第7話 ageチン先輩と幽霊奥様の馴れ初め
私の知人にageチンのB専男がいる。
顔面偏差値はそれほど高くはないが、何でも卒なくスマートにこなす雰囲気イケメンである。
ageチン先輩と彼の奥様の慣れ初め話だ。
知り合ったのは、専門学校時代で派遣とバイトのWワークをしていた時だ。
バイト先のリーダーがageチン男で、趣味がホラー話という事で意気投合した。
高校生の頃に無理矢理誘われて合コンで付き合った彼氏が最悪だったためか、三次元で彼氏は要らないという思考を持っていた。
だからか、ガツガツしてない雰囲気にageチン先輩も可愛い後輩として接してくれていた。
彼女の座を狙う女性は多く、私をさりげなく防波堤替わりにしていたので、給料日前によく飯を集っていたものだ。
ageチン先輩だが、女性の趣味は同じ同性からしても宜しくない。
歴代の彼女は、全員がお世辞にも可愛いと言えない。
はっきり言うと、歴代彼女達はセンスの欠片もない根暗女子だった。
付き合って三ヶ月経つ頃には、全員が痩せて小綺麗になり、美人と言っても遜色ないくらいの魅力的な女性になる。
その頃には、彼女の方がモテ始めだしてageチン先輩へ関心が薄れて捨てられるパターンを見て来た。
振られる度に、
「付き合った頃の方が可愛いって言ったら、また別れを切り出された。引っ越しして、心機一転しようかな……」
と毎回振られる度にファミレスで愚痴を聞かされる。
そりゃ、ageチン先輩の彼女という立場を守ろうと努力して生まれ変わった彼女達を褒めずに、前のままが良いとほざく男を見限って当然だ。
口には出さないが、毎回振られる度にファミレスでタダ飯が食えるのでアドバイスはしなかった。
「私ちゃんが、体重あと三十キロあったら交際を申し込んでたのに」
本気か冗談か取れない馬鹿げたことを宣った。
「アホか。三十キロも太ったら、七十五キロやぞ。BMI値で肥満2度のラインに突入しとるわ。成人病発症させたいんか?」
「だって、趣味が合って長続きしそうなのが私ちゃんくらいしかいないんだよ。顔は好みじゃないけど、妥協するならって話」
などと、失礼極まりないことを言ってのけた。
専門学校を卒業したら、出版関係の仕事に就くつもりだたので、バイトも辞めるつもりだ。
この際ageチン先輩も切ってしまおうかと、この時は本気で思ったくらいだ。
そんなやり取りをしていた矢先に、弟経由で自称占い師の秘書さんからお願いという名の依頼が来た。
都内某市のマンションで、自殺した女性を引き取って欲しいと私にお鉢が回ってきた。
「引き取れって、私は一般人やぞ。何で愚弟が勝手に承諾しとんねん」
「丁度、皆出払っていて行ける人が居ないから俺にお鉢が回ってきたんだよ! 最初は断った!!」
「建て前は良えから、本音は?」
「最新のノートパソコンに釣られました」
「だから、お前は一生愚弟や! 物で釣られんなぁぁ!」
ゴキブリを潰したスリッパで、弟の頭を思いっきり叩いた。
スパンと良い音が鳴ったよ。
「姉ちゃん、地味に痛いから止めて!」
「私を連れてったとしても、幽霊が消える保証はないで。どうすんの?」
「姉ちゃんは、行くだけで良いって秘書さんが言ってたから大丈夫。姉ちゃんで無理なら手を引くって」
「ふぅん」
私に旨みは無いが、秘書さんには間接的にお世話になっているので幽霊マンションへ行ったさ。
勿論、交通費は弟に出させてな。
マンションを見ただけで、吐き気と頭痛が襲ってくる。
「うん、無理。ここに立ってるだけで気持ち悪い」
「姉ちゃんでも駄目か。秘書さんには、そう報告しとく」
弟は大きな溜息を一つ漏らし、最新のノートパソコンがとぼやいている。
「そうしてや。てか、あのマンションで何があったん?」
「痴女のもつれで女性がマンションの一室で自殺してから、入居者が不幸な目に遭うからお祓いしたかったんだと。告知義務の関係とだけ聞いてる」
「ん? 告知義務って一度入居したら、次の人には話さなくて良かったんやなかったっけ? 書類上だけ契約して一定期間住まなければ、告知義務はないやろう」
「ゲスいこと考えるなぁ、姉ちゃんは。姉ちゃんが思いつくなら、多分試して無駄だったから依頼してきたんじゃない? まあ、知らんけど」
「因みに、問題の部屋って幾らなん?」
「全部込みで二万円、通常は八万弱だよ」
通常価格から八割引きしても入居者が現れないのは、確かに物件を扱っている管理会社としても悩みの種だろう。
「私らの手に負えんから帰ろう」
私は、弟の背中を押しながら帰路についた。
数日たっても、幽霊マンションのことが頭から離れない。
どうしたものかと悩んでいたら、ageチン先輩に声を掛けられた。
「最近、ミスばっかりだな。何かあったのか?」
「ageチン先輩って、幽霊信じます?」
「何? オカルトな話? 居たら面白いと思うけど、実際見た事ないから信じてない」
ageチン先輩の返事を聞いて、私は幽霊マンションの話を掻い摘んでしたら、
「あの立地でその価格なら、俺住みたいわ」
と言い出した。
止めとけと忠告したのだが、ageチン先輩の行動力を舐めていた。
翌週には、部屋を契約して颯爽と引っ越しまでしていた。
幽霊と同居した経験を生かして、酒とつまみは毎晩欠かさずテーブルの上に置いとけとだけ忠告しておいた。
どれくらい持つだろうと思ったら、ageチン先輩は不幸になるどころかバイトリーダーから正社員になり、少額だが宝くじに当たったりと幸運が舞い込んでいた。
それとなく聞いてみると、初日から幽霊が出たという。
幽霊の方も最初は追い出そうと一通りの霊障を起こしたが、それすら楽しむageチン先輩に業を煮やして枕元に立って出たら、ageチン先輩が幽霊に一目惚れして口説きだしたという。
女の趣味が変わっているとは思っていたが、守備範囲が広すぎではなかろうか?
今では、仲睦まじいカップルになっているとのこと。
この事を弟に報告したら、後日秘書さんからお礼の品を貰った。
家賃の値上がりで一悶着起こすのだが、それは別の話。
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