第2話 鳴りやまない電話

 私は、こらえ性がなく色んな仕事に就いてきた。

 そして、勤め先では必ずと言っていいほど霊障が起きる。

 見えないが、居るなと匂いや肌で感じるのだ。

 神様や仏様がいると思っているように、幽霊の存在も信じているが特別怖いとは思わない。

 世の中には、質の悪いものもいるようで冷っとした経験は何度かある。

 これは、都内の某区オフィスビルで事務仕事をしていた頃の話だ。

 その会社は、新館と旧館があった。

 基本的に社員は新館で仕事をしており、派遣が旧館を使う形を取っていた。

 旧館は、建物が特別古いわけでもないのにビル全体から気持ち悪い空気を纏っていた。

 入社して次の日には人が辞める職場なので、私は人の出入りには頓着していなかった。

 働き始めてから、おかしな決まりが幾つかあった。

 ・本館への連絡は、個人携帯から行うこと。

 ・トイレは必ず本館を使うこと。

 ・非常階段は、非常時以外は使用しないこと。

 旧館にも内線があるのに、何故私用の携帯から電話しないといけないのかと首を捻ったものだ。

 トイレについては、面倒臭いので勝手に使っていたが、特別何か起こるということはなかった。

 非常階段は、使う機会が無かったので割愛する。

 私は、働いてから一度も内線電話を取ったことが無かった。

 鳴れば誰かが取ってくれると気楽に構えて、人に押し付けていた最低な社員である。

 だからか、気付くのが遅くなった。

 その日は、旧館の作業室に私一人しかいなかった。

 本館に社員はいるが、指示だけ出して逃げる様に旧館を去ったのを今でも鮮明に覚えている。

 最初は、黙々と会議で使う資料を作成していた。

 内線が鳴り出ても、無言で切れることが数回起こり、本館の社員に電話で連絡したら、

「絶対に内線が鳴るわけがない!」

と強い口調で言われて電話を切られた。

 納得は出来なかったが、そのまま仕事を続けていたら、また内線が鳴る。

 私は面倒臭くなったので、モジュラージャックを引っこ抜いた。

 これで静かに作業が出来ると思った矢先、今度は私の携帯が鳴った。

 本館からである。

 内線を取らなかったから電話をかけてきたのかと思って出たが、電話口からカヒューカヒューと変な音が聞こえてくるだけだった。

 なんやねん! と怒鳴りたかったが、無言で電話を切って携帯の電源をオフにした。

 しかし、今度は内線電話と携帯がどちらも鳴った。

 ここで、漸くこの異常事態に気付いたのだ。

 電話線をモジュラージャックから外しているので内線の電話が鳴るはずがない。

 ましてや携帯は、電源をオフにしたばかりだ。

 散々電話を取ったのだから、出ないという選択肢を取ったとしても意味は無いと思い内線を取って怒鳴りつけた。

「さっきからピーピーうっさいねん! こっちは、仕事しとんのや。静かにせいやクソがっ!!」

 咄嗟に出た罵声とガチャ切りで一時は静かになった。

 しかし、それはまた起きた。

 休憩時間は昼食を取って寝るのがお決まりのパターンになっていたので、今日も寝る気満々だったのだ。

 休憩室には、内線電話はない。

 携帯はオフにしたはずなのに、鳴り続けている。

 あまりにも煩いので、電池パックを抜いたが止まらなかった。

 流石に身の危険を感じた私は、本館の社員の元へ押しかけて文句を言った。

 すると、社員は顔面蒼白になりながら私に告げた。

「旧館の電話は、以前から使えない。電話が鳴るはずがない」

と。

 さっきの出来事といい、社員の態度を見て即日退社を申し出た。

 人が離れる原因は、多分旧館のビル自体に何か問題があったのだろう。

 その後、私がその場所を訪れることはなくなった。

 結局、あの会社がどうなったのかは知らないが、今はネットですら会社名を検索できないので潰れたのではないだろうかと思っている。

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