?Vephantarusias?

 すみれを家まで送った後、私は戦闘のあった公園まで戻った。いつの間にか、怪獣の姿は消滅していて、真っ赤なジャージに蛍光色のタオルを巻いたレッドだけが、ぽつんと砂場の上に立っていた。

「……よくも、邪魔してくれたわね」

 私がそう言うと、レッドは冷たい顔をして、じろっと私のことを睨んだ。その表情は、正義のヒーローらしからぬ、ひどく残酷なものだった。

「あの怪獣、あなたが生み出したものでしょ? 私がすみれと二人っきりで話してるのが、そんなに気に入らないわけ?」

 電線柱に止まった烏が、カァカァと喉を鳴らす。辺りはすっかりとオレンジ色に染まり、金色の月が出始めていた。

「……正義のヒーローがいるところには、いつだって、対になる悪がいる。ヒーローが存在する限り、決して悪は滅びない」

 レッドは両手をポケットに突っ込みながら、足で砂をならしている。彼は言葉の裏側で、私たちが普通の人間ではないことを肯定していた。

「君だって、ホワイトの名を持つレンジャーなんだから、俺の言うことが分かるだろ? 俺たちは、子どもたちの憧れとなって、初めて存在することができる。だから俺たちチチェレンジャーは、子どもの前で怪獣を生み出して、子どもたちの前で倒す。それを『ごっこ遊び』ってことにしているのさ。……ね」

「……ええ、そうね。それは、あなたの言う通りだわ」

 公園を横切るサラリーマンにも、隅っこで立ち話をしている主婦にも、私たちの姿は見えない。私たちは、子どもたちに認められないと、存在することすらできない。だから私たちは、「レンジャーごっこ」をし続けて、みんなの憧れであり続けた……。

「……でもね、現実を生きる子こどもを、幻想の中でしか生きられないレンジャーにするのは、間違ってることだとは思わない? すみれがもし、チチェレンジャーの一員になったら、永遠に現実を生きることができなくなるのよ」

 私が言うと、レッドは少しだけ、表情を暗くした。だけどそれは、ほんの一瞬のことだった。

「すみれはラベンダーパープルになって、俺たちの仲間になることを望んでいる。ならば俺たちは、彼の夢を尊重するべきだ。……現実を生きることが正しいだなんて、君も大人みたいなことを言うんだな」

 ……彼の話し方は、まるで私が悪人であるかのよう。現実を見させようとする私の方が、よっぽどの悪人なんだって。

「いいか、これだけは言っておく。すみれはラベンダーパープルになろうと、一生懸命に努力しているんだ。彼の頑張りを無下にするようなことは、この俺が許さない」

 それだけ言うと、レッドはさっと木の上に飛び乗って、そのまま姿を消した。朝霧に紛れて消え去る、恐ろしい幽霊のように。

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