと思っているのは内緒だ。


「あ、お客さんいらっしゃい!今日はカスタードアップルパイがおすすめですよ!」

「じゃあそれと、いつものを貰えますかな?」

「はーい!今包みますね」


「いらっしゃいませー!あ、お客さん!今日は何と新作が出たのです!」

「おぉ!前から言っていたやつですね!」

「はい!リンゴソースを練り込んだパイを一口大切って、小さく切ったリンゴを乗せたものなんです!デザートではなくお菓子みたいな感覚で食べれますよ、一口大なので机も汚れません!どうですか!?」

「買った!」

「ふふふ、ありがとうございます。そういうと思って包んでおきました!サービスでちょっと多く入っているので楽しんでくださいね!」

「わっ、ありがとうございます!とても嬉しいです!」


「いらっしゃいませー!うん?浮かない顔してどうなさいました?」

「それが、前回買った片手間リンゴパイを職場で食べてたら、同僚や部下に取られてしまいまして2つしか僕の口に入らなかったんです」

「あらら」

「ははは、会社に甘く美味しそうな匂いを充満させ、自慢した僕が悪いんですけどね。なので今日は片手間リンゴパイを2袋、あといつものください」

「かしこまりました、2袋ですね?」

「えぇ、前回食べれなかった分も食べたいので!」

「あはは、ありがとうございます。はい、こちら商品です。食べられないように大事に持って帰ってくださいね」

「はい!」


「いらっしゃいませー!」

「おぉ、ここか!」

「お客さんと、お友達さんですか?」

「あぁ、同僚です」

「こいつがめちゃくちゃ美味しいリンゴパイくれたから俺も買おうかと思いまして」

「片手間リンゴパイを集ったその一人です」

「持ってきた博人が悪い」

「あはは、仲がよろしいんですね」

「まぁ、唯一の同期なので」

「そうですか、道理で」

「店員さん!俺よくわからないんだけどおすすめあります?」

「初めていらしてくださった方はシンプルなアップルパイをおすすめしてます!とっても美味しいんですよ!味には自信があります」

「期待してくれていいぞ亮太、個々のアップルパイは日本、いや世界一だよ」

「そんなにか!?じゃあそれ一つ!」

「店員さん、僕は一番大きいホールのアップルパイをください」

「おっ、流石常連食べるね~」

「違うよ、会社の人に配るの。それに亮太一つじゃ絶対後悔するから」

「???」

「アップルパイ一つに、大アップルパイ一つですね。こちらになります」

 案の上一つでは足りないと喚く亮太にアップルパイを上げることになった。会社の人にもアップルパイの美味しさが知れ渡り亮太のように博人と【あみりんご】へと買いに行く姿が会社内で密かな話題になっていたという。また、落ち込んでいる部下を励ます時にアップルパイを差し入れすることから、会社内ではアップルパイのことを精神回復剤と呼称するように。家族のお土産や取引先の手土産、パーティのデザートでも買うようになり博人の周りで【あみりんご】のアップルパイは徐々に広がっていくのであった。


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