第4話 S山キャンプ場
現代の学生が体験しているかは分からないが、私の学生時代には修学旅行とは別に林間学校というものが存在した。
学校によっては、林間合宿・林間学舎・臨海学校など様々な呼ばれ方をしている。
これは、私が小学生の頃に体験した話である。
基本的にどの学校も、毎年同じ場所を使うのが通例となっているだろう。
私の学校は、日本海の某市に訪れ二泊三日過ごすというものだった。
ある年からは、とあるキャンプ場へと変更された。
キャンプ場にはバンガローが沢山あり、屋外プールや登山も出来る。
子供ながらに、学校行事ではあるがプチ旅行にワクワクしたのを覚えている。
宿泊先のバンガローを見た時に、私は嫌な感じがした。
日当たりも悪く、ジメッとした何かが身体に巻き付いてくる感じと表現すれば良いだろうか。
一つのバンガローの中が広くても、この場所だけは勘弁して欲しい。
そう思うくらいには、嫌なものを感じたのだ。
「私ちゃん、他のと比べて私らの泊まるバンガローってなんか気持ち悪くない?」
友人のAちゃんに言われて、
「うん。せやね」
と返すのが精一杯だった。
「そこ! 変なこと言って、周りをビビらせるの止めなさいよ!! 単に日当たりが悪いから、そう見えるだけでしょう」
私達のやり取りに、班長がギロッと睨んでくる。
ただ気持ち悪いねと話していただけで、怒鳴られるとは思いもよらず私は呆気に取られた。
「誰も幽霊がおるとか言ってへんで。ただ、気持ち悪いなって話してただけやん。何で、そこまで怒んの?」
「私さんが、そういう事を言うから皆が不安になるからでしょう! 荷物を置いたら、下の集合場所まで移動しないといけないんだから、早く中に入ってよ」
と訳の分からない逆ギレをかまされた。
班長に急かされてバンガローの中に入る。
きちんと管理されているだけあって、中はそれなりに綺麗だったが一番奥の窓辺りが空気がどんよりしている。
あの場所で寝るのは嫌だなと思っていたら、Aちゃんも同じことを思っていたようで、
「私、手前の方が良いな」
と言っていた。
「一人一人要望聞いていたら、きりがないわ。奥から出席番号順で並んで寝るの」
と班長に勝手に決められてしまった。
入口からB・C・私、私の向いがA・D・班長となった。
頭が向き合って寝る形を取る。
寝るスペースは十分確保出来ているが、私もAも一番嫌な窓際にされてしまった。
「私、トイレ近いねん。入口の方が、良いんやけど」
「このバンガローからトイレまでどれだけ離れていると思ってるの。寝る場所を変えたところで、物理的な距離は近くならないわよ」
と一蹴されてしまった。
そうなんだけど人の意見も聞けよと、この時ばかりは怒鳴りつけたい衝動にかられた。
結局、私もAも窓際の一角から逃げ出すことは出来なかった。
ただ嫌な気配がするというだけで、お化けを見たわけではない。
私は気持ちを切り替えて、林間合宿を満喫することにした。
バンガローは、山の傾斜面に沿って建てられている。
私の泊まっているところから集合場所になっている自炊場まで歩いて十分くらいの場所にある。
海水浴で見る簡易シャワーユニットや、工事現場でよく見るトイレが一ヵ所に固まってあった。
「トイレ行くにしても、この道を歩かなあかんのか……」
「私ちゃん、もし夜中にトイレに行きたくなったら起こして良い?」
「構わんで。私の時も一緒に来てくれる?」
「うん」
他愛もない約束だが、初日から見事に破られてしまうとは、この時の私は知る由もなかった。
その日の夜、夜中にトイレだけは行かないようにしないとと意気込んで寝る前にトイレを済ませたが駄目だった。
時刻は多分一時か二時くらいだと思う。
尿意で目が覚め、約束通りAを起こそうと声を掛けたが、起きる気配が無い。
ハンガローを出て、懐中電灯で足元を照らしながら歩いて十分の簡易トイレまで行った。
簡易トイレの辺りは、明かりがついており教師が自炊場で酒盛りをしている光景にちょっと安堵した。
あの暗闇を歩いてハンガローに一人で戻りたくないと思ったものの、そんなことを言えば揶揄われて話のネタにされるのは分かっていたので、恐怖を押し殺しながら戻った。
月が出ているのに、足元を懐中電灯で照らさないと見えない暗さと虫の鳴き声一つしない静けさが怖かった。
ハンガローに戻り、自分の寝床を懐中電灯で照らすと窓の外に人の姿があった。
こちらを除くように、両手を窓にくっつけている。
私は、驚いてしまい懐中電灯を落とした。
慌てて拾い上げて、懐中電灯をつけようとしたが落とした衝撃で壊れてしまったのかつかない。
もう、涙目である。
慌てて鍵を閉めて、自分の布団を頭から被り、寝ようとするが恐怖が勝って眠れない。
ハンガローの気温はドンドン寒くなる上に、窓の外の気配が増えているのに気付く。
心の中で南無妙法蓮華経を唱えるも、全然効果がなく嘲笑うかのようにハンガローを叩く音や笑う声が聞こえて来た。
これが後、もう一日あるとしたら耐えられない。
その時の私は、恐怖よりも怒りが先に頂点に達して思わず窓を開けて怒鳴っていた。
「人が、必死に寝ようとしている時にギャーギャー五月蠅いわ! 去ね!! 騒ぎたいなら下に酒盛りしている大人のところに行けド変態」
言いたい事を言ってピシャリと窓を閉めると、その後は嘘のように静かになった。
嫌な感じは相変わらずあるものの、二日目にソレが私の前に現れることはなく、林間合宿は無事に終わり帰路に戻った。
結局、窓から覗いていた人影は何だったのだろうか?
大人であっても大柄でないと、ハンガローの窓から中を覗くことは出来ない。
林間合宿から戻って数名の生徒が体調を崩して学校を休んでいたが、私には何も起こらなかった不思議体験である。
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