ぼくとホワイト、秘密の会話!
ぼくはぼうっと黒板を見ながら、算数の授業をうけている。もうそろそろ、学校も終わりの時間だ。今日もいつもの公園で、レッドたちとレンジャーごっこをするんだ。
「なぁなぁ、すみれ。授業が終わったら、河川敷で野球しよーぜ」
となりの席のみぃちゃんは、毎日ぼくに声をかけてくれる。みぃちゃんは男の子と遊ぶことが多くて、野球やサッカーが得意なんだって。
「ううん。ぼく、公園に行くようがあるから」
キーンコーンカーンコーンとチャイムが鳴ると、ぼくはランドセルを持ってろうかに飛び出す。早く公園に行って、レッドたちが来る前にとっくんをするんだ!
「ばいばい、みぃちゃん! また明日!」
「あっ、おい――」
――みぃちゃんは何か言いたそうだったけど、また明日話せばいいや。よーし、急いで公園に行くぞ!
団地の中の公園は、ぼくたちの楽しい遊び場。ぼくはいつも一番乗りで、後から来るチチェレンジャーのみんなを待ってるんだ。今日も、ぼくが一等賞。そう思ってたんだけど……。
「あれ? ホワイト?」
……ぼくが公園に行くと、シーソーに座ったホワイトが、ぼくのことを待っていた。いつも怪獣をやっつけるときにしか現れないから、何だかふしぎな感じだなぁ。
「……待ってたわ、すみれ。とりあえず、反対側に座って」
ホワイトは真っ白なパーカーを着て、真っ黒なカチューシャをつけていた。一緒にレンジャーごっこをするときは、フリフリの洋服を着てるのに。やっぱり、ふしぎな感じ。
「ホワイト、いったいどうしたの? もしかして、チチェレンジャーの仲間になりたいの?」
「いいえ、それは違うわ。……私はもっと、大切な話をしに来たの」
ぎーこ、とぼくが地面をけると、ぼくの体がふわっとあがる。ぎーこ、とホワイトが地面をけると、ホワイトの体がふわっとあがった。
「すみれのクラスに、みかんちゃんっているでしょ? いつも、河川敷で遊んでる子」
「みぃちゃんのこと? ホワイト、みぃちゃんのこと知ってるの?」
「ええ、まぁね。私、河川敷の近くが散歩コースなの」
ホワイトはそう言うと、ふぅっとため息をついた。……何だか、ちょっと、苦しそう。
「あの子ね、いつも友だちと遊び終えると、一人で河川敷に残って、大声でこう叫んでるのよ。『すみれのバカヤローッ!』ってね。だから私、気になって、直接事情を聞いてみたの。そしたら……、みかんちゃん、すみれと一緒に遊びたいんだって」
たしかにみぃちゃんは、毎日まいにち、ぼくのこと誘ってくれる。でも……。
「……ぼく、みぃちゃんとは遊ばない。パープルになるために、とっくんしなくちゃいけないから」
ぼくがきっぱりと断ると、ホワイトはちょっと怒ったような顔をした。地面をける力が、少しだけ強くなる。
「特訓なんて、一日ぐらい休んだって、全然問題ないでしょ。みかんちゃんは、あなたと遊びたいって、ずっとずっと思ってるのよ」
「ううん、ダメだよ! ラベンダーパープルになるためには、もっともっと頑張らなくちゃ!」
……ぎーこ、ぎーこ。ホワイトは口をへの字に曲げて、ドンドンと地面をけった。
「……いい加減にしなさいよ。私はね、現実を見なさいよって言ってるの」
ぎーこ、ぎーこ、ぎーこ。ぼくは何回も上にあげられて、ちょっと気持ちが悪くなる。
「ねぇ、すみれ。『レンジャーごっこ』とか何とか言って、本当の世界から逃げてちゃダメ。本当の世界で、本当に愛してくれる友だちを、ちゃんと愛さなきゃダメなの」
ぎーこ、ぎーこ、ぎーこ、ぎーこ。……ぼくは、ホワイトの言ってることが、よく分からなかった。だけど、どうしてだろう。思わず、耳をふさぎたくなった。
「お願い、すみれ。目を背けないで、ちゃんと見て。私たちは――」
――ぐうぉぉぉぉぉ!! ぼくの両耳に、怪獣の声が聞こえて来た。毛むくじゃらのゴリラの姿をした、とっても強そうな怪獣の声が。
「伏せてっ!」
ホワイトはばっと立ち上がると、すぐにしゅばっと飛び上がった。ぼくの心臓は、飛び出ちゃうほどバクバクしてる。……なんで? なんで? レンジャーごっこが始まる前の、ただのふつうの公園なのに、ワルワル団の怪獣が出てきちゃったよ!
「ホワイト! すみれを公園の外に逃がせ!」
ゴリラ怪獣の後ろから、かっこいいレッドの声がする。ぼくはホワイトにおんぶされながら、急いで公園を後にした。
「何で、こんなときに……!」
……ホワイトが息を切らしながら、ぼそぼそっと何かをつぶやいた。でもぼくは、ゴリラ怪獣に気を取られてて、ぜんぜんそれどころじゃなかった。
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