なんちゃって都市伝説
もっけさん
第1話 707号室の亡霊
大阪のN区に住んでいた時、約六年間、私は亡霊と共同生活をしていた。
その建物は八階建の高層マンションで、駅から徒歩1分なのにも関わらず家賃が通常の1/3だった。
契約した弟が、住み始めてから怪異現象に悩まされると相談を受けた。
まだ携帯にカメラ機能が備わっていなかった時代だ。
直接確かめないことには何とも言えない。
有給を使って隣県から尋ねると、霊感ゼロな私ですら【ヤバイ】と感じるものがあった。
一階は店が入っており、二階以降が居住区になっている建物だ。
弟の住む部屋は707号室で、エレベーターを使って上に登ると、七階を飛ばして八階で止まる。
故障か? と思ったが、問題の部屋に訪問したら空気が重かった。
「愚弟よ、何でこんな場所を契約したのさ。霊感の無い私ですら、寒気がするわ」
「敷金礼金なしで、即入居OK。加えて家賃が一万五千円で、三駅から徒歩一分圏内で行ける優良物件だぜ。契約しなきゃって思うだろう!」
「契約して、この様なら意味なくね? 上がるわよ」
部屋に上がると、白いソックスが煤を踏んだかのように黒くなった。
明らかにおかしい。
「愚弟、どうしたらここまで床が汚れるわけ。掃除してるの?」
「何度も雑巾がけしても、黒いのが着くからベッド買った」
クローゼットの前にベッドって……。
使い勝手悪くないのだろうかと思ったが、口には出すまい。
「バッカじゃないの。さっさと引っ越ししなさいよ」
「無理。お金無い。退去しようと管理会社に連絡したら、契約期間内だから満了までの料金貰うって言われてる。因みに二年契約だから」
「最低でも三十六万とプラスα分を払わないと駄目ってことか。諦めて、生活すれば慣れるだろう」
「無理無理無理!! 夜とか超怖いんだよぉぉお。姉ちゃん、何とかしてくれよ」
ベッドの上で土下座されて、私は考えた。
「私が住むから、お前は私の家に住め」
「姉ちゃんの家の家賃払えんから無理」
あれもこれも無理と言う愚弟に、私は思いっきり大きな溜息を吐いて言った。
「私がこの部屋に引っ越す。一緒に住んで金が貯まったら、別の場所に引っ越そう。直ぐに貯められるだろう」
「分かった」
そう、この時まではそう思っていた。
1Rに姉弟で住むという奇行に走り、五年も居つくとは思っても見なかったのだ。
私は、この部屋に住む幽霊をレイコさんと命名した。
引っ越し初日からレイコさんは、持て成してくれた。
冷水シャワーに真夜中のラップ音、TVの電源を入れたり消したりとやりたい放題だ。
ビビる弟を他所に、私はキレた。
「鬱陶しいわ、クソが!! 人が気持ち良く寝てる邪魔すんな。後、人がシャワー浴びてる時に湯沸かし器のボタン消すんじゃねぇ。次やったらマジで祟るぞ」
私の怒号に、霊障がピタッと止む。
「大人しくしとけ、ボケが」
と悪態を吐いたら、携帯が鳴った。
非通知は着信拒否設定にしてあるのに、何で電話が鳴るのか回らない頭で考えることが出来ずに取ったら、
「ここは、私の部屋だ。出ていけ」
と地を這うような低い女性の声が聞こえて来た。
「じゃあ、テメェが家賃払えよ!」
とツッコミを入れてしまったのは関西人の性かもしれない。
愚弟は、その間恐怖で気絶して大人しかった。
レイコさんの仕業は、これだけではない。
当時、インターネットがまだアナログ回線で料金が従量制だった時代。
私は、無線LANカードの段階従量制の料金プランでネットを楽しんでいた。
ノートパソコンで同人サイトをネットサーフするのが趣味だった私だが、レイコさんも私に毒されたのか勝手にネットサーフして通信料だけで十万越えの請求が来たことがある。
中二病臭満載のクソ長いパスワードを掛けていたので、愚弟の仕業ではないことは分かっていた。
流石に、毎度高額の通信費を請求されては堪らないので固定電話は休止し、無線LANカードの契約も切った。
半月に一回のペースで、おススメのBL本数冊と一緒にジュースとお菓子を置いておくと、霊障はピタリと止んだ。
愚弟には散々文句を言われたが、引っ越すまで一種の儀式として行っていた。
五年後、諸々の事情でS県に行くことになるが、レイコさんの霊障は可愛い方だったと思い知ることになる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます