これでぼくも、パープルに――!

 キーンコーンカーンコーン。チャイムが鳴ると同時に、ぼくは急いでランドセルを背負った。

「なぁ、すみれ――」

「ごめん、みぃちゃん! また明日!」

 ――みぃちゃんに呼び止められたけど、今日のぼくはそれどころじゃない。だってだって、レッドとブルーとグリーンが、ついにぼくのことを認めてくれたんだ! 今日の放課後、いつもの公園で、ぼくの「任命式」をやってくれるんだって! ぼくは真っ先に教室を出て、真っ先に門をくぐって、真っ先に公園に行った。


 ぼくが公園に行くと、レッドたちはベンチの近くで輪になって、ひそひそと話をしていた。ぼくの「任命式」について、三人で話してたんだって。

「それでは……、これより、ラベンダーパープルの任命式を始める!」

 レッドが大きな声でそう言うと、ぼくにむらさき色のジャージと、黄色のタオルをわたしてくれた。これでぼくも、レンジャーごっこの仲間入りだ!

「すみれ、今までよく頑張ったな。パンチやキックのキレもよくなったし、もう十分、ワルワル団の怪獣とも戦えるはずだぜ」

「ホントに、ブルーの言う通りだわ! すみれちゃんが立派になって、アタシも嬉しい!」

 ブルーとグリーンにいっぱいほめられて、ぼくはとってもうれしくなった。さっそくジャージを着てみると、ぼくのサイズにぴったりだった。

「それじゃあ次は、俺たちのアジトに行こう。アジトに足を踏み入れることができれば、君も晴れて、チチェレンジャーの仲間入りだ」

 レッドはぼくの手をぎゅっとつかむと、公園を出て、通学路の方に連れてった。路地裏にひっそりと建っている、ちょっとボロボロのアパート。一番上の部屋が、チチェレンジャーのアジトなんだって。

「ぼく、チチェレンジャーにアジトがあるなんて、ぜんぜん知らなかったよ。レッドたちは、レンジャーごっこをしないときでも、ここに集まってるの?」

「ああ、そうだよ。このアパートは、現実と夢をつなぐ、希望の扉なんだ」

 ぼくたちは階段を上りきって、一番上の部屋までやって来た。少し離れたところには、キラキラと光るドアがある。

「さぁ、すみれ。あの扉の向こう側が、俺たちの世界だ。思いっ切り、こじ開けるといい」

 そう言うと、レッドはぼくの手をはなした。ぼくはちょっとドキドキしたけど、大きく「うん」とうなずいて、ゆっくりとドアに向かった。ブルーとグリーンも、にっこりと笑いながら、ぼくのことを見守っている。

「すみれー! ドーンと飛び込めよ!」

「アタシたちも、すぐにそっちに行くからね!」

 ……このドアをくぐれば、ぼくもラベンダーパープルになれるんだ。あこがれの、ラベンダーパープルに――!


「だめっ!! 離れてっ!!」

 ――ぼくがドアを開けようとした、その瞬間。チチェレンジャーの後ろから、カトレアホワイトの声がした。

「目を覚ましなさい、すみれ!! そのドアを越えたら、死ぬわよ!!」

 ……このドアを開けたら、死ぬ? この先には、レンジャーのアジトがあるんじゃないの?

「喰らえっ! スーパーアルティメットインターナショナル……」

「ぎゃぁぁぁっ! 痛い! 痛いわよ、ブラックちゃん!」

 ……ガーベラブラックが、なぞのビームを打って、グリーンのことをいじめている。ホワイトとブラックは、ぼくがチチェレンジャーになるのを、止めようとしているの?

「現実を見なさい、すみれっ!! 私たちは、ただの幻なのっ!! どんなにすごい力を使えたって、現実を生きることはできないのよ!!」

「おまえっ……! それ以上、何も言うな!」

「うるさいっ! あなたは引っ込んでなさい!」

 ブルーのするどいパンチをかわして、ホワイトはぼくにかけよって来る。その前に立ちはだかったのは、リーダーのレッドだった。

「すみれ! ドアを越えなければ、ラベンダーパープルにはなれないぞ! 君の未来は、君自身で選べ!」

 このドアを開けなくちゃ、ぼくはチチェレンジャーになれない。ぼくは、ぼくは……!


「開ける」


「開けない」

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