第2話 セレア

「みんな…!」


目を覚ますとそこは先程までの光景は想像もつかない、天井が見える。木造の落ち着いた部屋、俺はどうやら昔の夢を見てたみたいだ。


あれから1年ほど経ち俺は16になった。未だに時々昔の夢に見る。



「また、うなされてたね…」


扉の方から心配そうに声をかけられる。

部屋に入ったばかりの、尖った耳にぱちりと大きく美しい瞳、綺麗な銀髪が特徴的なダークエルフの一族、美しい女の子のセレアが立っていた。


「心配させてしまってごめん。」

心配をかけたことを詫びる。おそらく寝言が部屋の外まで聞こえてたのだろう。


セレアとセレアの母、プレーナというエルフの2人は俺が堕天使と不気味に思われてることをわかった上で、俺を自分の子のように引き取って一緒に過ごしてくれている、世界一愛する人達だ。


「ううん、そんなこといいから、それよりも大丈夫…?」

優しい言葉をかけてくれるセレア。

正直なところ、今にも吐きそうな気分だ。

だけど、心配ばかりかけるわけにもいかない。


「大丈夫だよ、それより今は何時かな?朝ご飯作るから…」

「いやいや今は安静にしてて?今日は私とママで作るから!寝てて!寝てて!」

体調のことを察したのか、セレアは肩をポンポンと俺をベッドに横になるよう促した。


「ありがとう、じゃあもう少し横になっとこうかな?」


30分ほど横になってみると、また部屋の扉をゆっくりと開けてセレアが来てくれた

「どう?食べれそう?」

「余裕だよ!むしろお腹は減ってるから!」

実際お腹は減ってるし、身体は元気な気は…する。


「おはよう、お母さん」

「おはようソル、大丈夫なの?」


リビングにはもうテーブルに朝食が用意されている。

セレアが説明してくれたおかげで母が開口一番心配してくれた。


お母さんはセレアの魅力的な部分をさらに大人っぽくしたような美人だ。

エルフ族は人間と比べてもかなり老けにくいから美しい人も多いらしい。

気にかけてもらえると、心が安らぐような気がする。


マーガリンを塗ったパンに

香草スープ、ポテトサラダが用意されていた。

ポテトサラダ…大好物だ…

朝から元気が出るようにしてくれたのがわかる。


「今日もおいしい…」

「わかる、ママの作るご飯が1番美味しすぎるよ」

2人してついつい味の感想を漏らす。

いや、本当に美味い。

「ありがとう2人とも、好きな料理一緒だから献立考えやすくていいわ。」

母は優しい笑顔で俺とセレアの朝食を食べる姿を眺めている。

寝覚めが悪くてもどんどん食べ進められるほど、味付けも彩りも完璧だった。


食後には、剣とアイテム、ざっくりと確認をして任務の用意をする。

「さて、じゃあ2人とも行ってきます!」

「今日休んだ方がいいんじゃない…?」

家を出ようとする所を心配そうにセレンが止めてくる。

確かに目覚めこそ悪かったが、それくらいで

ぐうたら休む訳にはいかない気がする。


「いや、家のためにも少しでも働きたい。それに良い任務があるかもしれないから!」

こうは言ってるが俺は実際、狩猟や討伐等の任務には、あれ以来行けなくなった。


危機的な状況になった時、身体が動かなくなってしまう様になった。誰も「俺のせいで」死んでほしくない。

傷ついてほしくない。

怖くて仕方がない。


あの時、俺だけが無事に帰ってきたということが分かった後に、彼らのご両親は俺を罵詈雑言を浴びせ。「息子を返せ」「この疫病神め」「この場で自殺してくれ」と責め立てた。


当然だ。隊長として向かった俺だけがのうのうと生き延びて、自分の子が命を落としたんだ。腹立たしいこと仕方ないだろう。


今日の任務は、街で商人の荷運びだ。

こういった仕事は厚着をして羽や角を隠せば、仕事は案外出来るものがあった。

力も強いおかげで積み下ろしなどの肉体労働も苦ではなかった。


セレアも今日は共に仕事で街まで出て来ていた。

「今日は4件くらい治癒をお願いされたから、お昼過ぎにはここに戻るね!」

「うん、わかった。じゃあ昼食はここで済ませて買い出しもしておこうか。」


せっかくなので母の代わりに買い出しを済ませる約束をし、街の入口付近にある噴水を目印に約束をして、俺たちは仕事に向かう。


セレアはエルフ族ゆえに魔法が強力だ、

エルフは癒しの力を司る一族と言われている。だからセレアは回復魔法が得意ゆえに、医者のように怪我をした人を癒すことに秀でている。


「兄ちゃんありがとな、スラスラ運ぶからすげぇ助かったぞ!」

荷運びのペースが良いことを評価してもらいながら、雇い人のおじさんは少し賃金を増やしてくれた。

かなりこれは助かるな。

「いえ、良ければまた働かせてください」

「おう、頼りにさせてもらうわ!」

ご贔屓にしてもらえると任務の依頼にも困らないから、こうやってお得意さんを見つけるのは大事だ。


待ち合わせの噴水に置かれている休憩用の石に腰掛けているとセレアがこちらに駆け足で向かってきた。

「ごめん!おまたせ!」

「いやいや、全然大丈夫だよ」

「そんじゃ街、見て回ろ!」

機嫌も良いのが見て取れる足取りで、セレアは俺の隣を歩く。おそらく今日は儲かったのだろう。

俺も悪くない儲けだ、せっかくだからこの後の買い出しゆっくり楽しもう。


「あ!見てあのアクセサリーすごく綺麗…!」

ネックレスやピアスを並べる装飾品の専門店を見てるセレアは、服をグイグイ引っ張りながら

気に入ったアクセサリーを指差す。

「おぉ、俺もこういうの好きだなぁ。」


セレアが気に入ったアクセサリーは、

蝶々のネックレスと、ヘビを象ったピアスだ。

昔からそうだけど、セレアとは本当に気が合うんだ。


2時間ほど、2人で買い物を楽しんだ。

「そろそろ帰ろっか!」

「うん、帰って今日はカレーでも作ろうか。」

「え?マジで言ってる?!やった!」

カレーが大好きなのはよく知ってる。

というか俺も大好きだから食材を買ったんだが…

俺とセレアも十分に満足して、日が傾く前には帰ることにした。


街から外れて田舎道へと入ってゆく

セレアの家は、エルフ族の小さい集落。

その中から少し外れた場所にある家に住んでいる。

セレアの家はお世辞にも大きくはなく、場所もそれなりに田舎だった。だけど俺は温かくて大好きな帰る場所だ。


「ソルさ〜」

2人で帰路を歩いてるとセレアが口を開く

「どした?セレン」

「なんていうか、ソルとのこういう何気ない時間が、好き。」

「なになになに?急に?」


急な「好き」という言葉に驚いて、大袈裟に仰け反ってリアクションをしてしまった。

「う、上手く言えないけど。なんか好きでさ」

「いや、まぁわかるけどな!」

セレアは、コミュニケーション能力はかなり高いし、誰とでも話せる美人だけど、

たまに頬を赤く染めて照れる。

そんなセレアを見るのが俺は「好き」だ。


微妙に照れくさく気まずくなりつつ、集落の近くまで着く。

「あれ、なんか集落が騒がしい気がする。」

セレアが呟く。

「…たしかに、なんか事件でもあったのか…?」

翼や耳にかすかに、騒ぎのようなざわつきが聞こえてくる。

「とにかく集落に帰るぞ」

「うん…!」

2人駆け足で集落に戻ってみる。


そこに集落へ帰り、広がった光景は

赤く炎を身体に燃やすトカゲのような魔物

サラマンドラという魔物が暴れている光景だった。












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